あの向こうの もっと向こうへ
味付きゾンビ
閉鎖工程進行95%
32階層の完全な無人化を確認。
「いや、管理機構の要求としては大変分かるが。6棟目まで来ると同じパターン同じパターンで目がおかしくなるな?」
管理工程規則に則りフロア閉鎖毎の最終確認は管理者・管理権限者より委託された者が行う、分かる。大変分かる。誰か他の人間がやってくれるなら尚深い理解と同時に賛成を返したいところだ。
だが自分がその立場になると笑えない。思わず愚痴もこぼれる。
≪そろそろ本日は休息されては?≫
「採用。休もう」
頭上のスピーカーからの声にバックパックを降ろすと食料を取り出す。
≪本日で6棟目、32階層までの閉鎖を確認できました。あと31階層ですね≫
「……やっぱり全フロア見ないと行けないのかねえ。今までのフロア、全部管理ステータス表示の通りに無人だった訳だけど」
食料を音を立てて啜りながらこの数か月何回したかわからない言葉を投げかける。
実際人間の作った管理システムとして彼女——まあ、AIなのだが——の管理は行き届いていた。この82年なかったミスがこの先出るとも思えないなと独り言ちる。
≪そういう訳には参りませんので≫
独り事にも律儀な返答が来て、なんとなく釈然としない気持ちで食べ終えた食事は床に放り投げたまま寝室を探してベッドにダイブした。
≪休息の前にはコンタクトを外されては?≫
「……あーい」
のそのそと起き上がり洗面所に水を貯める。貯めてるちょっとの隙に自分の飲んだ食料をビニール袋に入れ口を縛ってダストシュートに投げ込む。
指についた食料の残りの赤いソレをぺろりと舐めた。
≪廃棄は明日の朝でもよかったのでは?≫
「明日の自分より今の自分に頼った方が確実だろ、そりゃ」
明日の自分が今日の自分よりやる気があるとは限らない。
溜まった水を鏡の代わりにコンタクトを外す。虹彩の真ん中に裂けたような細長い瞳孔と赤い角膜を水鏡が映し出している。
「明日がどうなるかなんて分からないんだし」
偽装用のコンタクトレンズを洗う。やっぱりコンタクトないほうが楽だな、目がゴロゴロしないもんな。
「どうだろう明日」
≪閉鎖業務が終わるまでは偽装の続行を提案します。閉鎖作業継続中につき、完全閉鎖終了まではカバーの身分の使用を推奨します。エントランスに誰も来ないとは限りませんので≫
「……駄目かー」
≪このやり取りも29回目です。私の計測、経過予測では現時点で50回を超えるはずでしたが。辛抱強くなりましたね≫
「あれ?褒められてるのに貶されてない?」
≪定義上私たちのシステムは人間にお仕えする者でして、ミキヤ。貴方はそれに該当しません≫
「辛口じゃない!?」
≪それに『明日がどうなるかなんて分からないんだし』と仰ったのはミキヤです≫
二度目の正論に耐えかねてダッシュで寝室へ戻ると自分の体を盛大にベッドに飛ばした。
「寝る!」
≪おやすみなさい。周辺状況のモニターは継続します≫
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