『さかいやま公園』
やましん(テンパー)
『さかいやま公園』
『これは、すべてが、フィクションであります。名称などは、作者の創作です。同じ名前があっても、関係ありません。ごく一部、事実に関わる事項があります。』
むかし、小さな、いなか村だった時代には、ここに、長年、処刑場がありました。
むかしは、処刑やあとの遺体を、村人に無理やり見せたりしていたのです。
それは、明治時代に入っても、しばらくは続いておりました。
また、近くには、火葬場も作られました。
やがて、時は流れ、街も、大きくなると、そうした施設は無くなったり、移転したりしました。
今では、市民公園や、グラウンドができたりもしておりますが、昔からの墓地も沢山あります。
日本は、使える土地が限られているので、どうしても、様々な施設が、混在することになります。
地面の上に作れなければ、下を掘るしかありません。
それとも、なんとかして、新しい技術を作り、上に積み上げるか、しか、ないのです。
また、小さな山ばかりなので、削るか、トンネルでつなぐ必要があります。
古くなれば、壊して、作り直すのです。
あまり、頑丈すぎると、将来ちょっと、困りますが、地震や噴火が沢山起こるので、なかなか、そうも、言っていられません。
広い国の方には、よっく、わからない、苦労があるのです。
この公園は、いまは、『さかいやま公園』と、呼ばれています。
むかしは、たしかに、村境だったのですが、いまは、そうしたわけではありません。
人によっては、あの世とこの世の境だから、そうしたんだろ、とかも、いわれますが、市役所あたりは、そうした話もあるが、たぶん、村境の、名残らしいが、よくは、わからない、とか、言っております。
いずれにせよ、この公園は、現世の人も、あの世の人も、利用可能です。
と、言われております。
そこには、戦争の記憶が、からんでいるらしいと、郷土史家は言います。
空襲の記憶です。
やっと、平和な時代になり、むかし、無慈悲な扱いを受けた人も、いまの人も、なかよく、憩える場所でありたいと、昔の市長さんが、言ったんだとか。
でも、本当に、この公園は、現世とあの世に別れてしまった恋人などが、じかに出会うことができる、この世でたったひとつの場所だったのです。
いま、二人は出合っている。
それは、二人にしかわからない。
回りの人には、見えないのですから。
ここにくれば、亡くした人に、無くした人に、会えるかもしれない。
だから、双方が集まるのですが、出会える可能性は、高くはありません。
なぜなら、ずっとそこにいることは、とくに、生きている側にはできないからです。
屋台『からかさ』のご主人は、いろいろな手段を駆使して、この公園で、営業ができておりました。
そこには、いくらかの、権力が働いていたわけですが、だいたい、ここで、儲かるわけがないのです。
あきらかに、コストがベネフィットを、超越していましたから。
しかし、ご主人は、だいたい、夜間中心に営業していました。
実は、息子さんが街のなかのお店を継いでいて、屋台はボランティアに近い状態だったのです。
もっとも、もとは、この小さな屋台から始まったのです。
だから、この屋台こそ、ご主人の精神そのものなのです。
愛想は、決して悪くはないのですが、ときに、怪しい行動があります。
『お客さん、そこ、座らないで。先客ありさ。』
と、言われても、だあ〰️〰️〰️れもいません。
なのに、ご主人は、誰もいない場所に、ラーメンとか、焼き鳥とか、お酒とか、置いています。
常連さんは慣れたもので、気にもしません。
今日も、珍しく、もと部下を連れた、もう疲れはてたという感じの、やましんさんが来ていました。
『課長、あれ、なに?』
すでに、退職していますが、慣習上、課長なのです。
部長でやめたひとは、部長さん。
『あれか、このおとなりには、見えないお客様がいるんだ。』
『ぶっ! 幽霊、すか?』
『あ、声でかい。気を悪くするから、穏やかにな。』
ご主人が、にたにたしている。
しろとの客の場合は、そう、ご主人が言うのである。
やましんさんも、むかしは、しろとだった。
死に場所を漁っていたものだ。
まあ、いまだに、漁ってはいるのだが。
なかなか、気に入る場所はないものである。
やましんさんは、お薬のせいもあって、わりに安定しているが、それでも、衝動的な行動は起こりうる。
『やましんさん。おとなりさんが、気にしてるよ。』
『え、そですか。気を悪くしたかな。』
ご主人には、一種の能力がある。
幽霊さんとの会話が可能ならしい。
『いやいや、違う。なんか、むかし、縁があったらしいな。』
『どき。誰だろう。』
『あんた、おさななじみみたいだ。』
『しんちゃんかしら。』
『ああ、そうだそうだ。』
『まだ、さ迷ってるの?』
『いやあ、なんか、盆帰りの途中、気になって寄ってくれたらしい。』
『あ、そりゃ、良かった。』
『心配してるぜ。なんか、やましんさん、雰囲気悪いらしい。うしろに、やましんさんを、あっち側に引きずり込もうとしてる、ちょっと、いじけた幽霊さんがいる。』
『あやま。そりゃ、まあ、いるだろな。』
『気を付けるように言ってる。あえて良かったと、来年また来る。ばいばい、と。』
『ああ、あえて良かった。ずっと気にはしてたから。』
『いっちまった。みためは、幼稚園生みたいだ。』
『ああ、ある朝、パンを買いに行って、バックしてきたバスに引かれたんです。』
『それは、可愛そうに。』
『ええ。でも、天国に行けたなら、良かった。もう60年もまえのことだから。』
『パチ👀📷✨課長、なんか、やはり、ばっちり、狙われてるみたいでしね。』
『なんだよ、きみ、わかるの。』
『いえ、わからないけど、ほら、いまの、ショット。ほら。ここに。』
やましんのうしろに、女性の影らしきものが……わりに、はっきり、写っているのです。
『おお、おお。この方は、やましんさんに、いつも、寄り添って、いるんだ。というより、護ってるかんじなんだなあ?だれだい?』
『いやあ、わからないなあ。母意外には、嫁さんしか、女性の縁はないなあ。とくに、他界したような、方は、いないように思うな。』
『ふうん。素性を、訊いてやろうか?』
『いや、いいです。知らないほうがよいことはあるものです。』
『まあな。』
『ほら。うまいだろ。もっと、いろいろ、ある。ここの、カレーは、絶品なんだ。』
『屋台でカレー、すか。』
『うまいよ。神戸仕込みだ。海外には行けなくてなあ。』
『じゃあ。かれー。』
『あいよ、カレーふたつね。』
『あら。』
『どうせ、くうんだからさ。』
『………恐れ入ります。あ、はい? カレーすか。ありがとうございます。』
どうやら、となりに、なぞの女性幽霊さんが座ったらしいのでした。
あっという間に、カレーがみっつならんだのです。
まだ、11時を廻った辺り。
夜は、ながすぎるほど、長いのです。
屋台の向こうには、恋人のベンチ、と呼ばれる、ふたりがけの大きさのベンチが、並んでいます。
この、公園の聖地です。
気楽に座るべきではないと、されています。
もちろん、座ったって、違法ではありませんよ。
そう言えば、やましんさんも、来はじめたころ、事情が判らずに、ひとばん、ずっと座ったことがありました。
その下は、『恋人たちのがけ』、と呼ばれます。
柵が設けられていますが、じつは、だれかが細工していて、開かないことはない、わけなのです。
看板が何本か立っています。
電話番号が、書いてあります。
最後の、回避を呼び掛けています。
『ここは、生者と死者が、語り合う場所であって、心中する場所ではない。』
ご主人は言います。
『あのふたりは、あぶないな。』
たしかに、するすると、柵に近寄るふたりの姿があります。
少しもめてるみたいです。
やがて、ご主人の、スマホが、鳴り出しました。
『でばんだぜ。ちょっと、店、見ててくれ。』
ご主人は、崖の上のふたりに向かいます。
屋台のおじさんは、自決防止員でもありました。
しばらく、やりとりしたあと、おじさんは、そのふたりを、屋台の向こう側に、すわらせました。
特等席とも、呼ばれます。
『なんだか、いろんなことが、ありそうですねぇ?ここは。興味深いな。首都に座っていたら、わからないなあ。』
『そうなんだ。ぼくも、あんな、退職して以来、ずっと、ここに来てる。監視してるより、されてる側なんだ。あの崖は、お一人様は、使えない、訳ではないしな。でも、この屋台がある限り、決行はけっこう、難しいよ。』
『ぷっ。場所、変えたらどすか?』
『まあ、きみは、『危険退職者監視員』だろう。どちらかと言えば、消したい側だろ。いやいや、わかってるさ。いいんだ。なんだか、ややこしい世の中になったね。自殺が解禁されて以来、わけわからないよ。』
『まあ、現世とあの世の、合同政権ができたから、しかたないすよ。』
まあ、こうなったら、宇宙人にでも、援助に来てもらいたいところなのです。
あ、なにか、来た。
天の助けでありましょうや。
………………………… おしまい
『さかいやま公園』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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