ウクアージの憂鬱

@maabou

序章 

 トト・ドリームランド。

 園のマスコット、奇妙と愛嬌を掛け合わせたようなウサギ、トト君を看板に据え開業されたその遊園地は、とある未来の片隅でその役目を終えていた。

 朽ちた建物。

 錆びついた設備。

 その中を蠢く、狂った――『遊具だったもの。』

 彼らは異界からの力に命を吹き込まれ、もう役目を終えたこの廃遊園地で今日も誰かを待ち続けている。

 さらにその中――誰もが立ち寄らない『おもちゃ売り場』の中で、またいくつかの命が生まれようとしていた。


 

 ガチャ――ポンっ。


 お金を投入すると出てくるカプセルトイの自動販売機。その中からコロリ――と転がったこぶし大の丸いプラスチックケースの中から――スライム状の何かが這い出る。


 ???「……」


 それはぎょろりと目だけを生やし、なめくじのような這いずり跡を残し、施設内を出ていく。

 

 ???「……っ」


 スライム状のそれは遊園地内を彷徨い――『戦い』を始めた。

 廃遊園地内で幾度か遭遇した狂った遊具に襲われたそれは加速度的に成長を深めていく。

 負けるたびに手を生やし、足を生み、幾度の負けを一度の勝利に変え、ついに『それ』は遊園地を抜け出した。

 それからも彼は負け――たまに勝ち、ある日、森の中で一人の吟遊詩人と出会った。


「おや、君は?」


 戦うために一瞬身構えた『それ』だったが、すぐにそれが間違いだと理解する。


「お腹、空いていないかい?」


 差し出されたのは彼がそこの焚き木で煮た鍋で作っていた温かいスープの入った、一つの椀。


「一緒に、食べよう」


 今まで常に戦って奪いここまで来た彼はその意図が分からなかった。しかし――


???「……」


 気づけば彼はその手を椀に添えていた。そして――彼についていくことにした。


 その温もりの正体を知りたくて。

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