第52話手羽元のチューリップを作る機械
この小太りマダムも金持ちだとか庶民だとかの前に一人の母親として今まで苦労して来たのであろう。
それと同時に息子への愛情の深さを感じる。
「それにあのままでは間違いなくわたくしにはこういう事を言い合えるママ友?というお友達は出来ませんでしたもの。だってわたくし自身、あのわたくしはお友達にななりたく無いと思ってしまいますものね。北川さん、ありがとうございます」
「そうですね、盆の中の水をひっくり返す前で良かったですね。私はもう盆の中の水をひっくり返してしまったものですから、そんな感謝の言葉を頂ける様な人では無いですよ。それにあの時は私も必死でしたからかなり失礼な事をしたという覚えがあります。あんなに偉そうな事を言っておいてその本人が未だに謝罪をしていないというのはおかしいですよね。ごめんなさい」
そう言って頭を下げて来る小太りマダムの姿を私はとても羨ましいと、そう思いながら私も頭を下げるのであった。
◆
「何か良い事があったのか?」
「何もーっ」
パートも終わり真奈美と一緒に家に帰るや否や高城がそんな事を言ってくる。
そんなに分かりやすく表情に出ていたのだろうか?
しかしながら今の私は良い事があったと思っているのだと高城に言われて初めて気付かされたのはそれはそれで何だか釈然としない。
「ま、良いけど。とりあえず俺は必要な物を取りに帰っただけだからそろそろ会社に戻るよ」
「忙しいね」
「ふーた、いそがしー」
「まぁな。繁盛期というのもあるが今やると明日の仕事量が格段に減るって言うのもあるしな」
「ふーん、そういうもんなの?ま、頑張りなさい」
「がんばりなさいっ」
時期も時期である為高城の会社も例に漏れず忙しいらしい。
因みに私のパート先はポイント五倍デー以外は波こそあるもののいつも通りである。
流石にクリスマス前は戦場の様に忙しくなるという先輩からのありがたい言葉を頂いているので、この平穏も今のうちだけだと心を引き締める。
寧ろこの戦場の季節に合わせて私と小太りマダムは他に若者も面接で来ていたにも関わらず二つ返事で受かったのであろう。
去年は「彼氏とデートがあるので休みます」と言って休む娘が数人居たのだそうだ。
そして今年も学生のアルバイトで何人か居るらしい。
うん、青春だ。
そして青春の裏には私達おばちゃんが頑張っているのであるというのは忘れないで欲しい。
まぁ、私も若い頃は同じ手口で忙しい時に休んでいた記憶が何回かあるので罪滅ぼしも兼ねて当日はクリスマスの揚げ物の定番である手羽元のチューリップを作る機械となろう。
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