第92話反面教師

そんなこんなで今日は荷物を元夫に手伝ってもらい、布団など重たい物や大きい物等は元夫の車で、衣服や食器比較的軽い物や小さいものはリュックに詰め込んで私が自転車で運び、私のリュックに入らなかった物はキャリーケースに詰め込み元夫の車の中で空いたスペースへと詰め込んでいく。


その間の仕分け作業は高城も手伝ってくれて非常に助かった。


そして夕方で荷物の移動は一通り終わり(と言っても一回で終わったのだが)夕方、両親も加わり家電量販店へと来ていた。


お目当ての冷蔵庫を買う為である。


初め、両親から買ってやると言われた時はこれ以上迷惑はかけられないとかなり遠慮したのだが、娘と孫の為に何かする事は迷惑とは言わないと押し切られた形である。


もしかしたら両親は両親で、私と縁を切った事は後悔していなくとも結果的に孫娘とも縁を切ってしまった事に少なからず罪悪感を感じており、多少なりとも罪滅ぼしではないものの、何か貢献してやりたいが直接言うのは縁を切ると言った手前恥ずかしくて言えずこの様な方法を取っているのかもしれない。


しかしその部分を刺激するとプライドの高い父親はへそを曲げてしまうかもしれないので聞く事は無いし、真相は分からずじまいなのだが私はそれで良いと思う。


そして一人暮らし用の小さな冷蔵庫を買ってもらい父親の所有している軽トラに積んで私と真奈美の新しい部屋へと運んで、今日一日は終わりであり、明日からは新しい一日の始まりだ。


離婚して新天地を探さなければならない時は押しつぶされそうな程の様々な負の感情を抱えていたのだが、今の私はほんの少しの寂しさと、ほんの少しの興奮をしていたのであった。





あの事件から二か月がたった。


周りのみんなは私の事を思ってかあの事件の事は話題にしないような雰囲気を未だに感じているのだが、別にトラウマでも無いのでどんどん話してくれて構わないと思っているし、むしろ地雷社員には事件を起こしてくれて感謝している部分も確かにある。


あの地雷社員は、見方を変えれば私の別の結末だったのかもしれないという反面教師としての面ではかなり説得力のある光景であったとおもうし、実際私も地雷社員の様になっていた可能性はかなり高かったであろう。


その事を身をもってと言えば少し違うのだが、私の脳裏に深く刻みつけてくれた件については少なからず感謝していたりする。


「ままーっ!!はやくっ!!」

「はいはい、今行きますよーっ!!」


そんな事を思いながら今私は元夫の手を引っ張るようにしてぐんぐん進んでいく真奈美に急かされて小走りで水族館の入り口へと向かっていく。

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