あまりにもモテないので幼馴染に相談してみた。
左リュウ
幼馴染に相談してみた。
第1話 思い出語り
――――モテたい。
男子高校生にとって、これほど健全かつ切実な願いは他にないだろう。
いや、もしかしたらあるのかもしれないけれど、少なくとも俺こと
さりとて、願いは願うだけでは叶わない。自らの手で叶えるべく努力し、行動した者のみが、引き寄せることが出来るのだ。
故に俺は努力した。モテるための行動を実践した。
まずは必死に勉強を頑張った。
ちょっと頭が悪いぐらいの方がモテるかもしれないけど、俺は図書館の妖精と呼ばれてそうな真面目系内気女子からもモテたいので勉強を頑張った。
頑張ったかいあって学年でも上から数えた方が早いぐらいにはなったし、勉強の為に図書館にも通ったおかげで図書館の妖精と呼ばれる真面目系内気女子とお知り合いになれた。
何なら外でも会うようになったし、勉強を教わっていく仲で良い感じの雰囲気にもなったことあったし、「あれ? これワンチャンあるんじゃね?」と思ってたんだけど、
――――ごめんなさい……会うのは今日で、最後にしてください。
とか言われて、彼女との交流はぷっつりと途切れてしまった。
未だにその理由が分からないままだ。いや、理由なら分かっている。
「俺が勉強も出来ない、非モテ男だったばかりに……!」
思えば俺はあの子に勉強を教わってばかりだった。
その中で、俺の壊滅的な頭の悪さに幻滅したのだろう。その時の悔しさと後悔をバネにして、必死に勉強するようになったのだが。
「ふいー。良いお湯だったー。……ありゃ、ゆーくん居たの」
「そりゃそうだろ。ここは俺の部屋だぞ。お前こそなに我が物顔で入ってきてんだ」
「ゆーくんの部屋は私の部屋、みたいなところない?」
「ねぇよ! ……というか、え? お前もしかして人の家の風呂入ってたの?」
「うん。良いお湯加減でした」
「そりゃようございましたねぇ!? ……しかもそれ俺のシャツじゃねーか!」
「そこに入ってたから使っていいのかなって」
「俺のシャツは俺の部屋の棚に入ってるだろうよ! つーか、幼馴染だからって勝手に家に上がり込んだうえに風呂まで入っていくやつがあるか!」
「勝手じゃないもん。ゆーくんママが上がってきなさいって言って、お風呂も勧めてくれたんだもん」
「ウチの母親、そのうち変なセールスも家に招きそうで心配だよ……」
この人の家に上がり込んで風呂まで入ってる図々しいことこの上ない少女は、
リボンでツーサイドアップに結われた、ウェーブがかった長い金色の髪。お風呂上りなせいか、心なしかキラキラと輝いているその髪はまるで太陽のようだ。
体格が小柄なのは栄養が一点に集中しているからだろう。豊かに成長した胸部装甲が俺のお気に入りのシャツを下から押し上げている。
こんなふざけたやつではあるものの、『成績優秀』、『スポーツ万能』、『容姿端麗』と三拍子そろったハイスペック。
普段からよく笑うし、明るくも尻尾を掴ませない猫のような幼馴染は、俺が通っている学園でもアイドル的人気を誇る、掛け値なしの美少女である。
しかも実家は世界的にも有名な天堂グループ。所謂お嬢様というやつで。
これだけ肩書やスペックが揃っていても、それこそ幼い頃から一緒にいる仲である。親同士が親友という縁もあって交流も活発で家族ぐるみの付き合いだったせいか、互いに遠慮がない。
今みたいに気が付けば家にいた、なんてこともしょっちゅうだ。
「それで、ゆーくんは何を悩んでたの?」
「モテないなぁって悩んでたから、俺が今までモテるためにしてきたことを脳内プレイバックしてたところだよ。丁度いいから相談に乗ってくれ」
「別にいいけど……中学の頃からずぅーっと悩んでるよね、それ。飽きずにさ」
「ほっとけ。……しかし、モテたい欲をバカにしたもんじゃないぞ。モテるための努力をしたからこそ、今の学園に入学できたんだからな」
「そーいえば、女の子からモテるために勉強がんばってたよね。いそいそ図書館に通っちゃってさ」
「あそこで良い出会いもあったんだが…………懐かしいなぁ。お前も誘って、三人で勉強会とかしたよな」
「そうだねぇ。ゆーくんと、ゆーくんと良い感じになってた女の子と、私の三人でね」
「俺にとっちゃ、ほろ苦い思い出でもあるがな……三人でやった勉強会の後に、俺はあの子にもう会わないと言われたんだ……皆で勉強した方が雰囲気も良くなるし捗ると思って、わざわざ
「……それはね、ゆーくんがおバカさんだったからだよ」
「やっぱりそうか!」
俺がバカだったのがいけなかったんだという確証を改めて得る。
……しかし、陽菜は依然として俺を「理解してないなコイツ」とでも言わんばかりの目で見ている。幼馴染である俺だから、目を見れば何となく意味が理解できるものの、他の奴だと伝わらないぞ。ちゃんと言葉にして伝えろよ。
「……ま、私的にはいいんだけどね」
「くそっ! 俺が非モテであることがそんなに嬉しいか!」
「嬉しい嬉しい。ちょー嬉しいー。……あ、ふかふかお布団発見!」
「あ、こらっ! 勝手に俺のベッドに潜り込むな!」
「もう遅いよー。ふわー……お日様の良い香り……」
「干したての布団を俺より先に使うやつがあるか!」
俺の干したて布団を先に堪能するとはなんて非道なやつだ。学園でこいつをアイドル視してるやつらもこの非道な本性を知れば、きっと幻滅するに違いない。
「…………ふふっ。ゆーくんのにおいがする」
「そりゃ俺のベッドを使ってるし、俺のシャツを着てればそうだろうよ……ああ、そのシャツ見てたら思い出した。汗を流して、ボールを追いかけた日々のことを……」
「あったねぇ、そんなことも。『モテるためにスポーツマンになる!』とか言っちゃってさ。サッカー部に入ってたよね」
言いながら、陽菜は自分が着ているシャツに描かれているサッカーボールに視線を向けた。
「入ったなぁ……あの頃は毎日ボールを蹴ってたなぁ……」
「二年生から入ったのに才能発揮しちゃってレギュラーを勝ち取った時は流石に驚いちゃったけどね」
「お前がマネージャーとしてサッカー部に入ってきた時も驚いたけどな」
「ゆーくんママから、ゆーくんの面倒を見るように頼まれてるもん」
「俺は頼んでないんだけど」
なぜ本人である俺よりも母親の頼みが優先されるのだろうか。
「お前って意外と真面目なトコあったよな。マネージャーだからって、俺の自主練にちょくちょく付き合ってくれてたし」
「そりゃー、スポーツに打ち込むゆーくんなんて珍しいもの、見逃す手はないでしょ」
俺は珍獣か何かかよ。
「ま、ゆーくんの自主練に付き合ってたおかげで運動も結構出来るようになったところあるからさ。私的にはメリットもあったけど」
「自主練な……アレがきっかけであの子と知り合ったんだよな……」
「女子サッカー部の子だよね。たまたま同じ場所を自主練に使ってた」
「そうそう。俺がレギュラーを勝ち取れたのは、あの子に色々と教えてもらったおかげだし……サッカーを通じて仲良くなって、これまた良い感じの雰囲気にもなったし、『あれ? これ今度こそワンチャンあるんじゃね?』とか思ってたのに……」
――――ごめん……君とボールを蹴るのは、今日で最後にするよ。
「……とか言われて、その後はまたもやぷっつりと交流が途切れてしまった…………」
「……その理由、もしかして分かってない?」
「いや、分かってる!」
「じゃあ言ってみてよ」
「俺がスポーツも出来ない、非モテ男だったばかりに……!」
思えば俺はあの子にサッカーを教わってばかりだった。
その中で、俺の壊滅的な技術の無さに幻滅したのだろう。その時の悔しさと後悔をバネにして、必死に練習して試合でハットトリックを決めたわけなのだが。
「……そんなことだろうと思った」
「それ以外ありえないだろう! だってあれだけ一緒に練習して、ボールを通じて交流を深めて、他愛のない会話をして! めちゃくちゃ良い雰囲気だっただろ! あとはもう、あの子の心のゴールに、告白という名のシュートを決めるだけだっただろう!」
「そーだねー。でもさ、本当にあの子の心のゴールにシュートを決めたかったのなら、なんで自主練のたびに私を誘ったの?」
「え? だって言わなくてもどうせ来るだろ、お前。だったら一人で歩かせるよりも一緒に行った方が安全だろ。ただでさえあの頃から綺麗だったんだから。……それに練習をサポートしてくれるやつが居た方が捗るし、俺にとってもあの子にとってもプラスになるだろ?」
「…………そーいうとこだと思うよ。私は嬉しいけどさ」
「どういうとこだよ!?」
「さてねー。それは自分で考えたまえよ」
陽菜は呆れたように言いながら、もぞもぞとベッドから出てきた。
「ねぇ、ゆーくん。新しいゲームとか買ってないの?」
「勝手に人の棚を漁るなよ……最近はもうDL版を買ってるぞ。ま、お前がそう来ると思ってまだやってないけど」
「別にやればよかったのに。DL版なら発売日になったらすぐ出来るでしょ?」
「ゲームやる時は、お前に口出しされながらじゃないと調子が出なくなったんだよ。それに、どうせ一緒にやるなら最初からやった方がお前も楽しいだろ」
「えへへ。気が利く幼馴染だね」
「気を利かせるのもモテる秘訣だと思ってな」
「じゃあ、ゆーくんは私からモテモテだ」
「お前からモテてもあんまり嬉しくないなぁ……」
「なんでさ」
ゲーム機を引っ張り出して起動させると、豪華なムービー演出の後にキャラクタークリエイト画面に辿り着いた。
「ゆーくんのセンスが問われちゃうね」
「任せろ。これでもモテるために見た目には気を遣う方だからな……………………」
「……………………」
「……見た目といえば」
「そう来ると思った」
なぜ見抜かれているのか。これが幼馴染の以心伝心というやつだろうか。
「ゆーくんって結構分かりやすいもん」
「こいつ、俺の思考を読んでるだと……!?」
「顔に油性ペンで書いてるレベルだよ」
嫌だなそれ。落ちないじゃん。
「まあ、それはそれとしてだ。あの頃、俺って一年中ジャージだったよなぁ……」
「そうだねぇ。いつ行ってもジャージだったよね。休みの日に一緒にお出かけする時もジャージ着てたもんね」
「春夏秋冬オールジャージ。それが俺の
「私も見慣れ過ぎちゃって感覚が麻痺してたよね」
「言われようはアレだが、まあジャージ男だったのがきっかけであの子と知り合えたんだよな」
「あの子ね。アイドルになる夢を目指して猛特訓中だった」
「そうそう。ジャージ着て散歩してたら『うわっ。ダサッ!』とか言ってきてな。当時はかなり傷ついたぜ。俺のソウルを否定されたような気がしてさ」
「私も散々否定してたんだけどね」
「てっきりお前の目が曇ってるものかと……」
「流石に怒るよ。ていうか怒ったよ」
「うん。怒られた……」
露骨に無視されちゃってさ。陽菜と話せないとなぜか俺の調子がおかしくなるから、必死に機嫌を直そうとしたもんだ。
「まあ、それもあって心を入れ替えて、あの子に弟子入りしたんだよ。アイドル目指してるだけあってオシャレとかにはうるさくてさ。俺がジャージスタイルから進化出来たのはあの子のおかげといっても過言ではない」
「…………それで?」
「『それで?』ってなんだよ」
「その子とも良い感じの雰囲気になったんでしょ?」
「俺のセリフをとるなよ。……はっ。やっぱりお前、俺の思考を!?」
「読んでないよ。この流れなら普通に分かるでしょ。というか当時も普通に聞いてたし」
「……お前の言う通り。俺はその子とも良い感じになった」
「でもお別れしちゃったんだよね」
「そうなんだよ……弟子と師匠とはいえ、一緒に服を観に行ったり、あいつのアイドルレッスンに付き合ったりして、良い感じの雰囲気になって、『あれ? これは三度目の正直でワンチャンあるんじゃね?』とか思ったのに……思ったのになぁ!」
――――ごめんね……わたしはアイドルになるから。だから、貴方と会うのは今日で最後にするね。
「……と一方的に言われて、その後ぷっつりぶっつりと交流が途切れてしまった…………」
「……ねぇ、ゆーくん。一方的っていうけどさ。向こうにもそれなりの理由があったと思うんだよね」
「皆まで言うな! 分かってる!」
「じゃあ言ってみなよ」
「俺が見た目に気を遣っていない、非モテ男だったばかりに……!」
思えば俺はあの子にオシャレを教わってばかりだった。
その中で、俺の壊滅的な服装とセンスの無さに幻滅したのだろう。その時の悔しさと後悔をバネにして、ファッション誌を読み漁って研究をするようになったのだが。
「なんでそんなに見当違いな方向にぶっ飛んでるの?」
「どこが見当違いだ! 的確に真実を射抜いてるだろうが! でなきゃおかしいだろう! 一緒に服を観に行ったりしてさ、アイドルっていう夢を叶えるための特訓にも付き合って! あれだけ仲良くなったのに、いきなり交流が途切れることがあるかよ!」
「それはそうだけどさ。だったらなんで、自分なりに服を選んで着飾った時にさ……一番最初に私をデートに誘ったの?」
「なんでだろうなぁ。分かんないけど、なんかお前に見せたくなったんだよな。それだけ。ていうか、デート? アレはただの散歩だろ。そりゃあ、ついでに街に出かけたり映画を観に行ったりしたけどさ。相変わらず大げさに物を言うやつだな」
「……………………私にとってはデートだもん」
「おい、何か喋るならもっと大きな声でいえ。ゲームの音で聞こえなかった」
「……何でもないよ」
「そうか? ……にしても、お前も随分気合入ってたよなぁ。ただの散歩だってのに、ずいぶんとめかしこんでてさ。あの時はちょっとびっくりしたぜ」
「私は、デー……散歩してる最中、あの子に見つかった時はもっとびっくりしたけどね」
「俺は嬉しかったけどな。師匠との特訓の成果を披露出来て……でもなんでか、その後に別れを切り出されたんだよなぁ……」
「あの子、今や高校生アイドルとして大ブレイク中だもんね。この前ドラマも出てたし」
「俺も弟子として鼻が高いぜ……」
「どこ目線なの」
「弟子目線だよ。……おっ、キャラが出来た。どうよ」
「まあまあだね」
「まあまあかー……」
どうせならもっと作りこんでやろうかと思ったが、ゲームを進めたいという欲が勝った。
そのままゲームを進めていく。
「ぎゅー」
「おい、なんだ。二人羽織じゃねーんだぞ」
陽菜がいきなり背中から抱き着き、そのまま俺の頭越しに画面を眺め始めた。
「んー……なんかさ。ゆーくんと昔の女の子の話してたら、こうしたくなったの」
「離れろ。やりづらいだろ」
「そこは頑張ってよ」
「なんでだよ…………まあ頑張るけどさ」
言っても離れるようなやつじゃないしな。
「次は名前か……何にしようかな」
「いつものやつでいいじゃん」
「……前々から思ってたんだけどさ。『ユウナ』ってなんか女の子の名前っぽくない? これ男キャラなんだけど」
「いつもゲームキャラの名前は『ユウナ』にしてるのに、男キャラで作っちゃったんだから、ゆーくんサイドにも責任があるでしょ」
「自分の見た目について話してたからつい…………っていうかさ、なんで『ユウナ』にしたんだっけ」
「
「今考えればおかしいよな。俺の名前からとるのは分かるけどなんでお前の名前からとってんの? おかしくね?」
「……別にいーじゃん」
「いや、いいんだけどさ。長いこと使ってる名前だから愛着あるし、変えるつもりもないから」
まるで夫婦が生まれてきた子供に名付けるみたいじゃないか。
……まあいいや。今更だしゲームに戻ろう。
ジャンルはアクション系。主人公は冒険者となって怪物を倒していくというもの。
最初は順調にこなしていったものの、ゲーム的には最初の壁となっているであろうボスキャラで躓いた。
「うおっ。こいつ強いな。勝てねぇ」
「ゆーくん、何気にアクション系苦手だもんねぇ。私の方が全然上手いよね」
「ほほう。自分なら勝てると?」
「うん。勝てると思うよ」
「まだこのゲーム触ってないだろ」
「見てたから大丈夫だよ」
「じゃあやってみるがいい」
「いいの? クリアしちゃうけど」
「その時はもう一回やるよ」
「なら遠慮なく」
コントローラーを渡してバトンタッチ。
すると陽菜が操る主人公キャラはあっという間にボスキャラを攻略してしまった。
「どうよ」
「おぉー……相変わらず上手いよな、お前……ゲームの腕に関しちゃ勝てる気がしねぇや」
コントローラーを返してもらい、再びボス戦に挑んでいく。
陽菜もそれを眺めて、ゲームの音だけが聞こえてくる心地良く静かな時間が流れた。
……なんだろうな。
「…………あ、そういえば」
「なに。また女の子の話?」
「女の子の話。……っていうか、お前の話でもあるというか」
「私の……?」
……ダメだ。やっぱまだボスに勝てない。陽菜ってゲーム上手いんだよな。
格闘ゲームなんかしたら全敗する自信がある。
「俺から離れてく女の子ってさ、みんな同じようなこと言うんだよな」
「へぇー。それって初耳かも。なんて言うの?」
「『自分じゃ
……あー。また負けた。こいつやっぱり強いな。
「…………へぇー……そうなんだ」
「うん。みんな口を揃えてそう言うんだよ。不思議だよなぁ。なんでだろ」
「…………そーだね。不思議だね。なんでだろうね」
しかし諦めないぞ。陽菜がクリアしたんだったら俺もクリアするまでやってやる!
「中学時代も懐かしめるってことは、俺らも高校生が板についてきたってことかなぁ」
「この休みが明ければ二年生だもんね……次は同じクラスになれるといいなぁ」
「一年は別のクラスだったもんな……あ、それでいうとお前、こんなところで遊んでていいのか?」
「どうして?」
「ほら……高校生になったんなら、彼氏の一人でもいるんじゃないかと思ってさ。不味いだろ。彼氏持ちがこんなところにいたら」
「いないよ。勝手に決めつけないでよ」
「えっ、嘘。いないの? お前が? あんなに告白されてたのに!?」
「今はもう告白される回数も減ったし、ゆーくんにだって彼女いないでしょ」
「仕方ないだろ! 良い感じの雰囲気になる女の子はみんな離れていくんだから!」
「自業自得なところあるよね……」
今この場において自業自得ほど意味が合わない言葉は他に無いだろうよ。
「ふーん……意外だな。じゃあ、好きな人とかいないのか?」
「…………気になる?」
「そりゃあ幼馴染だからな」
「…………」
なんで黙り込むの。……って、あー! もうちょっとだったのに負けた! くそっ、もう一回だ!
「いるよ。一人だけ」
「そうなんだ。どんなやつ?」
「別のクラスの男の子なんだけどさ。私、その人のために昔から頑張ってたんだよね。ゆーくんがモテようとするみたいに」
「そりゃ初耳だな」
「ゆーくんが気づいてなかっただけだよ」
そうなのだろうか。脳内アルバムをめくってみるが、心当たりがない。
「その人が変わろうとしてるもんだからさ。私も負けないように勉強を頑張ったし、スポーツを頑張ったし、オシャレだってもっと気を遣うようになったんだよね」
「やっぱお前って努力家だよな」
「うん。その人のためなら、頑張れる子だよ。私」
成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗の三拍子揃った陽菜になるまでに、そんなエピソードがあったとは。
「……ん?」
陽菜はするりと腕を回して、包み込むようにして抱きしめてきた。
そのまま耳元でささやきかけるように、言葉を添える。
「…………気になる? 私の好きな人」
その言葉は、声は。心なしか……色っぽい。
「ここまで話されたら気になるだろ。それに、大切な幼馴染が惚れた男だ。どんなやつか見極めなきゃだしな」
……あ、ミスった。大ダメージを喰らった。体力的にはもうギリギリか。
「えっ……見極めなきゃって……」
まだ逆転の芽は残っている。タイミングを見計らって打ち込めば……。
「お前を不幸にするような男なら渡したくない。そんなやつなら、他の何を捨てたって止める」
「ふぇっ……」
おっ。運よく懐に潜り込めた。ここでコンボを決めることが出来ればボスの体力ゲージを削れるはず……!
「それって……どういう……」
「どういうも何も……」
コンボが繋がった。よし、最後は締めのチャージ解放攻撃だ!
「誰よりも大切な人には、幸せになってほしいだろ」
「…………っ~~~~!」
コンボが決まり、ボスの体力ゲージを削り切った!
「おっしゃ! ボス戦クリア! どうだ陽菜、俺の底力を見たか!」
精一杯のドヤ顔をして振り向いてみると、
「あうぅ…………」
陽菜はゲーム画面を見ておらず、それどころか俺の枕に顔を埋めて突っ伏していた。
「おい、どうした。俺の大勝利を見てなかったのか!?」
「それどころじゃなかったもん……」
「それどころだっただろ!」
俺の手に汗握る決死の攻防を見逃していたとは。なんて勿体ないことをしてくれたんだ。
「…………ねぇ、ゆーくんさぁ……」
「ん? なんだよ」
「みんな、口を揃えて『
それから、少しの間があり。
「…………私にだって、勝てない相手はいるんだよ」
陽菜の声はどこか拗ねたような、それでいて甘えているような。
「そりゃ凄い。そんなやつがいるなら、是非とも顔を拝んでみたいな」
「……私は毎日拝んでるけどねー」
ああ、俺がモテる日は来るのだろうか……。
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