第9話 山ギツネと童
「何をしとるんじゃ?」
山ギツネは
家の裏で割れた板を集める
山ギツネの事を覚えていたようで、にこっと笑ってから答えた。
「屋根が壊れたんで、集めとる」
「大変そうじゃ、手伝おう」
山ギツネはそう言って
まぁ、板が割れたものだとわかる。
子供天狗がとても大事な板みたいだ、と言うもんだから、そりゃ何かすごい板なのかと想像していたが普通の板に見える。人間とはまさに不思議な生き物だ。
板を探しながらこっそり
いつもの笑みも消えている。これでは子供天狗も心配して当然だ。
「屋根が壊れたんか、何があった?」
「ゆうべ、急に風の音がしたんだ。そしたら家が壊れるくらいの音がしてな、外に出てみたけど真っ暗でなんにも見えんかった。朝なって見て見たらこの通りよ」
急に吹いた風。
子供天狗が何をしたのか想像がついた。
「そりゃあ災難だな」
「天狗の災いだ」
山ギツネは心臓が飛び出すかと思った。
「この辺りの天狗は人間に悪さするって言われとるじゃろ?ご先祖様たちが山の
山ギツネはこの辺りの狐であるが、そんな話が人間の間で噂されているとは全く知らなかった。
「何が天狗様か、お供えせんかったらこんな意地悪をする」
「おいらのおっとうとおっかあが死んだのもきっと天狗の悪ささ」
歳に見合わぬ小さな手で、一生懸命土をかいている。割れた板が見つからぬので、土の下にもぐっているのではないかと思ったのだろう。
「新しい板を打ったらダメなんか?」
山ギツネは思った。
確かに家は家族の形見かもしれないが、あの世のおっとうも、かわいい童が泣いているよりはいいだろう。
「だめだ!あの板にはな、
月が埋まっているとは物騒である。しかし
「…ばかなこと言ってると思ったか?」
山ギツネが何も言わずに呆気に取られているので、
「本物のお月様じゃない。だけど、あの板を初めて見た時においらがお月様だって言ったんだ。そしたらおっとうが、二日月に見えるな、すごいぞって言ったんだ。」
板に模様があって、それが細い三日月に見えた事を父が褒めた、という事だ。
「おっかあもそれ見て笑ってた。背中の弟も珍しく泣いてなかった」
おっとうとおっかあは死に、背中の弟は今どこにいるのか、とてもじゃないが聞く気にはなれなかった。
「あの板が無くなったら、おっとうもおかあも弟もいないようになる気がする」
これは大変な事をしたもんだと、子供天狗を思い浮かべて思った。
山ギツネは
「板は見つかる、だからおっとうもおっかあも弟も大丈夫だ」
「そうだな」
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