第2話:白金獣魔師は戦慄する
「——はっ」
気が付くと、俺は深い森の中にいるようだった。
美しい新緑の木々、色鮮やかに咲いた花々。雲ひとつなく冴え渡った青空。
そして、目の前には赤鱗の巨大なドラゴン——
「ガウルルルルル……」
完全に目が合ってる……ダメだ、死んだ。
いくらなんでもこりゃないだろ!? ありえないだろ!
自暴自棄になっていたのは確かだが、もう少し心の余裕というものが欲しかった——
「何してるんだ、ユート」
声がした方を振り向く。
そこには、ついさっき見た青髪の幼女が宙を浮いていた。
「お、お前は女神……! なんでここに!?」
「様子を見に来ただけじゃ。ただ一人の当たりである貴様をな」
「はあ?」
どう考えても外れだろう。何を言っているのかまったく分からない。
……というか、これどうすりゃいいんだよ!
「とりあえず落ち着け。貴様はただのテイマーではないだろう? 当たりらしく、一撃でテイムしてしまえばいい」
「テイム……?」
こんなやりとりをする間も、目の前のドラゴンは待ってくれない——
「ガウルルルルル!!」
「くっ……!」
俺は瞬時に一歩後退。間一髪で前足の攻撃を回避した。
足元がフラっとして、転げそうになった。なぜだか分からないが、意識が戻ってからというもの、視界がぼやけてはっきりしない。
眼鏡をかけてるはずなのに——んん? 眼鏡?
もしかしてハッキリ見えないのはこれのせいか……?
眼鏡を投げ捨てる。
視界がクリアになり、くっきりと赤鱗のドラゴンの全貌を拝むことができた。
なぜだか分からないが、視力が回復していたみたいだ。異世界に転送されたショックか何かだろうか?
ドガァァァァァン!
——それだけじゃない。
まるで、超高速で動くドラゴンがまるで止まっているみたいだ。
間違いなく動体視力がかなり上がっている。
女神が言ってたテイムってのは、
「こんな感じか————!?」
身体が自然と覚えているような感覚があったので、それを頼りにテイムとやらを使ってみた。
例えるなら、久しぶりに自転車に乗ったような感覚だ。
右手を突き出すと、俺の身体の中をひんやりした血液のようなものが駆け巡るような錯覚を覚えた。
「うおおおおおおお!!!!」
多分叫ぶ必要はないのだが、自然と声が出た——
赤鱗のドラゴンが強烈な光に包まれる。
光が晴れると、前足の部分にさっきまではなかったはずの白金色の模様が浮かび上がっていた。
と、同時にドラゴンの唸りは止み、ピタリと静止した。
襲ってこない……のか?
「ふむ、無事にテイムできたようじゃな。二度とこやつがユートを襲うことはないじゃろう。それどころかなんでも言うことを聞くぞ」
「マジかよ……一体どういうことなんだ? さっぱり分からない」
「それが貴様のジョブ——
「言ってねえよ!?」
っていうか、なんだLRって! そんなのなかっただろ!
「貴様らに見せたあの表には基本的なありふれたジョブしか載せておらん。ちなみに、あの表に載っておるジョブは全部雑魚じゃ。一流には程遠い」
確かに、あの表にNランクとして書かれていたのは『獣魔師』であって『白金獣魔師』じゃなかったのは確かだが……。
「ワシの仕事はこれで終わりじゃな。達者でやるんじゃぞ」
「ちょ、ちょっと待てよ。どこいくんだ?」
「聖域に戻るだけじゃ。たまに顔は出すがの」
「いや、まだ全然話聞けてな——」
シュン。
言い終わる前に、女神は跡形もなく姿を消してしまった。
これからどうすればいいのか、とか聞きたいことは山ほどあったんだが……。
茫然と立ち尽くしていると、野太い声が聞こえてきた。
さっきテイムしたドラゴンのようだった。
「ご主人様……私めに名前を」
「名前? ……っていうか、お前喋れるのか!?」
「左様でございます。ご主人様に名付けの儀式をしていただかないと、私の力を
共有……? なんだか分からないが、とにかく名前がないと困るということか。
「名前って、なんでもいいのか……?」
「ええ、なんでも構いません。ありがたく頂戴します」
「そうか、じゃあ……レッド……お前の名前はレッドだ。これでいいのか……?」
「レッド……素晴らしい名前でございます——」
その瞬間、レッドの前足に刻まれた白金色の紋様が煌めいた。
同時に、俺の中に溢れんばかりの力が流れ込んでくるのが分かった。
「な、なんだこれ……?」
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