第2話母親失格
今思えば夫が泣いている姿を見たのはこの時が初めてだったと思う。
「まま、あしがいたい………」
「もう少しだから辛抱しなさい」
親からは縁を切られた。
不倫相手には「お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃだ」と罵詈雑言を浴びせられながら捨てられた。
お前が私にメールをしてこなければ何も無かった。
人のせいにすんじゃねぇよと思うものの結局は私の心のゆるみと、弱さが招いたことには変わりない。
しかしながら不倫相手のせいにして私は悪くないと言い返した所でこの現実が変わる事はないことくらいはいくら馬鹿な私だとしても理解できたため、」不倫相手には何も言い返す事はせず、心の中で「私以上に苦しんで生きろ」と念じながら時間が過ぎるのを待っていた。
結局お互いに会社は世間体と社内の空気などを考慮してクビに、私の慰謝料は養育費と相殺で財産分与は無しの上離婚、不倫相手は七桁の慰謝料という形で私の浮気の幕は閉じた。
元夫は最後まで娘の親権を争ったのだが、男親が親権を取る事は難しいらしく娘の親権は私という事で決着が着いた。
もし私が不倫をしなければ今頃元夫と温かい家の中で笑顔を見せる娘と夫で食卓を囲み夕食を食べていたのかもしれない。
そんなありもしないたらればを考えては娘に抱き着き「ごめんね」と謝る事で自分自身も安心する。
そんな私は考えるまでも無く母親失格であろう。
こんな事ならば夫の下に行った方が娘としては幸せだったのかもしれない。
そういう思考に陥ってしまう位には母親失格である。
そして私はぐずり始めた娘を片腕で抱きかかえると、もう片方の手で今の私たちの全てが詰まったトランクケースを持ち歩き続ける。
取り敢えず今は寝床だとなりふり構わずに親友だと思っていた人や友人だと思っていた人、元カレにも何人か連絡をしてみたのだが帰ってくる言葉は遠回しの絶縁宣言。
私の交友関係全てに今回の件が既に広まってしまっていた。
元夫のせいなのか元不倫相手のせいなのか今となってはどうでもいい。
ただ私がやった事の重大さを今この状況で今更ながら再確認させられるのはキツイものがあった。
そして私は遠い記憶を頼りに電車を乗り継ぎ何とか終電前に目的地まで着くとその前で力尽きるのであった。
「何やってんだ?お前」
「………あぁ、久しぶり。よかった、部屋合ってた」
いつの間にか私は娘を抱きかかえながら眠っていたらしい。
まどろみの中聞き覚えのある男性の声で覚醒すると、その声の主は思った通りの人物で安堵する。
「何をやってんだよ人ん家の前で」
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