雪嫌いの成人男性と、謎の押しかけ雪女(自称)のふたりが、なりゆきで同居生活を始めるお話。
王道の異種婚姻譚、またある種の『落ちもの』としても読める恋愛劇です。タイトルの通り雪女伝説と鶴の恩返しを合わせたもの……と、そう言いきってしまっては少し語弊があるのですけれど(それぞれの昔話そのものではないため)、お話の筋や構造としてはちょうどそんなイメージの物語。古典的ともいえるシンプルでわかりやすい展開を、約6,000文字という手ごろな分量にまとめた、読みやすくまとまりのいい小品といった趣の作品です。
登場人物たち、というか主人公ふたりのキャラクター性が好きです。堅実で安定感のある話運びの中、ストーリーの要請する役回りをきっちりこなしながらも、でも絶妙に読み手の心に食い込んでくる〝個〟のようなもの。例えば、視点保持者の男性である那月さんの場合、出会いのシーンの警戒っぷりがとてもツボでした。「未成年だったら厄介」という感想にほの見える社会性と、そしてそこからの容赦ない狂人扱い。さもありなん、というか、この辺の「わかる」となる感じ。読者の立場で小説として読んでいる(=雪女という超常的存在を許容できる)身としては「頭が固いなー」なんて感じながらも、でも同時に彼の立場で考えたら「そりゃそうだよね」と共感してしまう、この「創作の物語だからこそのダブルバインド」のような感覚がとても心地いいです。
また同様に、雪女の雪美さんも。いや同様というかさっきの那月さんの場合とはむしろ真逆なのですけれど、意外と有能というか強キャラっぽい側面があるようなところ。最初は那月さんに共感していたものの、でもそこから少しずつ個性が降り積るような、このなんともずるい感じ。なんだかキャラクターのことばかりになってしまいましたけれど、総じて彼や彼女の姿を丁寧に描いた、切なさと暖かさに溢れた恋物語でした。