第66話あの頃とは真逆

「結婚した後お前と初めて行った遊園地で食べた昼食時の会話だ」

「あっ………」


元夫に指摘されて私は当時の記憶を鮮明に思い出し、元夫が言わんとしている事に察しが何となく察しがついてしまう。


「思い出したようだな?」

「…………まるであの頃とは真逆ね。そして私はあの頃の貴方の気持ちが今は理解できる。働いて得たお金が自分のお金ではなく家族のお金に変わって初めて気付いたわ。ここで浮かせたお金で、ここで払う値段でここよりも倍の量の美味しいものを食べさせる事ができるのにって」

「俺は逆にお前の言っている意味に今日気付かされた。日常から外れた非日常の場所だからこそ、そこでその非日常を満喫しているときに現実をちらつかされたら萎えるよな」


あの時は今の私達とは立場が真逆で元夫はお金を出し渋り、私はそんな夫にこんな時くらいお金を出し渋るなんてと言っていた気がする。


そして元夫は、キラキラした目で入店してから未だに店内を見渡している真奈美を見ている事に気付き、私は納得する。


ここで食べる料理の値段は、料理だけではなくこの空間も込みだと考えれば安い物なのではないか?この空間は同じ値段では流石の私も作り出す事は出来ない。


できて安っぽい飾りつけを材料を買って余ったお金で部屋を飾り付けるくらいだ。


そう思えばこの値段で真奈美を入店時からここまで興味を持たせてくれるお店が提供する値段にしては妥当な値段なのかもしてない。


そしてぎこちないながらも元夫と料理が来るまでポツポツと会話をし、真奈美は来た料理に大はしゃぎしながらぱくつき、帰り際にお子様ランチBセットを食べると付属してくるおもちゃ(この遊園地のマスコットのキーホルダー)からこのお店のオーナーという設定である三毛猫のキャラクターを選び退店しようとしたその時、真奈美から待ったがかかる。


「はんこっ!はんこおすっ!」


そういう真奈美は入園時の時にもらったパンフレット用紙をもっており、机の上のハンコを押させろいう事らしい。


確かに入園時にもらったパンフレットの裏側は所謂スタンプラリー用の印刷がされているのだが、全て押した所で景品などでない。


しかしスタンプを探し出してコンプリートするというものはそれだけでワクワクして楽しいと大人の私でも思ってしまう催しであるのは間違いない。


真奈美からすれば是が非でもやりたい事の一つなのだろう。


見つけたからには早く自分を抱っこして押させろ、私はこのハンコを押すまではここを動かないという強い意志を感じ取る事ができる。

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