第2話 貧乏貴族の生き様

 コプカット家は、貴族とは名ばかりの貧乏一家。長女の私は、物心ついたときから朝から晩までよく働いていた。

(それを、嫌だとか辛いとは思わないようにしてきたの)


 両親は気高く堂々としていて、まっとうな人たちだった。

 落ちぶれた身の上を悲観してひきこもり、少ない使用人を怒鳴り散らしてさらに財産を枯渇させる愚を犯さず、とにかく家族の幸せのために働いていた。

 周囲の人々と助け合い、困っているひとがいればすぐに手を差し伸べることで尊敬を集めていた。

 さらには、三人の子どもたち全員に「幸せに生きるためには額に汗して働くこと」を徹底して身に着けてくれた。


 私は教会の煙突掃除やストーブ磨き、裕福な家庭から委託された洗濯や繕い物で家計を助けていたけれど、年頃になるといよいよ勤めに出なければと気が逸っていた。

「どこかのお屋敷でメイドになろうと思うの」

 私がそう言うと、母は少し考えてから言った。


「メイドといっても、最初が肝心よ。下級ハウスメイドからはじめて徐々に成り上ろうと思っても、最初に色がついてしまえばそこから抜け出すのは難しいわ。あなたは頭の回転もいいし、読み書きもできる。手先が器用でピアノもお裁縫も良い腕ですもの。語学を学んで教養を身に着ければ、御屋敷の奥様やお嬢様のお付きメイドとして奉公に上がれるかもしれない」

 そこから、母はどうにかやりくりし、私に優秀な家庭教師をつけてくれた。


 後に知ったけど、白髪交じりの貴婦人、ヘレン先生はかつて王宮勤めをしていて、お姫様の乳母ナニーを務めた経歴の持ち主だったとか。

 引退した今でも、ほうぼうから相談が舞い込んできていた。


 ある日、王宮からの使者が来て、長いこと泣き言めいた相談に付き合わされたヘレン先生は、「わかりました」と返事をした。そして私に言ったの。


「リジ―、あなた王宮に勤めなさい。お仕事は、第三王子アルバート様の家庭教師。わたくしの指導を受けていたあなたですもの、家庭教師のなんたるかはすでに十分わかっているわよね?」

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