兄弟。里帰り

里帰り


俺は今、夜明けに向かうトラックに乗っている。年末ということもあってか、高速道路は車が多く走っているように思える。隣でトラックを運転しているヤツの顔を見ると、遣る瀬無い気持ちになった。小さなため息が漏れる。

「はあ。何で俺はお前と一緒にいるのかねえ。嬉しくねえわ。」

「それはこっちの台詞だ。僕だって母さんに言われなかったら、兄貴と里帰りなんてしてねえよ。」

「まさか里帰りを拒否したら、殴られて車に乗せられるとは思わなっかった」

「言葉で説得するよりこうしたほうが早いと思って。」

涼しげな顔が言った。腕には包帯が巻かれている。それは仕事中に負ったものらしい。

「そういや、おまえガキの頃、学校に行く前に母ちゃんと離れたくないってよく泣いてたな。」

細い腕で母さんの服の裾を掴んでいた手が、大きく見えた。

「うるせえ。昔のことはいいだろう。今の兄貴は音楽をやって、それと同時に日付が変わるまでパチンコ屋に居るような人間になったよな。昔はいじめられてる人を助けるような人間だったのに。」

「・・・そんなことはいいだろう。お前はなんで、警察官になったんだよ。」

「別に。」

言いながら、弟は音楽を流し始めた。それは街中を歩いていると自然と耳に入ってくるようになった曲。俺が組んでいるバンドの曲。

「へえ。案外俺のこと嫌いじゃないんじゃない?」

弟は音量を上げた。悪い気はしなかった。

俺は窓を開け、顔を出した。冷たい風が心地いい。その時、鼻血が流れていることに気づく。

うわあ。絶対あいつにに殴られた所為だ。さいあく。

車から流れている曲は、ちょうどサビにさしかかった。

「〜♪」

合わせて俺も口ずさむ。テーマはなんだったかな。家族とか友情とか、ありきたりなものだった気がする。

「兄さんが、弱い人を助けてるところを見たからだよ。」

突然そんなことを言うもんだから、歌うのをやめて隣を見る。ちょうど渋滞に差し掛かったらしく、ばつが悪そうに弟は顔をそらす。

「はは、そっか」

呟き、今聞いた言葉を反芻する。

そうだ。思い出した。

 この曲のテーマは兄弟愛。

クサすぎて反吐が出そうだ。でもそうだな。

「たまには里帰りも悪くないかもしれないな。」

顔をそらしたままの弟が、かもな。と言う。

朝日が昇り始めた。徹夜でパチンコを打っていた目に染みる。眩しすぎて、暖かくて、俺は目を閉じた。

「家に着いたら起こしてくれ。」

「は、嫌だね。」

渋滞が緩くなったのか、冷たい風が入ってきた。


それを肌で感じながら、今日はいい日になるかもしれないと思った。


里帰り 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

兄弟。里帰り @Sorano_hibiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ