ただ、至高の愛を

葵野楓

第1話 裏切り

「桜子…ごめん……本当にごめん。俺、こんな事になるなんて……。」

目の前で婚約者、嫌、たった今元婚約者になった拓也が泣いている。

正直、泣きたいのはこっちだ。婚約者に浮気されて、あまつさえその浮気相手が妊娠したから婚約は破棄したいというのだから。

けれども事態が上手く脳内で処理出来ずに、涙さえ出ない。

それに、私に言える事と言えば、「分かった。」これしかないでしょう?

こんな公衆の面前で私が取り乱さないのを良く分かっている拓也は狡い。

「じゃあ、私先に出るね。もう連絡はしてこないで。さよなら。」

一刻も早くこの拓也が予約してくれたお店から出たかった。

拓也の支配から抜け出したかった。

お店から出て初めて、涙が出た。

私はいつから裏切られていたの?いつから騙されていた?

ねぇ、拓也。私は本気で好きだったよ。愛していた。

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