無気力系な俺は無自覚にボクっ娘を振り回す
砥上
図書室
「ふんふんふんーふん」
放課後の学校。図書室に続く廊下を鼻歌を歌いながら歩く一人の女生徒。
長い黒髪が特徴的な美少女だった。
「失礼しまーす。…-およ?」
女生徒、伊村斗亜は図書室の扉を開け中を覗く。
しばらく見ていると見つけた。窓際奥の席で夕日に当たりながら気持ち良さそうに寝ている生徒。
斗亜はその生徒に近づき体を揺らす。
「おーきてー、もう放課後だよ」
どんなに揺らしても帰ってくるのは鼻を抜ける呼吸の音だけ、「うぅっ」と言う声を出したが起きる気配は一切無い。
「へぇー、起きないんだ?」
肩に乗せていた手を離しニヤリと笑う。さながらその顔はイタズラが思い付いた子供のようだ。
「君がその気なら僕にも考えはあるよ」
そういうや否や斗亜は寝ている生徒の耳に顔を近づけ息を吹きかけた。
「んん〜っ」
寝ている生徒は少し情けない声を出しながら身を攀じる。
「一回じゃダメか」
二回三回と繰り返す内に寝ている生徒の顔が歪み初めうなされ出した。
額には汗が浮き出て右手が何かを探すように動く。
「ちょっと?大丈夫かい?」
見るからな異常事態に斗亜は焦り体を強く揺らす。
「起きて、起きてよ!」
「んん〜?」
斗亜の願いが通じたのか寝ている生徒は薄目を開け顔を上げた。
「伊村……?」
寝ている生徒は隣に立つ斗亜を視界に入れ名前を呼ぶ。
「ああ、やっと起きたんだね。体調は大丈夫かい?」
「んんー」
寝ている生徒は体を伸ばし欠伸をした。
「何かあったのか?」
自分に起こった事が理解出来ていないのか緊張感無くそう聞いてきた。
「寝ていたと思ったら急に魘されだしたんだよ?覚えてないの?」
「んー?ああ。そういえば、変な夢を見たな」
「どんな夢だったんだい?」
そう聞いた瞬間男子生徒の顔がほのかに赤くなった。
「言わなきゃダメか?」
「気になるからね」
「笑わないか?」
「うん。笑わないよ」
「そうか、分かった。お前が遠くに行く夢を見た」
「えっ?」
予想の斜めを行く夢に斗亜の思考が固まる。
「……」
「おい、大丈夫か?」
「!」
急に動かなくなった斗亜を心配したのか鼻先が当たりそうな距離に顔があった。
嗅ぎなれた匂いは鼻を抜け斗亜の思考をさらなる混乱に導いた。
「ち、近いよ!離れて!」
斗亜は男子生徒を突き放す。
「ん?ああ、悪い。急に何も言わなくなったから体調でも悪くしたのかと思ってな」
「た、体調の方は問題ないよ。それよりも今は君の夢の事だ」
「そういやそんな話してたな。……やっぱ聞かなかった事にしてくれない?」
「それは出来ないよ。聞いてしまったからね!」
「だよなぁ……」
男子生徒は溜息をつく。
「それで、それ以外には何か見たのかい?」
「いや別に特には見なかったな」
「そう……何だ……。ねぇ……」
「ん?」
「湯町はさ、僕がいなくなったら寂しい?」
「答えなきゃ行けないか?普通に恥ずかしいんだが」
「うん。出来れば聞きたいかな?」
「う〜ん。まあ、寂しいかは分からないが、悲しいかな」
湯町と呼ばれた生徒は恥ずかしそうに頬をかく。
「そっかあ。悲しいのかー。ふふっ、いい事を聞いたよ。皆に自慢しようかな?」
斗亜はいたずらに笑う。
「マジでやめろよ?」
「そんなに怖いトーンで否定しなくても良いじゃないか、大丈夫だよ。誰にも言わないから、二人だけの秘密ね」
「信用出来ねぇ……」
湯町は疑うような視線を向けて来る。
「失礼な!僕は口が堅い事で有名なんだ。それに、こんなに嬉しい事誰にも言えないよ……」
「ん?すまん後半聞こえなかったんだが?なんか言ったか?」
「ううん。何にも、ただ、僕は強欲だから何か貰わないとうっかり口から漏れちゃかもしれないなー」
「貢げと……?」
「ふふっ、あーなんだが駅前のクレープが食べたくなって来たなー」
「こいつ……、分かった。行くぞ」
「良いの?」
思いがけない回答に斗亜は怪訝そうな顔を向けた。
「自分で言ったんだろ?それに、クレープで俺の黒歴史が守られるのなら安いものだ」
湯町は机の上のバックを持ち扉に向かった。
「?どうした?行かないのか?」
一向にその場から動かない伊村に声を掛ける。
「あ、ああ。今行くよ」
「あ、あと」
「ん?」
「おれ今月金欠だから高いのは勘弁な」
「分かってるよ!」
斗亜は楽しそうに笑う。
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