煩悩
大晦日。
美味しいと評判の蕎麦屋で腹を満たし家路につく。
年明け早々、講師全員で合格祈願に出掛けるあなたは準備を終えて二画面表示でテレビに釘付け。
残り数時間で今年が終わってしまうのに。
「また正月から願掛けすんの?」
「やるよ。ねぇ、今年のゲスト誰だっけ?」
「受験終了まで禁欲生活が始まると」
「そう。え、嘘でしょ、大丈夫!?」
「……キスもなし」
「うん。次、あの曲始まるね」
「……俺が触れるのも俺のに触れるのも、なし」
「そうだね。メドレーだ、いい声だよね」
「テレビばかり観てないで俺を見ろ!」
漸く視線が合う。
「そういう台詞を言えるようになったとは感慨深いね」
とか言いながらのしたり顔がムカつく。
「去年は色々あって話そびれた上に、僕には恒例行事だから気にも留めなくてごめんね、寂しくなった?」
「別にいいんですけど……」
「さあ、どうしましょう?」
「……もういいよ、テレビ観て好きにしてて」
「きみの言う通りにしてるのだけど、それも止めるべき?」
あなた好きな曲のサビが流れてもちらとも逸らさぬ瞳。
「我慢できる自信がないから今すぐにでもお願いしたい。あなたは……したい?」
「ふふふ、して欲しい」
「じゃあ、する」
「くす、かわい……むちゅ」
「かわ……むちゅちゅ」
「愛しい……って最後まで聞くんだね」
「否定したい褒め言葉ではなく、激しく同意な口説き文句なので」
2ヶ月ちょっとの試練の日々が少しでも軽く感じるよう濃密な大晦日にしてやる。
「ねえ、知ってる?
願掛けって祈祷後から始めるそうだよ」
「そういう事は早く言え!」
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