第93話知らなかったのは私だけ

折れた肋骨もすっかり完治して激しく動いても今や少しも痛みは感じない。


そして今日訪れた水族館は私と真奈美が住んでいる今現在の県内では最大の水族館である。


と言えば聞こえはいいかもしれないがそもそも水族館自体が十個も二十個もある訳では無い為全国的に比べたらそこまで大きいという訳では無いのだが、それでも大人の私でも胸躍るくらいの魅力は確かにある。


大人の私ですら胸が躍っているのだがら真奈美からすれば胸躍るどころではないのかもしれない。


そして真奈美のテンションが以前行った動物園よりもテンションが高い気がするのはお父さんといっしょだからか、子供と水という最強(最凶でもある)の組み合わせだからなのか、その両方か。


兎に角これまでにない程真奈美は水族館へ入る前から大はしゃぎである。


「あら、偶然ですわね。実は本日わたくし達もこの水族館に来る予定でしたのよ?こんな偶然もあるのですわね」

「そうですね、まさかこんな所で同じ保育園の利用者さんと鉢合わせするなんて、凄い偶然だなぁー」

「………へ?え?………偶然?」

「ええ、偶然ですわ」

「偶然ですね」


そしていざ真奈美と元夫で水族館へ入ろうとしたその時、小太りマダム夫婦と達也君の親御さん夫婦からたまたま偶然鉢合わせした様な体で声をかけられる。


小太りマダムも達也君ぱぱさんも二人そろって『偶然』だと言うが、こんな偶然があってたまるものか。


そして少し離れた所へ移動して小太りマダムの夫と私の元夫、達也君パパさんの奥さんが互いに名刺交換して、頭をペコペコしている姿が目に入ってくる。


因みに達也君パパさんは専業主夫だそうだ。


だからいつも達也君パパさんが迎えに来ていたのであろう。


「いやぁー、達也から今日真奈美ちゃんが水族館に行くって自慢していたのを聞いてから自分も連れ行けと聞かなくて聞かなくて」

「わたくしもですわ。それで達也君パパさんと連絡を取り合って本日ここへ来る様に話し合っておりましたのよ」


そう白々しく言う二人なのだが水族館と言えばここしか思いつかない程なのでこれは二人ともやってんなと思わずにはいられない。


そして実際二人とも悪戯が成功した様な表情をしている事こそが何よりもの証拠であろう。


その事を問い詰めてみると素直に認め謝罪してくれたのだが、私の元夫も内通者であったことが発覚した。


実は例の事件の時、小太りマダムと元夫が一応何かあった時の為にと連絡先を交換していたみたいである。


そう、知らなかったのは私だけだったのだ。

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