♰11 順位上げ。
夜になって、パーティーは終わり、通常通り授業が行われた。
私は私で、ランク上げ試験の勉強を続ける。
「おや? 来客だね」
フェイ校長が、窓の方を見た。
来客と聞き、私も気になって顔を向ける。
敷地内に入ってくるのは、なんとキングス王子だった。
後ろにいるのは、メイサという女子生徒。武器らしき長いものを所持している。袋に入っていてわかりにくいが、刀か長剣だろう。
「ロイザリン・ハート! 出てこい!」
キングス王子のお目当ては、私。
さっき止められた決闘を申し込みにきたのだろうか。
「決闘は学園長に止められたでしょう? キングス殿下」
私は窓辺に座って、頬杖をつき確認する。
「学園の外で学園長に従うつもりはない!」
やっぱり、決闘を申し込みにきたのか。
私は今まで服の下に隠していたダグを取り出した。
「私、明日ランク上げの試験なの。相手する暇はないのでお引き取りください」
「シルバー冒険者なら手短に済ませられるだろうが! 決闘を申し込む!」
ん? シルバーだってことにあまり驚いてないな……。
もしかして……リュートさんに聞いたか?
「さっきみたいに余裕ぶってないで本気出せよ!?」
「本気、ね」
その言葉には、弱い。
どうしたものか。
「色取り合戦では、危険な魔法も武器もなしだった! さぁ、本気でかかってこい!!」
腰に携えた剣を抜くキングス王子。
やる気満々だ。
「行ってこいよ。オレだったら、武器抜くまで襲う」
「っと! ゲッカ……」
ゲッカに背中を押されて、窓辺から降りてしまう。
決闘しないと襲い続けるのかよ……。
「んー、えっとぉ。メイサちゃんだっけ? 君はキングス殿下の護衛か何か?」
「バカにすんなよ!」
「私はただの同級生です。ただの同級生です」
「二回言った……」
お怒りなキングス王子の後ろで、キリッとメイサちゃんは言い切った。
「目的はキングスと同じです。本気のあなたと手合わせしたいと思い、来ました」
私ってば、モッテモテ……。
「じゃあ、二人ともまとめて相手していい?」
「!? まだ舐めるのか!? 貴様!」
「言ったでしょう。明日試験なの。手早く済ませるよ」
歩み寄って、私はホルダーから両剣を抜く。
逆手に握って、交差させる。
「くっ!」
「……!」
反射的に構えるキングス王子とメイサちゃん。
「それでは、開始」
フェイ校長が、合図した。
「風よ(ヴェンド)」
風の魔法で、間合いを詰める。
動揺したが、二人はほぼ同時に剣を振った。
両剣で止める。んー、鬼族のゲッカに比べると、弱い。
割と簡単に、二人の剣を押し退けることが出来た。
氷属性を付与しておいたから、手まで凍りついている。
「火耐性持ちのくせに、氷属性付与……! なら、弱点は!」
「雷属性!」
「二人を相手にしたこと、後悔しろよ!!」
「「雷よ(トォノド)!」」
一度、距離を取ったキングス王子とメイサちゃんは、バチバチと剣に雷を纏わせた。
すぐさま耐性も適性もない、私の苦手な雷属性で挑んでくる。
「いいね!」
弱点を容赦なく突く。
面白いと笑ってしまう。
逃がさないと言わんばかりに、左右からバチバチの剣を振られた。
再び、両剣で止める。バチッと電流が走るが、ロウィンの咆哮と比べても、弱い。
麻痺には、ならないだろう。これも雷トカゲの鱗の防具のおかげか。
キンッ!
二つの剣を上に弾き、私は両剣の柄を、二人のお腹に食い込ませた。
「風よ(ヴェンド)踊れ(ターン)」
痛みで顔を歪ませても、上に向いた剣を振り下ろそうとした二人に、風の魔法を唱えて吹き飛ばす。
「風の魔法、得意だよねーロイザちゃん。火属性と氷属性持ちだっていうのに」
ハルの声を耳にするが、戦っている二人から目を離さない。
まぁ、使い勝手がいいからね。風の魔法は。
「風よ(ヴェンド)!」
グランドを転がったが、すぐに態勢を整えたメイサちゃんが風を纏って後ろに回った。
同じくキングス王子も、風の魔法を行使して、挟みかける。
風の魔法を十八番にしているのは、私だけではない。みたいだな。
「でも、遅い」
「何!?」
蹴りでキングス王子の手を押し退ける。軽いな。
メイサちゃんの剣は、後ろへ回した両剣で止めた。でもこの体勢で、ずっとメイサちゃんの攻撃を止めるのは難しい。少し押し退けてから、右手の短剣をメイサちゃんの首に当てた。
「はい、私の勝ち」
左手の短剣は、キングス王子の首に添える。
終わりだ。
「くっ……!」
「……」
キングス王子もメイサちゃんも、負けを認めた顔をする。
なので、両剣はホルダーに収めた。
「やはり強いですね。私もシルバー冒険者には負けない自信があったのですが……甘く見ていました」
メイサちゃんも剣を収めると、一礼する。
「冒険者登録してないの? メイサちゃん」
「レイネシア学園では、卒業まで冒険者登録はしていけないルールですので……」
「そうなんだ」
私の学校では、ちょっとしたお小遣い稼ぎに冒険者業をやっていた生徒達が多かったのに。
王都一の学園は、厳しいなぁ。
「……クソ」
キングス王子に目を向けると、こちらを睨んでいた。
「はい、お開きにしてー。授業に戻って戻って、再開するよ」
フェイ校長が声をかければ、窓に集まった生徒達も席に戻る。
「用は済んだでしょう? 気を付けて帰ってねー」
「っ! バカにしやがって!」
「いや、普通に心配してるだけで、バカにはしてないよ?」
「ロイザリン・ハート!」
「なんでしょう? キングス殿下」
私も窓から戻ろうと足をかけたが、呼ばれたので足を戻してキングス王子と向き合う。
「ぐっ……」
「……?」
「ご、後日……また来る!」
とてもつなく躊躇した様子のキングス王子は、剣をしまうと踵を返して去った。
メイサちゃんも一礼をすると、キングス王子を追いかけるように敷地内を出ていく。
また決闘を申し込むつもりなのだろうか。
……モッテモテだな、私。
授業が全て終わったあと、帰ろうとしたら、クインちゃんに手を掴まれて止められた。
「明日、試験、頑張ってね」
愛らしい笑顔で応援。
「合格してランク2になってなー」
「頑張って! ロイザさん!」
「頑張ってね!!」
ハルに続いて、他の生徒達も応援をしてくれた。
「別に落ちてもいいぞ」
「こらこら、ゲッカ。自分の時にそう言われたら頭にくるだろう? やめなさい」
「すぐ追いついてやるからな!」
ゲッカを宥めるフェイ校長。
「ありがとう。頑張ってランク上げるよ」
クインちゃんの頭を撫でて、生徒達に手を振ってから、宿屋へ戻った。
朝はまたたび宿屋の看板娘ヘニャータちゃんの応援ももらって、冒険者ギルドに向かう。
眼鏡の受付嬢に案内されて、試験会場に入った。
ランク上げの筆記試験に参加したのは、私の他に数人の冒険者がいる。首には、シルバーのダグがあった。同じシルバー冒険者か。
筆記試験は、その通り、筆記試験だった。
机につけば、目の前に紙が置かれ、ペンも渡される。
眼鏡の受付嬢は「始めてください」と告げた。
詰め込んだばかりの知識で試験に挑むのは、少々心許ないが、意外とすらすらと答えを記入。
これもクインちゃんが教えてくれたおかげだろう。
しかし、教えられるなら、クインちゃんはこの試験を合格出来るのではないか。
いや、まぁ、植物の知識だけあっても、シルバー冒険者は務まらない。
クインちゃん、戦いに逃げ腰なんだもんなぁ。
いかん、いかん。集中しよう。
王都付近に生息する植物から、モンスターまで。適切な採取方法や、討伐の仕方。
なんとか全部、答えを書き込めた。
軽く見直してみたけど、自信はあるから、そのまま提出する。
「我が主」
「わっ、ロウィン! 主じゃないって」
会場をあとにすると、すぐに後ろから声をかけられた。
人型のロウィン。またもや和服姿。
私を待っていたようだ。
「再戦、するか?」
「……」
袴の後ろで、ロウィンのもふもふした尻尾が振られる。
遊んでくれることを待つ犬みたいだ……。
再戦は、じゃれることと、そう変わらないのではないか……?
「あっ、ロイザちゃん」
この愛らしく穏やかな声は……。
クインちゃんだ。
「クインちゃん。と、メイサちゃん」
珍しい組み合わせが、歩み寄ってくる。
首を傾げてしまう。
クインちゃんは依頼を引き受けに来ただろうけれど、メイサちゃんは冒険者業を禁じられている身なのに、どうして冒険者ギルドにいるのだ。
「さっき。そこで、会ったの」
「今日が試験と聞きましたので、いると思って覗いてみたところ、会いました」
そういうことかぁ。
「試験。どうだった?」
「クインちゃんのおかげで、きっと合格だよ。ありがとう」
「よかった」
顔を綻ばせたクインちゃんの頭を撫でる。
そんなクインちゃんは、ロウィンと目を合わせると、不思議そうに首を傾げた。
しかし、すぐに私に笑いかける。
「ロイザちゃん。氷の谷に連れてって」
「氷の谷って……ここから三時間くらいのところだったね。しかもシルバーランク3のモンスターがいる。危ないよ?」
クインちゃんに頼まれては断りづらいが、危険なところに連れて行く約束は出来ない。
「ううん。入り口だけでいいの。そこに高値で売れる薬草が生えてるんだ。見分けづらいから、他の人は摘んでないと思う。前に見たけど、シルバー冒険者がいないなら、入っちゃだめだってフェイ校長が言うから……」
「なるほどー」
クインちゃんの植物の知識なら、信用できる。
高値で売れる薬草か。しかし、場所が問題だな。
「入り口だけなら、モンスターに遭う可能性、低い」
「んーでもなぁー」
「お願い。ロイザちゃん。フェイ校長の誕生日プレゼント、買ってあげたいの」
「あらぁー誕生日なのかぁ」
日頃お世話になっているフェイ校長の誕生日。祝いたいだろう。
「けれど、それで怪我されたら、フェイ校長も悲しむよ?」
「ロイザちゃんいれば、大丈夫、でしょ?」
んー。頼られると困るなぁ。
「ハートさん。私も同行させていただいてもいいでしょうか?」
「え? でも、メイサちゃんは冒険者業はだめでは?」
「同行するだけなら、ルール違反にならないです。ハートさんが、足手まといと判断するなら、引き下がりますが」
「ふむ」
真面目そうだけど、ついてきたいらしい。
「我が主。おともする」
「断固拒否」
まだいたのか、ロウィン。
主でもないし。
「じゃあ、一つ約束。氷の谷で万が一、モンスターに遭遇したら、逃げる。絶対戦わず、逃げると約束」
これを約束してくれたら、連れていける。
メイサちゃんはともかく、逃げ腰になるクインちゃんなら大丈夫だろう。
「約束します」
「約束」
クインちゃんは、小指を出した。
それを見て、メイサちゃんも小指を差し出す。
三人で、指を絡ませて約束した。
「我が主」
「主じゃなーい!」
まだいたのか、ロウィン!
シュンと耳を垂れ下げても、無駄だからな!
「おー、いたいた。合格、おめでとう。ロイザリン・ハート様」
そんなロウィンの後ろから顔を出したのは、ギルドマスターだった。
「ギルドマスター。別に私のこと様付けにしなくても……って合格!?」
「身体張って冒険している人達に敬っておきたんだよ。ハート様。そう、合格だ。おめでとう、シルバーのランク2だぜ」
結果出るの早い。
親指を立てて、笑い退けるギルドマスター。
「おめでとう。ロイザちゃん」
「合格おめでとうございます。ハートさん」
「ありがとう……」
二人に祝われて、思いつく。
「そうだ、今から氷の谷の入り口に行こうと思うんですけど……ギルドマスターは危険だと思いますか? この二人を連れて行くのは」
ギルドマスターの意見を聞いておこう。
危ないと言われたら、それまでだ。
ギルドマスターは、二人を見下ろした。
「んー。そうだなぁ、確か一つのパーティが討伐に行っているし、入り口だけなら大丈夫だろう。お前さんがついていれば。念のため、ロウィンを連れてみればどうだ?」
「間に合ってます」
ギルドマスターも大丈夫だと言うから、行くとしよう。
ロウィンのおともは、お断り。
「ははっ。くれぐれも気をつけろよ? 間違っても戦闘なんてことにはならないように。まぁ奥まで入らなければ大丈夫だと思うが……」
シュンと耳を垂れ下げるロウィンを横目に苦笑をしながら、注意するギルドマスター。
「絶対に。戦わない。逃げる」
「ハートさんと約束しました。氷の谷のモンスター相手に、戦いません」
クインちゃんもメイサちゃんも、キリッと言い切った。
「それなら安心だ。ああ、そうだ。新しいダグは今作成中だ。戻ってきたら渡すから、職員に声をかけてくれ」
「わかりました。ではいってきます」
「気を付けてな」
私は二人を連れて、出発する。
新しいダグか。十年くらいずっとぶら下げていたこのダグともお別れだ。
一歩、ゴールド冒険者に近付けた。
この調子で上がっていこう。
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