第8話・太陽王シヨミ
リユツーブ王国には偉大な国王がいた。
彼は一人の名も無き青年と出会い、夜通し語り合った。
国王は語り明かした夜に、その青年が異世界から転生してきた事を知る。
すると国王はその青年に国家の未来を託す事を決意したのだ。
国家に闇をもたらす魔王の存在、そして民衆が心から願う勇者の誕生。
だが勇者は選ばれる必要がある。そして選ぶは城内にひっそりと眠る伝説の武器と防具たち。
彼らと青年を引き合わせた国王の目論みは見事に当たり、勇者が誕生した。
そして勇者は魔王を倒して、人間たちの悲願を胸に国王の元に凱旋する事になる。
すると国王は勇者に労いの言葉と共に、王国における国宝を褒美とすることを決めた。
そして……。
「なんじゃ? タケちゃんは坊主か?」
「シヨっちは竿を使えるからそんな事を言うんだってば。俺なんて手掴みだよ? しかもこの極寒の冬の中で真っ裸。……ぶわっくしょい!!」
「じゃからワシだって脱いでおろう? 先代国王が真っ裸になるなんて一大事なんじゃなからな。……ぶわっくしょい!!」
この極寒の山奥で双子の如く揃ってクシャミをする二人は、国家における重要人物たち。一人は見事に魔王を討伐した男、『閃光のタケシ』の異名を持つ勇者。もう一方の人物はその勇者を送り出した、リユツーブ王国の先代国王のシヨミである。
シヨミは時折こうしてタケシの元に足を運ぶ。しかも風の如く突然に、だ。理由は至って単純。彼らは気が合うのだ、マブダチである。
「タケちゃんよ、お主はこの一ヶ月で二回も引っ越したらしいな。敷金や礼金はちゃんと収めておるのか?」
「俺って財務大臣に野郎にカツアゲされたから一文なしなんだよね。だから今回は敷金も礼金もない山を探したから大丈夫だって。ちゃんと探せばいい物件があるって思い知らされたよ。」
「ふむ、今度城に帰ったら財務大臣をギロチンにかけちゃおっかのう?」
シヨミは隣国の王族からも人望を集め、その発言力は大陸全体を巻き込むと言われている。そんな男がマブダチの一言で一国の大臣をギロチンにかけようと言うのだ。
……そして、この男もまた鼻くそを穿っているわけだが。一国の先代国王が腹を掻きながら鼻くそを穿って、足の指で器用にも釣りをする姿はふざけているとしか言えない光景である。
……この男もまたタケシ同様に人生を舐めているとしか思えないのだ。
「あ、また釣れちゃった。今日も爆釣じゃのお。タケちゃんは相変わらずの坊主か。」
「シヨっちの運ってどうなってるの? ……確か国政の決断ってずっと鉛筆転がしでしてたんでしょ?」
「うーむ。自分で考えると悉く失敗するんじゃよ。どうしてかのう?」
ここでシヨミのステータスを暴露しよう。彼は知性が0にも関わらず運が999なのだ。つまり、今までの国策は全て彼の運を土台にしたものと言える。
彼の決断はタケシの言う通り鉛筆転がし、もしくは朝の情報番組で放送される占いのコーナーを基準としている。……ある意味ではシヨミの在位時はテレビ局が影の国王だったとも言えるわけだ。
こんなふざけた男が先代国王だと言うのだから、寧ろ全国民がピエロだったと言えなくもないわけで。
そして隣国の王族さえも自国の政策に悩むと、いの一番にシヨミに相談をする。そして、そんな相談さえも占いを元にアドバイスを送る。そのアドバイスが悉く大きな成果を生む。すると隣国もシヨミに対して強く発言できない。この負のスパイラルこそが、この先代国王に送られた賛辞、『太陽王』の異名を生んだ実態である。
……テレビ局が大陸全土の政治を動かしている、と言っても過言ではないだろう。この実態に対してタケシがシヨミに送った賛辞は『メディア王』。的を得過ぎてシヨミも気に入っている異名なのだ。
「そう言えば、リンの母ちゃんって耳が尖ってるけどエルフ族なの? 前々から聞きたかったんだよね。シヨっちのそう言うところ大好きなんだよなー。」
「ん? ……あれは先々代の魔王じゃよ。タケちゃんだから言うけど、昔一目惚れしての。適当にラブレターを送ったら側室になってくれたんじゃ。」
「マジで!? タケちゃんって俺と趣味が一緒じゃん!!」
「そうじゃのう。じゃからこそ、ワシはタケちゃんとマブダチになれたわけじゃからな。……因みにあれの妹が先代の魔王なんじゃよ。ほっほっほっほっほ!!」
この爺は何を言っているのだろうか? 要はシヨミが魔王を口説きとしたから先代の魔王が人間に牙を剥いた、と言う事ではないか。やはりこの先代国王も只者では無い。何しろ自分で考えて動いた結果が世界に魔王を蔓延らせる結果を生んだ、と言うのだから。……お前は一生涯政治に関わらないと誓ってくれないか?
そしてタケシもまた、先々代の魔王の妹と付き合っているわけである。……もしもタケシがまあちゃんを側室に娶ったとなれば……、シヨミと義兄弟となるわけである。とても山奥で鼻くそを穿りながら冗談交じりに語って良い内容の話では無いだろう。
この二人、死ねばいいのに。
「そう言えば俺っていつになったらリンと結婚できるのかな……。 やっぱりシヨっちは俺とリンの結婚を反対しちゃう?」
「いや? 私はタケちゃんが義理の息子でも良いけど、孫の顔は見せてね?」
「ええ……? それが一番の問題じゃん……。だって城もベッドもアイテムなんだよ? なんだったら『男の象徴に被せるゴム製のマスク』だってアイテムだよ?」
そう、このシヨミは自分の愛娘が愛した男であれば結婚相手は誰でも良いと思っているのだ。この様なふざけた男でも自分の娘の幸せを最優先にしている、……だから、こんな話を真っ裸でするんじゃない。
しかし、シヨミも人の親である。つまり孫が生まれることを望んでいる。そしてリンは曲がりなりにも王族、……王族が夜の生活を野外でするわけにはいかないのだ。現状のタケシと結婚すると言う事は……そう言う事なのだ。
と言うかタケシよ、『男の象徴に被せるゴム製のマスク』等と言うんじゃない。
「そんなあ……。俺を呪ったのはシヨっちじゃないか。責任は取ってよね?」
「じゃったら、……ふうむ。あ!! タケちゃんが魔王になっちゃえば良いじゃん!! ワシって天才じゃない!? タケちゃんが魔王になって衣服禁止にすれば良いんじゃよ!!」
……どうやらシヨミはタケシと完全なる同類らしい。以前、タケシも同じような事を考えていたな。やはり、この男には一生涯政治に関わらせてはいけない。泥船と言う言葉はこの男のためにあるとすら言えるだろう。
「やっぱり、それしか方法が無いのかな? 駄目だ、腹が減って頭が回らないよ。」
「ワシは釣った魚で昼飯にするけど、タケちゃんはどうするんじゃ?」
「俺? 俺は魚が釣れなかったからクマ肉を焼くとするよ。」
え?
「クマ肉!! 良いのう、……ワシの釣った魚と交換せんかの?」
「全然オッケー。と言うか、今日シヨっちがここに来るって聞いたから準備したんだよね。助手君に鍋も準備させてあるから、シヨっちは鍋にすれば良いじゃん。」
「やっぱりタケちゃんは気が利くのう……。タケちゃんのそういう所が好きなんじゃよ!!」
助手君……。それは以前タケシが焚火の番をさせていたクマの事だろうか? つまりタケシは……自分を調理するための鍋を食材にセルフで準備させたと言うのか? ……この男はどこまで逞しいのだろうか。そもそも、これは先代の国王と勇者の会話では無いと思うが?
「良いってば。俺とシヨっちの仲じゃないか。」
「実はワシもタケちゃんに土産があっての。ほれ、隣国の方から取り寄せた『葉っぱ』じゃ。こいつは『ヤマウルシ』のように被れる心配をする必要が無い逸品じゃぞ?」
「マジで!? シヨっちのそう言うところが大好きなんだよ……、高かったんじゃないの?」
「どうせ国費で買うんじゃから心配するでない!! 一枚たったの1,000ドポンじゃから。」
「やっす!! シヨっちって買い物が上手だよねー、流石は『太陽王』だよ!!」
読者のみなさんはこの世界の通貨をご存じないだろう。この世界では1ドポンでコーラを一本買うことが出来る。葉っぱ一枚に1,000ドポンを支払った、と言う事は……。最後まで言わないと駄目?
因みにではあるが、シヨミの葉っぱを買う決断は鉛筆転がしで決めている。葉っぱを売ったのは、この年に飢饉に苦しんだ隣国の王族である。このシヨミの買い物が隣国に大きな恩を売った結果になろうとは、当の本人でさえ知る由もない。
そろそろ悲しくなってきたので終焉としよう……。
冷え込む季節にさえ育まれるは男の友情。遠く離れていようとも、ふらりと友人を訪ねて互いに笑顔を交わす。嘘のない笑顔が彼らを繋ぎとめ、真っ裸の友情に嫉妬した雪の妖精はハラリと溶けて家出する。また一年後、と妖精の帰りを楽しみに『太陽王』と『閃光の勇者』はチャチャチャのリズムに合わせてダンスに興じる。
「麓の街に馴染みの店があっての!! 出張サービスでそこの綺麗どころを揃えとるから、朝まで飲むぞい!?」
「おおーーーーーー!!」
そして、この後シヨミが呼んだコンパニオンによって彼らは街の警備兵にしょっ引かれることになる。勿論、罪状は安定の猥褻物陳列罪。……あかん光景でした。
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