少年少女冒険団

酒呑 旭

第1話 出会い

 ある日、緑の村バルオキーの村長から頼み事があると呼び出されたアルド、エイミ、サイラス、リィカの4名は、時空の穴を通り月影の森を抜け、ヌアル平原を歩いていた。


 「じいちゃんから頼み事なんて、なんだろうな」


 いくつになってもたくましい村長の頼み事は珍しい。村の自警団の頃以来ではなかっただろうか。


 便りを受け取ってから数日。バルオキー村出身のアルドは、自分の育て親に会えるのを楽しみにしていた。普段からやわらかい表情がさらに明るく見える。


 「アルドさん、村長サンに会うノハお久しぶりデスネ」


 リィカはそんな仲間の様子にデータからいち早く気付いていた。表情こそ変わらないものの、全身で嬉しさを表現している。


 「このところ忙しくてなかなか帰れてなかったからな。久しぶりにみんなでご飯でも食べような」

 「フィーネ殿の料理は逸品でござるからな。楽しみでござるよ」

 サイラスは同意した。


 妹の手料理を、祖父と妹と三人で囲って食べていた日々が懐かしい。今日の晩は、仲間たちも合わせた大所帯での食事になるのだろうか。楽しみだ。


 すると、エイミが訪ねてくる。

 「おじいさんからの手紙には、なんて書いてあったの?」

 「えーと、警備みたいなことになるとは書いてあったけど、詳しいことは書いてなかったな。来てから伝えるって感じでさ」


 焦ったような文面ではなかったから、大変な有事ではないだろうが、わざわざ直接伝えたい依頼など珍しい。




 和やかな会話が続いていた一行だったが。


 「ちょっとアルド、あれ!」

 突然エイミが叫んだ。


 エイミが指し示した先を見ると、4人の子供達。それだけならよかったが、子供達の周りには、魔物アベトスが囲むように対峙していた。


 「アベトス!? なんでこんなところに!」

 「子供達が囲まれているでござる!」


 アベトスはゴブリンよりも大柄で力が強いことが特徴の、月影の森で見られる魔物。ヌアル平原で見られるのは珍しいことだった。


 「アルドさん! 助けなくテハ!」

 「ああ!」

 声をあげるリィカ。正義感の強いアルドたちは、子供たちを助けようと頷き合う。


 しかしアルドたちが慌てて駆け寄ろうとしたそのとき、子供達のうちの一人、活発そうな少年が叫んだ。こちらに気付くそぶりは見せない。


 「いまだ!」


 その声を合図に、少年少女たちは一斉にアベトスへと飛び掛かる。アルドたちは予想外の出来事に驚きを隠せない。


 バキ、ドカ、ドゴ!


 上がる土煙。聞こえるのは攻撃音ばかりでなにがおこっているのかはわからない。しばらくして音が止む。土煙も止み、段々視界が開けてきた。


 「あの子たちは!?」

 エイミが心配そうに声をあげる。


 アルド達が急いで駆け寄ると、そこに見えたのは元気な子供たちの姿。


 驚くことに、子供達は4人でアベトスを倒してしまっていたのだ。


 大人でも戦いをためらう巨体に、大きくなるとさらに狂暴化するアベトス。ためらいなく飛び掛かる様子は普段から戦い慣れている者の動きだった。

 子供ではあるものの、その身に似合わず中々の実力者たちであることが伺える。



 「よっしゃあ! 余裕余裕!」

 先ほど、いまだ! と声をあげていた活発そうな少年が剣を掲げて勝利を知らせる。


 「よし、みんな集まって! 今日の反省会だ!」

 続いて利発的な少年が声をあげ、子供たちは集合する。


 「ちょっとネル! どうして私より先に動いたのよ! 今日は私が1発目を打つって前の話し合いで言ってたじゃない!」

 小さく可愛らしい少女は鋭い目の少女に向かって抗議する。


 「アベトスがいつもと少し違う動きをしていた。チャコの魔法より私の弓のほうがもし予期せぬ動きをされても回避がしやすい。とっさの判断力は大事だ」

 鋭い目の少女は冷静に返した。


 「何よ! いっつもすました顔しちゃって!」

 アルドたちに気づかず、口々に今の戦いについて話し合う子供たち。二人の少女の意見の応酬はだんだん激しくなっていく。


 アベトスを倒したどころか次々と戦いに関する議論を行い始める子供たちに、アルドたちはあっけにとられていた。


 しばらくたってようやくアルドたちの存在に気付いたのか、利発的な少年が他の子供たちに声をかけた。

 「二人共、落ち着いて。どうやら誰かきていたみたいだ。……こんにちは、お兄さんたち。僕らに何か御用でしたか?」


 アルドはあっけにとられたままだったが、声をかけられたことで首を振り気を取り直して少年たちに話しかける。


 「君たち、強いんだな」

 「襲われてると思って助けに来たんだけど、いらない心配だったみたいね」

 あまりの強さに驚きはしたものの、とにかく子供たちが無事でよかった。穏やかな表情でアルドに続いてエイミも話しかける。


 「そうなの! 私たち強いの! カレク湿原に出たってそうそう負けることなんてないんだから! 子供だと思って甘く見ないでよね!」

 小さな女の子がぴょこぴょこ飛び跳ねながら自信ありげに主張した。


 アベトスとの戦闘の様子はよく見えなかったが、ヌアル平原からバルオキーを挟んで反対側、王都に近いカレク湿原に出現する魔物はヌアル平原に出現する魔物よりも強い。やはり子供たちは見た目に寄らず中々の実力者だとアルドたちは再認識する。


 「あれ、アルド兄ちゃんじゃん! いつ帰ってきたの?」


 そう気軽にアルドに声をかけたのは活発そうな少年。よく見るとアルドはその少年に見覚えがあった。

 背のたけに似合わず活発で、自警団として働くアルドやダルニスの後ろをついて回っていた男の子の姿を思い出す。以前より背が伸び、少し顔立ちも凛々しくなっているような気がするが、明るい笑顔は記憶のものと完全に一致する。

 よく見れば他の子供達も今まで関わりこそあまりなかったものの、バルオキーで何度か見かけたことがある子供達ばかりだった。バルオキー近くの出身なのだろう。


 「ん? ……アットか! 久しぶりだなあ! 大きくなってて気付かなかったよ!」

 「なんと、アルドの知り合いであったか」

 サイラスは驚いた様子で声をあげる。


 「ああ。バルオキーの子だよ。それにしても、強くなったな、アット。俺驚いたよ」

 村の子供の思わぬ成長ぶりにただ驚くことしかできない。

 


 「ちょ、ちょ、ちょっとアット! アルドさん!? なんてこと、今気づいたわ! ああ、英雄が目の前で話してるなんて!」

 可愛らしい少女は大きな目をこれでもかというほどに見開き、きらきらとした目でアルドたちのほうを見つめてくる。先ほどの自信満々な態度はかけらも見えない。


 「さ、サインとかもらえたりできないだろうか……?」

 鋭い目の少女もほんのりと頬を赤くして、もじもじとしている。

 急に態度が変わっていく子供達。


 「俺たちのこと、皆知ってるのか?」

 「もちろんです! 魔獣王を倒した英雄といえば、ぼくらの憧れの的ですから! アルドさん、エイミさん、サイラスさん、リィカさんですよね!」

 利発的な少年が言う。その目も輝いていた。


 「何度かバルオキーに帰ってきたりしてただろ? 俺たちこっそりアルド兄ちゃんやその仲間たちの事を陰から見てたりしたんだぜ!」

 アルドの知り合い、アットは胸を張って言う。


 「それストーカーって言わない?」

 エイミが引いたように話す。


 「俺たちの憧れなんだ! アルド兄ちゃんに、エイミ姉ちゃん、サイラス兄ちゃんにリィカ姉ちゃん! ばっちり村長からきいてるぜ!」


 「そうだったのか。俺たち、じいちゃんの頼み事を聞くためにさっき村に帰ってきたところなんだよ」

 アルドはアットに今回バルオキーへ向かう理由を話す。


 「村長の頼み事……? あれ、もしかして村長の言ってた冒険者って、アルド兄ちゃん達の事だったのか!?」


 アットは何か思いついたように言う。


 「……ん? アットたち、俺たちがじいちゃんに頼まれたことについて何か知ってるのか?」


 「しってるよ! だってお兄ちゃんたちの頼み事、チャコたちと一緒にやるからね!」


 「チャコ、まだ決まったわけじゃないよ。いや、そうだったら僕も嬉しいけどさ。今日の訓練はこれくらいにして、村長に確認するためにバルオキーへ戻ろうか」

 「そうだな、そうしよう。とりあえずバルオキーまで一緒に行こうぜ! よろしくな、兄ちゃんたち!」


 「よろしくお願いしマス、アットさん。……ト? 仲間の方々ノお名前をお伺いしてもよろしいでショウカ。ワタクシKMS社製汎用型アンドロイド・リィカモデル。リィカとお呼び下さい」

 「そうね、私はエイミ。よろしく」

 「サイラスでござる」

 「知ってるみたいだけど一応。俺はアルド」


 「あ、そっか、自己紹介が先だよな! 俺はアット。バルオキーの冒険チーム、ミグタムズのリーダーで、アルド兄ちゃんにはちっちゃい頃よく遊んでもらってたんだ。それから俺の仲間、ツィオ、チャコ、ネルだ。まだ決まったわけじゃないけど、これからよろしくな! 魔獣王を倒したアルド兄ちゃんたちが手伝ってくれるなら、ひゃくにんりき? だな!」


 アットの紹介に合わせてツィオはお辞儀をし、チャコは手を振り、ネルは頷いた。アルドたちが以前魔獣王と戦い勝利したという話は英雄譚のように伝わっている。アルドたちは村の子供たちの憧れの存在であった。


 「僕たちが次に受ける予定の依頼の話なんですけど、村長と話していたら冒険者の方々に手伝ってもらうという話になって。きっとその冒険者の方々って、アルドさんたちの事だと思うんです。確かセレナ海岸周辺の警備、だったはずですが、詳しい話はまだ聞けてないので、村長のところに行きましょう」

 ツィオが話す。


 アルドたちに加え、アットたち4名を含む一行は村長の話を聞きにバルオキーへと向かった。

 


 アルドの実家、村長の家にたどり着くと、村長は一行を快く迎え入れた。


 「よく来たな、アルド、エイミ、サイラス、リィカ。おお、アットたちと合流していたのか。なら話が早いのう。」


 「村長! やっぱり手伝ってくれる冒険者って、アルド兄ちゃんたちのことだったのか!」

 アットが興奮した様子で村長に話しかける。


 「そうじゃよ。アルド、今回の依頼なんじゃが、アットたちに頼んであるものでな。実力のある物たちの集団ではあるんじゃが、何せまだ若い。一応というこで、一緒に依頼を受けてもらいたいんじゃ」


 「ああ、そういう話なら任せてくれ。アットたちが強くなってて、俺びっくりしたんだ。一緒に戦えるのが楽しみだよ」


 「そう言ってもらえるとありがたい。依頼内容について詳しく話しておこう。港町リンデの町長から、最近王都へ向かう荷馬車が襲われる事件が起きていて困っていると相談された。おそらく魔物の仕業だと考えられておるが中々尻尾を出さんようでな。念のためパトロールを願いたいと聞いている。ユニガンの騎士団は城の再建に追われて人手不足何だそうじゃ。相手がわからない以上不測の事態にも備えておいた方がいいじゃろうと思ってな。アットたちと共に行ってきてもらえぬか。アルド」


 王都ユニガンと港町リンデをつなぐセレナ海岸は、魔物も魔獣も出現する。次元の穴も開きやすく、不測の事態に備えておくに越したことはないだろう。なにせ村長も大変な実力者であるので従うのが賢明だ。普通の老人はビームは出さない。


 「荷馬車が? それは大変だな。リンデからの荷馬車が止まると東方からの物資も止まるってことになるもんな。よし、まかせてくれ、じいちゃん」


 もっとも、人助けが日常のアルドに、迷う余地はないのだが。


 「ありがとう。そういってもらえるとありがたい。場所はセレナ海岸じゃ」

 「わかった。じゃあみんな、セレナ海岸に向かおう!」


 アルドはアットたちに話しかける。


 「私たちは、ユニガンより向こうに行くには装備も知識も経験もまだ心もとない。よろしく頼む」

 ネルが返事をする。


 「依頼した冒険者の方々が本当にアルドさんたちだったとは。一緒に戦えるのが楽しみです!」

 ツィオも返事をする。



――



 セレナ海岸への道中、話は続く。

 「私たちのチーム、ミグタムズは、アットがリーダーで、ツィオが副リーダーなの!」

 チャコが飛び跳ねながら話す。まるでひよこのようだ。


 「アット殿、すごいでござるな。その若さでリーダーとは」

 「あ、うん。ありがとう」

 アットはサイラスに褒められて、照れくさそうに笑う。その表情に、一瞬影が映ったように見えたのは、アルドの気のせいだっただろうか。


 「アットたちが自警団の手伝いまでしてくれてたなんて、知らなかったよ」

 「ずっと村の人に剣の稽古なんかはしてもらってたんですけど、魔獣の襲撃があったりして、俺たちもっと強くならなきゃって思ったんです。自警団の手伝いをし始めたのはは最近になってからです」


 少年たちなりに考えることがあったらしい。自分の姿や行動を見て、成長してくれている子供たちを見て、アルドはうれしく思った。


 「頼もしい限りでござるな。今回の依頼、共に戦うことになるのが楽しみでござるよ」


 そんな会話を楽しみながら、一行はリンデへと向かったのだった。

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