唯と一の何気ない会話

西園寺ひなこ

第1話

「ねえ姉さん、姉さんは他人の心がわかったらいいと思う?」

「そうね、私はその方がいいわ」

「ふーん、そうなると他人の負の感情をたくさん感じることにならない?」

「人は基本負の感情をもつ者なんだから別に気にしないわ。私はそんなことよりも相手が自分にどう動いてほしいかわかる方がいいわ」

「まあ確かにそれがわかれば苦労しなそうだね」

「ついでに言っておくと陰口で病むっていうパターンがよくあるけど、もし相手の裏の感情がわかっていればわざわざ自分のこと嫌いな人と関わる必要もない。何考えてるか分からない人のことがわかるのもいい点ね」

「さすが姉さん。効率重視の考え方だね」

「何?はじめのくせに相手の考えてることでも考えてドキドキしたいとか思ってるの?」

「それはないな。ハッピーな展開は二次元だけでいいや」

「そうよね。そのための二次元だもの」

「でも姉さんはギャップのある人好きだったよね?」

「ええ、見た目が怖いけど優しい人とか、見た目優しいのにサイコパスとかね」

「それさ、心がわかったらそのギャップ楽しめなくない?」

「馬鹿ね、そんなことないわよ。例えば、見た目も性格も優しい人がなぜサイコパスになったのか。それを考えるのが楽しいんじゃない」

「そんなもんなのか。しかし姉さんは相変わらず人間観察と称して、他人を暇つぶしに使うよね」

「何言ってるのよ。結局のところ、人間なんて他人を暇つぶしに使ってるのよ」

「姉さんは頑なに友情とか愛情を信じないもんね」

「当たり前でしょ。過去何百年か前の話は知らないけれど、少なくとも現代社会に友情や愛情なんてものが存在するとは思えないわね」

「まあそうだね。年々引きこもりとか自殺者の数は増えてるわけだし。なんで昔と今じゃこんなに違うんだろ」

「人間はもともとコミュニケーションをとらないと生きていけないらしいわ。過去の人間は遠くの人とつながる手段がなかった。だから嫌でも身近な人間と関わらないといけない。そこで趣味や性格が違えど、身近な人との協力が生まれる。だけど今はスマホ、ネットがある。顔を知らなくても同じ考え、趣味を持つ人とつながることが出来る。つまり、身近の趣味や性格の合わない人とは関わらなくてもよくなった」

「確かに。それって別に悪いことじゃなくない?」

「ええ、だけど一、あなたはネットの人間に悩み事相談できるかしら?」

「できないよ。信頼できないし」

「じゃあ、誰に相談する?」

「僕はたいして信頼できる友達もいないし、親に相談もしないし…いないかも」

「でしょう?そこでカウンセラーが必要になる。だけど、カウンセラーにも相談できない人もいる。つまり、人間関係の軽薄化。昔の人は嫌でも関わらなければ生きていけなかった。今は嫌いなら無視、ブロック、ネットで好きに叩く…こんだけいろんなことが出来る。ネットの人間とつながっていても少しでも意見が食い違えばこういうことはいくらでも起きる」

「最近の人間はキレ性ってことでいい?」

「そうね、我慢が足りないのよ。というか、周りにきちんと話せる人間がいない。そうなると言いたいことはネットで言うしかなくなる。ネットでも言えない人はうつや引きこもりになるし、ネットでストレス発散してる人はアンチになる。仕方のないことなのよ」

「なるほどね」

「まあ、SNSは情報早くて便利だし、アンチコメは黙って報告するから私は便利だと思うけど」

「確かにね、情報収集には便利だ。要は人間が我慢強くなればいいんだね」

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