機巧探偵クロガネの事件簿4 ~都市伝説と怪盗と~

五月雨皐月

プロローグ

 都市伝説。


 まことしやかに囁かれる噂や伝承、あるいは非科学的な現象や怪異そのものを指す。

 曰く、鋭利な鋏を手に口裂け女が襲い来る。

 曰く、呪いのビデオを見た者は死ぬ。

 曰く、自身の首を探し求めて首無し騎士デュラハンが夜な夜な墓場に現れる。

 曰く、もう一人の自分ドッペルゲンガーに遭遇すると死ぬ。


 ――などなど、枚挙に暇がない。


 地方都市に留まらず、世界各地に迷信めいた都市伝説は点在しているが、大抵はフィクションの中に存在する架空の存在に過ぎない。

 映画や小説などの娯楽でよりその存在感を民衆に認知させ、科学技術が発達した現代においてなお、様々な形で良くも悪くも語り継がれている。

 あらゆる事象が科学によって解明できる時代において、非科学的な存在はもはや『幻想』と化し、実在しないからこそ『伝説』になりえるのだ。

 だからこそ、人は都市伝説に畏敬と憧憬の念を抱く。


 それは鋼和市こうわしにおいても例外ではない。


 伊豆諸島と小笠原諸島のほぼ中間に浮かぶ人工島そのものが、サイボーグやサイバー技術などの先端技術を十年先取りした実験都市。

 この科学技術の粋を結集させた街においても、都市伝説は存在する。


 それは遥か昔から今日に至るまで、民衆の心を捉えて離さない存在。

 セキュリティが発達した現代だからこそ際立つ存在であり、事前に予告した通りに標的を盗み去るその手際はまさに芸術。

 長い犯罪史の中でも、ひときわ異彩を放つ存在として君臨する劇場型犯罪者。



 ――すなわち、『怪盗』である。

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