《同日午後九時二十分。ミシェルの家。ジャン》



 タクミから連絡を受けて、ジャンはエドゥアルドとともにひきかえした。

 呼び鈴を押しても誰も出てこない。苛立ちながら、急いで庭へまわる。窓も強化ガラス製でとても割れないが、どこかひらいていないかと考えた。


「エド、むこう見てくれ。おれはこっち行く」

「ああ」


 二手にわかれて建物の周囲を急いでいると、二階の窓があいている。そこから悲鳴が聞こえた。


「エド! こっちだ!」


 大声を出しておいて、ジャンは庭木によじのぼった。この枝ぶりなら、ジャンの体重でも支えられる。庭木から一階の屋根にあがることができそうだ。


 ふだんのジャンなら躊躇ちゅうちょしたかもしれない。職業はモデルだし、目立つケガを負うのは困る。


 だが、このときは無我夢中だった。ミシェルが危ないと思うと、ほかのことはまったく考えられなくなっていた。


 すばやく一階の屋根にのぼり、ひらいた窓からなかへ入る。


 その瞬間、ジャンは目を疑った。

 クッションや椅子を盾にして、逃げまどう女たちを、ナイフを手にした殺人鬼が追いまわしている。

 殺人鬼は、小さなクマだった……。

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