凛とした朝に。~朝見山大学女子弓道部物語~
@komagawa
第1話 始まりの季節
息が詰まりそうな静寂に包まれた朝見山大学弓道場の射場で、鳥崎涼香はスッと腰を上げると、的前に立った。
ゆっくりと弓を起こし、ピッと的に狙いをつける。
大きく息を吸い込むと、涼香の肺は朝の空気で満たされた。
まるで彫刻のように微動だにせず、じっと時を待つ涼香。
フッと弦に掛かっていた力を解き放つと、シュルッという小気味良い音と共に矢はまっすぐと垜(あずち)に向かって飛んでいった。
トスッ!!
矢は的をわずかに上方に外し、垜に突き刺さった。
キリッとした顔立ちにほんの僅かに浮かぶ焦燥の表情。
乱れる心を整えるかのように、涼香は弓を戻しながら大きく息を吸い込んだ。
朝見山大学弓道部。部員数5名。全員女子で男子はいない。
涼香はその主力選手である。
170cm近い長身。スラッとしたプロポーション。ショートボブの髪型に、クールなルックス。
どことなく近寄りがたい雰囲気を放つ涼香に、臆することなく近づいてきたのは、同じ学科の同級生、水谷翼だった。
あれは入学して間もない頃のこと。
5限の講義が終わり、涼香が学内を歩いていると、
「ねーねー、部活決めた?」
と小柄な翼が、まるで子犬がじゃれつくように話しかけてきた。
「えっ? まだ……だけど」
戸惑いながら答える涼香。
正直、こういうタイプは苦手だった。
「じゃあさあ、弓道部入ろうよ」
「弓道?」
涼香の顔が曇る。
「弓道はちょっと……」
「えーっ、なんでー? 弓道ってかっこよくない?」
「そう……かな」
「かっこいいよ。ほらっ、袴とかビシッと着てさ。絶対、かっこいいって」
面倒なヤツに捕まった。
涼香は内心、この小型犬のような女子から逃れる方法を考えていた。
「ほらっ、行くよ。説明会、すぐそこの教室だから」
翼は涼香の手を取ると、ぐいぐいと引っ張っていった。
ゼミ室の扉には「弓道部説明会」というそっけない張り紙。
中をのぞくと、ちょっと怖そうな雰囲気を放つ金髪の女子学生が弓道着姿で少年ジャンプを読んでいた。
「あのう……」
さすがの翼も、少しおどおどしながら声をかける。
「なに?」
マンガ雑誌から顔をあげようともせず、金髪女は返事をした。
「見学に来た者なんですけど」
金髪女がパッと顔を上げる。
雰囲気は怖いが、なかなかの美人である。
「あっ!!」
涼香の顔を見て、急に金髪女が大声を上げた。
「あんた、鳥崎涼香やろ!?」
つづくhttps://kakuyomu.jp/works/1177354055343496889/episodes/1177354055365687579
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