【短編】失われゆく少女と記憶

ゆきたか

プロローグ

「レミル、そろそろ行くぞ」



「はい、勇者様!」



 私の名前はレミル、勇者様に仕える魔法使いです。 得意なのは回復魔法、それとちょっとだけですが攻撃魔法も使えます。

 勇者様はとてもお強いので、私が攻撃に加わることは殆どありません……でした。


 でした……と過去形で言ったのは、魔王城の魔物が予想以上に強く、しかも数が多かったからです。

 1 対 1では無敵の勇者様も、あれだけ沢山の魔物に一度に襲い掛かられると大変です。しかも私を守りながら戦うとなると……


 なので私は、秘められた禁断の魔法……『記憶崩壊』を何度も使いました。


 記憶崩壊……この魔法は、術者に関する記憶を他者が失う事で、その効果を発揮する攻撃魔法。分かりやすく言うと、他者から忘れられる魔法。

 その力は術者自身の想いの強さに比例し、例えば家族・恋人と言った想いの強い存在から忘れられるほど、その効果を発揮します。


  村に住むみんな、幼馴染の親友、お父さん、お母さん、お爺ちゃん、おばあちゃん……今ではみんな私の事を覚えていません。寂しくないといえば嘘になります……が、私には勇者様がいます。

 勇者様がいたから私は笑顔を取り戻せた、勇者様がいたから私は前を向いて生きてこられた。 勇者様の記憶だけは、絶対に失わない。勇者様にさえ覚えていてもらえたら...私は生きていける……!


「助かったよレミル。まさかお前がこんな強い攻撃魔法を使えるなんてな。体力は大丈夫か?」


「はい!まだまだ大丈夫です。ただもう攻撃魔法を使うのは限界なので、魔王を倒すのは 勇者様にお任せします」


「ああ。任せておけ」


 私の前に広がる大きな扉。扉の奥から伝わってくる禍々まがまがしい空気……間違いない、この奥に魔王がいる。


 残るは魔王のみ。1対1なら、万全の状態の勇者様が負けるわけはない。大丈夫、大丈夫……

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