第11話
待遇はそれ程悪くなかった。
桜を固定しているワイヤは、天井でレールにつながっていて少しだが移動はできた。
そのおかげで、正はソファと簡易トイレ、冷蔵庫の間を移動することができる。
三島は本やテレビ、ラジオ、タブレットなどを置いて行ってくれたお蔭で退屈することもなかった。
ただ、横になって休むことができないのがつらい。
携帯でそのことを三島に伝えると、研究所員が立ち寝用のベッドを用意してくれた。
彼らが仮眠を取るときに使っているものらしい。
「頭山さん、頭山さん」
立ち寝用ベッドでうたた寝していた正は、女の声で目を覚ました。
目を開くと、正の前に大きなカバンを持った二十代半ばの髪の長い色白の美女がいた。
「細木さん! どうしてここに」
細木はポロポロと涙をこぼして頭山に抱き着いた。
「え!? ちょっと!! 細木さん!!」
「頭山さん! なんておいたわしい姿に……」
「いや、お恥ずかしい姿を見せてしまいました」
「大丈夫です。私が頭山さんを元の凛々しい姿に戻して差し上げますわ」
「え?」(俺って、凛々しかったったっけ?)
呆気にとられている正を余所に、細木はカバンから電動式チェーンソーを取り出した。
「あの……細木さん。そんなもので何を……」
細木はチェーンソーの電気コードをコンセントに差し込むと、正の方を振りむきニンマリと笑みを浮かべた。
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