第23話今日はとことんついていない

そう言うと友人は一気に生ビールを流し込むと中ジョッキを一気に開け、勢いよくテーブルへ置く。


「人間といえど腐っても動物なんだ。学習すればやらなくなる人もいるかもしれなが言い換えればその学習する機会が無ければ同じ事を繰り返すに決まってる。そう、あいつらは動物だ。更にタチが悪いのが類は友を呼ぶとばかりに同じ価値観の奴らが周りにいる場合の可能性が高く下手すれば『浮気なんかで』という価値観すら持っている奴もいる」

「お、おう」


やけに感情的に否定する友人に若干引きつつも言っている言葉の内容は的を得ているように思う。


「六回だ」

「ん?」

「俺は今まで六回彼女が出来た」

「お、おう」


友人の恋愛事情など知らねーとは思いつつも自分も同じ事をやる為に今日呼んだ為そこを突っ込む事はせず相槌を打ちながらも、そもそもこんなにも感情を込めて流暢にコイツが話す時点で俺は何だか嫌な予感がし始める。


「そして俺は全て浮気されて終わった。理由は全て寂しかったというのと優しすぎるからだった。休みの日は必ずデートした。常に彼女を優先した。その結果が浮気だ。なんだ?放置すれば良かったのか?暴力でも振るえば良かったのか?そもそも何で浮気した方が被害者面してんだよっ!?マジで意味分からんわっ!!脳味噌溶けてるんじゃねぇのか?じゃぁ何かっ!?こっちも浮気すれば良かったのかよっ!!浮気したらしたで女同士徒党を組んでやって来て結局俺が怒られる訳だろうっ!?しかも婚約もしてない段階だと相手男性に法的裁きを与える事も難しいとか何だよコレっ!?すみませーんっ!生ビール追加で、後アジフライと刺身盛り合わせをお願いしますっ!それで聞いてくれよっ!特に四番目に付き合った彼女なんか───」


そしてどうやら俺の嫌な予感は正しかったらしく、この後飲み放題の時間が終わるまで俺はコイツの口に付き合わされる羽目になった。


「ふ、フータ?」


結局飲み放題の二時間は友人の愚痴で終わったのだが、友人のぶっ壊れ様を見て元婚約者との復縁は無しだな、と思いながら居酒屋から出てこの後どうしようかと二人で話ているその時、聞き慣れた声音、聞き慣れたイントネーションで俺を呼んでくる人がいるでは無いか。


あぁちくしょう。


今日はとことんついていない。


「え?コイツが元婚約者?」

「浮気ぐらいで婚約破棄した?」

「う、うん………」


あぁ、友人の言うとおりコイツらにとっては『浮気ぐらい』で済む話なんだな。


その表現から俺があの後どんな気持ちで過ごしてきたのか、コイツらはまるっきり理解していない事が窺えてくる。

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