第7話

「これも、こいつのおかげかな」


 正はにんまりとしながら、頭上の木を撫でた。


「頭山さん、何かいいことありましたの?」


 役員のおばさんに顔を覗きまれている事に気が付いて、正は慌てて表情を引き締めた。


「い……いや、その……」

「電話、彼女さんからですか?」

「いや……会社からです」

「ああ、ひょっとして木を枯らす方法が分かったのですか?」

「いえ……まだ……!」


 せっかくいい気分になりかけていたのが、一気に覚める。

 生まれて初めて女性から告白されたのに、この木をなんとかしないと会いにもいけないのだ。


「おおい、桜の兄ちゃん。そろそろお開きにするけど、その桜切るなら手伝おうか?」


 おっさんがノコギリを持っていた。


「じゃあ、お願いします」


 公園の駐車場に、ワゴン車が走りこんできた。


「頭山さん。あの車、会社のでは?」

「え?」


 ワゴン車の横に「コスモ製薬」のロゴが入っている。

 ちょうどその時、おっさんがノコギリを桜の木に当てたところだった。


「切っちゃだめだ!!」


 車から降りてきた男が叫んだ。

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