土下座して頼んだらヤラせてくれた
くにすらのに
一度でいいからヤラせてください!
第1話 初めての土下座
来年度には取り壊し予定の第一校舎はほとんど空き教室になっている。まだ移設が完了していない理科室や音楽室を使う時に移動するくらいで、あとはほとんど誰も足を踏み入れない。
ほとんどと言うのは例外があるからだ。基本的に使わない教室には鍵が掛かっているのに廊下の突き当りにある部屋は一か所だけ鍵が壊れている。
本校舎寄りの鍵はしっかりと掛かっているので先生の確認が漏れたらしい。その噂はたちまち広まり、時折カップルがヤリ部屋として使っているらしい。
そんなヤリ部屋に僕、
先客がいれば引き返せたのに運が良いのか悪いのか教室は誰もいなかった。所詮噂は噂なのかもしれない。
みんながスマホで撮影できる時代に今まで一度もそういう動画を目撃したことはない。単に友達が少なくて情報が回ってこないだけかもしれないけど。
それでもこの空き教室がヤリ部屋だというのは目の前にいる彼女も知っているはずだ。僕みたいなクラスの端っこにいるオタク陰キャですら知っていることを、僕よりかはクラスの中心に近い彼女が知らないはずがない。
「
「ううん。お話があるって言われたから」
僕が呼び出したクラスメイト・
見た目だけでなく、クラスの掃除や日直の仕事など、頼まれたら何でも引き受けてくれるのもお母さん扱いの一因だと思う。
女子に話しかけるのさえ苦労する僕は一度も頼み事をした経験はないけど、スクールカーストの上位にいるやつらは当然のように
「それで、お話って何かな?」
首を傾げて微笑まれると罪悪感が生まれてくる。
この部屋に呼び出されたということは
「あのさ、一応確認なんだけどこの教室がなんて呼ばれてるかは知ってる?」
僕の問い掛けに
校則にきっちりと従ったスカートをギュッと掴み恥ずかしさを堪えているようだ。
うん。さすがに一年以上もこの学校に通ってたら知ってるよね。
「それで、その……薄々勘付いていると思うんだけど話っていうのは」
特別仲が良いわけでもない。なんなら一年生の時から同じクラスなのにほぼ接点のない女子にこんな事を言ったら残りの高校生活が終わるかもしれない。
だけど、もしもここでチキったら例えゲス野郎だとしても数少ない友達すら失いかねない。
それに人の頼み事を何でも引き受ける
僕の中で不安と期待が入り混じってどういうテンションなのか自分でもよくわからなくなっていた。どちらせによ息は荒くなっている。
「これからすることは本当に最低だと自覚してる。でも、やらなきゃいけない時が男にはあるんだ!」
「う、うん」
僕の気迫に押されて
大声で叫んでも誰もいない。スマホで助けを求めても時間が掛かる。
だから、ゆっくりと体の準備を整えられる。
まずは両膝を床に付けて正座のような態勢を取った。
「?」
体型に合わせてふくよかに膨らんだ胸の前で両手を組み祈るようなポーズになっていた。
次に僕は両腕を肩幅に開いてその手のひらをしっかりと床に着けた。ひんやりとした感触が全身へと広がっていく。
「あの……」
ほとんど絡んだことのないクラスメイトの男子がこんな態勢になったのを目の当たりにして、
彼女が言葉を発したらこの状態で会話をすることになってしまう。
それだけは避けなくてはと、陰キャなりの目力で彼女を
いよいよ僕の動作は最終段階に入る。
あまり勢いを付け過ぎると痛みと羞恥を伴う結果になってしまうのでここの力加減は重要だ。
そして何より、ここで発する言葉が今回の最重要ポイントだ。
言葉にしなければ相手に何も伝わらない。
本当に申し訳ない。今から僕がする行動でチャラになるのなら何度だって繰り返す。
こんな勇気の振り絞り方をするなら中学の時に好きだった女の子に告白しておけばよかった。
そしたら多少なりとも陽キャ寄りになって少しは人生が変わってたかも。なんてもしもの話をしてももう遅い。
現に僕の友達は女子との交流が少ないゲスなオタクしかいないんだから。
そんなオタク友達と過ごす高校生活は楽しくて、時々ドン引きするような発言をするけど根は良いやつなので男同士ならアリだと思っていた。
スーッと息を大きく吸って、腹をくくった。
「一度でいいからヤラせてください!!!!」
僕はほとんど話したことのない、押しに弱そうな女子に土下座でヤラせてくれと
年頃のJKにしては太めの体型かもしれないけど、男子目線だと柔らかそうだし何よりおっぱいが大きい。ヤリたいかヤリたくないかで言えば100:0(ひゃくぜろ)でヤリたい。
いくら罰ゲームとはいえ本当に最低な行為だと思う。友達を失ってでもこんな事は断ればよかった。僕がぼっち生活を受け入れれば
僕は自分の弱さを呪った。気弱そうなクラスメイトを選んでこんな行為におよぶなんて本当に最低だ。
この土下座は罰ゲームの土下座。あとで謝罪の土下座をするつもりだ。
僕みたいなやつが何度頭を床にこすりつけても許されると思わない。ただ、少しでも誠意を伝えないと罪悪感で押し潰されそうだった。
結局は自分の弱さがこんな事態を招いたんだ。
ワンチャンあるかもなんて
ひんやりとした床の感触が、
勢いでやった最低な行為に罪悪感がどんどん大きくなっていく。
今、
もしかしたらスマホで助けを呼んでいるかもしれない。
「
「は、はい」
顔を上げると教室で見るいつもの笑顔がそこにはあった。普段は見ると癒されるその笑顔も今は恐怖の対象でしかない。
怒鳴り散らすタイプより笑顔で怒る人の方が絶対恐いからだ。
「わたし、いつも一人でしてたから、
「え? ……え?」
彼女の口から発せられた予想外の言葉に僕は床に手を付いたままうろたえた。
自分の顔を確認できないけどかなり間抜けな表情だと思う。
「この辺はあんまり人が来ないから、もう少し賑やかな場所に行こうか」
「ちょっ!
校則をしっかり守った長いスカートを翻して
彼女の真意がわからない。押しに弱い
そうだとしてもこの教室から出ていく理由がわからない。
大人しそうな顔をして実はスリルを楽しむタイプだったり!?
……もしかして僕、ワンチャン掴んじゃいました?
胸ポケットにしまったスマホからギャーギャーとやかましい声が流れる。
僕は黙ってアプリを終了して、念のため電源をオフにした。
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