ねこと私

甘夏みかん

第1話

小学五年生の弥生(やよい)ちゃんは、学校帰りに友達と喋っている。

友達の真由(まゆ)ちゃんと、幸(さち)ちゃんと。

真由ちゃんは、小柄で真っ白な肌の女の子だ。

おしゃれで、クラスでは女の子からも男の子からも人気がある。

そんな真由ちゃんを、弥生ちゃんは、お姫様みたいだと思っている。

日焼けしている弥生ちゃんと違って肌が色白だからだろうか。

たまに赤くなるほっぺたや、いつも唇がメイクをしているみたいに真っ赤なのも弥生にとっては不思議だった。


弥生ちゃんは真由ちゃんと幸ちゃんと家の近くまで一緒に帰る。

3人とも家が近いのだ。歩いて10分程度で行ける距離だ。

今までだったら。


今月からは、弥生ちゃんが途中で2人と別れなきゃいけなくなったのだ。

弥生ちゃんは塾に通うことになった。

受験して、えらい、中学校に通うためだ。


「怖い話って知ってる?」


と、真由ちゃんが言う。

最近、学校では怖い話をするのが流行っている。

弥生ちゃんが

「口裂け女。」

というと、

真由ちゃんは、

「口裂け女でしょー。

あと、トイレの花子さん。」

と言った。

この2つの話はもう何度も聞いたことがある。3人にとっては再放送のようなものだ。

真由ちゃんは

「なにかないかなー。」

と続けて言った。

幸ちゃんと弥生ちゃんは

「ねー。」

と口々に言った。


誰も新しい怖い話を知らないのだ。

あ、そういえば、と真由ちゃんがいう。

「この話、弥生ちゃんに言ったっけ。ばけねこ。」

と言うと幸ちゃんの方を見る。

幸ちゃんは

「言ってない、と思う。ばけねこは、たぶん。」

と答える。

真由ちゃんは神妙な顔をして、

「言っていいかな・・・」

とまた幸ちゃんの方を見る。

幸ちゃんもまた真面目な顔をして、

「弥生ちゃんなら大丈夫だよ。」

という。

弥生ちゃんは、ちょっと嬉しく思った。

塾に通うようになって、2人と一緒に帰る時間が減ってしまった。

弥生ちゃんは2人が自分のいないところで秘密の話をしているんじゃないかと、ドキドキしていた。

秘密の話を教えてもらえると知って安心したのだった。

真由ちゃんが

「あのね、これは昨日さっちゃんからきいたんだけど」

という。

さっちゃんは、幸のあだ名みたいなものだ。

「うん」

と弥生ちゃんが答える。

「三つ葉山にね、ばけねこがいるんだって。」

という。

三つ葉山とは、弥生ちゃんたちの通学路のすぐそばにある山だ。

山の中には、公園が何個かある。

弥生ちゃんが通っていた三つ葉山保育園は、その名の通り、三つ葉山のすぐ隣にくっついている保育園だ。

保育園のときに先生に連れられて何度も三つ葉山の公園に行ったので、よく覚えている。

さっちゃんが付け足すように「弥生ちゃんってばけねこ知ってるんだっけ。」

と言う。

弥生ちゃんは知らない、と首を振った。

真由ちゃんとさっちゃんはえっとね・・・とどう説明しようか、というように顔を見合わせる。

「しっぽが途中でふたつに別れてるの。」

とさっちゃん。

そうそう、と真由ちゃんが頷く。

「普通は、しっぽって一本しかないじゃん?だから、半分人間っていうか・・・妖怪?」

と途中で自信が無くなったのか、確かめるようにさっちゃんのほうを見た。

「確か、妖怪。いつもは普通のねこの形なんだけど、変身して人間になるの。」

そうさっちゃんが言ったところで、真由ちゃんが変身?といってふふっと笑う。

「変身」という言葉が面白かったのだ。

弥生も笑う。

三人は怖い話に飽きて、違う話に変わっていった。

曲がり角まできた。

ここから、弥生ちゃんは真由ちゃん、さっちゃんとは別方向になる。

「あ、じゃあ、」

と弥生ちゃんがいうと、

「弥生ちゃんばいばい」「また明日」

と真由ちゃんとさっちゃんが笑顔で手を振った。


弥生ちゃんは、すぐそばに見える三つ葉山を見上げた。

今度のこわい話はそんなにこわくなかったな、と思う。口裂け女の話に比べれば。

はじめて口裂け女の話をクラスできいた時はむりむりむり!!と言いながら、真由ちゃんとくっついたものだ。それだけ不気味だった。

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