エイミの手作りサンド
clara
第1話 事件の発端
--セバスちゃんの家--
「エイミ良かったね」
セバスちゃんが語り掛けるが、エイミは10年ぶりの母の声に涙が止まらない。
母が娘と夫のために残したサウンドオーブ。
その母の記録に娘の記憶が蘇る。
あの時、大丈夫だからと娘の手を離した母の顔。
そして声。
エイミには昨日のことのように残像が蘇る。
その姿につられて、セバスちゃんも泣きそうになる。
「直してあげるなんて息巻いてたけどさ、途中からもし音声が戻らなかったらって思って不安だったよ……。」
「私の技術が役に立って良かった。」
そうセバスチャンは言いながら、エイミに寄り添う。
「ミナサン、大丈夫デスカ?」
リィカが問いかける。
その姿をそっと遠くからアルドは見守る。
「ふーっ、もう大丈夫。」
流れた涙を手で拭いながら、エイミは笑顔を見せた。
「10年分泣いたかな!」
そうエイミはしゃべり始めると、
「わかってたんだ。あの時から。もうお母さんが戻ってこないんだろうなってことは。」
「でもさ、心の奥でちょっと期待していたの。もしかしたらさって。」
「でもこのオーブがあそこで落ちてたってことは、そういうことなんだって思うと、ちょっと悲しくなっちゃって。」
少しの間沈黙が走る。
「でももういいの。もう聞けないと思ってたお母さんの声が聞けたから。それだけでも今日はいい日になったよ。」
「あ、そうだ、このサウンドオーブは私とおとうさんの為って言ってたから、お父さんにも見せに行かないと。」
「みんな、悪いんだけど、お父さんの店まで付き合ってもらってもいい?」
エイミがセバスちゃん、リィカ、アルドにお願いをする。
「ごめーん、エイミ。行ってあげたいのはやまやまなんだけどさ、修理に結構時間がかかっちゃったでしょ?」
「ちょっとまだ他にやらなきゃいけないことがあるから、悪いんだけど、アルドと二人で行ってもらえる?」
すまなそうな顔をしながら、セバスちゃんがエイミに言う。
「あ、そうだよね。ごめんごめん。全然気にしないで。」
「アルドは来るわよね。」
そう言うエイミに対して
「おい、俺には確認しないのかよ。」
アルドが横からツッコむ。
「あれー?だって800年前だっけ?から来たばっかでしょ?」
「ここのことまだ何もわかんないでしょ?」
「私が案内してあげるから、そのついでってことでいいでしょ?」
なんだかエイミに言いくるめられた気もするが、アルドは従い、イシャール堂に向かうことになった。
「ワタシモ、付いていきます」
「うん、リィカもお願いね」
エイミが笑顔を見せる。
「じゃあ行ってくるね、今日はありがと」
エイミは少し不服そうなアルド、リィカを横に携えながら、セバスちゃんに別れを告げると、区画を移動するエレベーターの方に歩き出した。
「リィカ、そっち逆!」
「スイマセン、方向音痴ガデマシタ」
「しょっぱなからかよ」
三人で笑い合う。
「この町って本当すごいよな」
アルドがエイミに話しかける。
「なにが?」
アルドの問いにエイミは振り返り聞き返す。
「800年前。って言っても信じてもらえないかもしれないけど、俺が住んでいた所は空にはなくて、人を運ぶエレベーター?っていうの? そんなものもなかったから。」
「プリズマだってあったけどさ、ここのゼノ・プリズマとは似てるけど、異なるものだったから。」
アルドの言うことをまだ完璧には信じられずにいたエイミだったが、
「そうなんだ。」
と相槌を打つと、
「私もね昔のことは詳しく知らないの」
「100年前に大地を捨てて、天空で生きることを人間は決めたっていうことは聞かされてきたけど、なぜ、そのようにしなければならなかったのかは誰も説明してくれないの。」
「こうだったらしい。今はこうらしい。今となっては誰も確認できないから、色々な噂が飛び交う。」
「そしてなんとか逃げてきたこの天空でも、10年前に合成人間の反乱があったから、それどころでは皆なくなってしまったのね。」
「ソウデスネ。ソノ事件ガアッテカラ、コノ町モ大キク変ワッテシマッタ。」
エイミの言葉にリィカが重ねた。
アルドは少し俯くエイミのこの話を聞きながら、少し、困ったような顔をしながら、
「ごめん、お前のお母さんも人造人間に……」
少し気まずそうなアルドの顔を見たエイミは
「もう、そんな顔しないでよ。10年前のことよ。」
そんなことをみんなで話しているうちに、エレベーターの前まで来た。
「もうエレベーターには慣れた?」
エイミの問いかけにアルドは首を振ると、
「何度かもう乗っているけど、少し気持ち悪くなる。」
ともう乗る前から少し気持ち悪そうな顔をしているアルドを見て、エイミは笑った。
「アルドハ怖ガリデスネ。」
悪気がなくリィカはからかう。
「そんなんじゃねぇよ!」
アルドが言い返すもその声には力がない。
「だらしないなぁ、男なんだからしっかりしろよ。」
そんな話をしながら、ちょうどたどり着いたエレベーターに乗り込み、ガンマ区画へ向かった。
ドアが開き、左に道沿いに進み、
「ここって何?」
アルドがエイミに尋ねる。
「あぁここは映画館っていうの。」
「映画館?」
聞いたこともない単語にアルドは不思議そうな顔を浮かべる。
「そう。映画館は映画というものを上映していてね、映像で沢山の人を楽しませてくれるの……」
「って全然聞いてない!」
目を輝かせたアルドとリィカは既に映画館に入ろうとしていた。
「ちょっと待ってよ」
慌ててエイミは後を追い、映画館に入る。
--映画館--
「へぇー、何個か作品をやってるんだね。」
アルドは作品紹介のポスターを見ている。
「映画館楽シソウ。」
輝かないはずのリィカの目が輝いて見える。
「もう二人とも今はいいでしょ。ガリア―ドを倒したらゆっくり来ましょ。」
エイミが少年のようなアルドとリィカに呆れている。
「わかったよ。あっ、これなんて面白そうじゃない?『ゴブリンのはらわた』」
「ゴブリンてあのゴブリンだよな?800年前にもいたよ。」
「よし、今度見るのこれにしようぜ」
そんな予想外の言葉にエイミは
「い、いや、なんかその映画、あ、あんまり面白くないらしいぞ。」
すこし焦った口調になる。
「どうしたんだよ。あっ、ゴブリンにビビってんだろ!」
「あっ、絶対そうだ!」
からかうアルドに
「そ、そんなわけないじゃん……誰がこんなのにビビるんだよ……」
「そんなに言うなら倒した後もこねーぞ」
少し怒りっぽくなったエイミに対して、
「今度ハ、エイミガ怖ガリデスネ」
「もうリィカまで!」
「ははっ、わかったよ、もう出るよ。お父さんの店向かおうぜ」
そうアルドは言うと映画館を出て、皆で店の方へ歩き始めた。
--イシャール堂--
「おーっ、お帰り、無事だったか。良かった。」
店に着くと、エイミの父であるザオルが三人を出迎える。
「当たり前でしょ。全然平気。」
エイミはそう言うと店の椅子に腰かける。
「ガリア―ドは倒せたのか?」
父の質問に対してエイミは
「ううん。ダメだった。倒したと思ったんだけど、そいつは偽物だったの。」
「残念デシタ……」
リィカもそう続けた。
そんな少しがっかりする娘を見てザオルは
「まぁそんな簡単にはいかねぇよな。少し休んで、ゆっくりまた作戦をたてればいいじゃねぇか」
そんな言葉をかけ、慰める。
「あぁ、でもいいこともあったよ。」
これなにかわかる?
エイミは父に二つの丸い球を見せる。
「これはサウンドオーブじゃねえか。どうしたんだ。こんなもん?」
「ちょっと聞いて」
………
「お母さんが私とお父さんに残したものなの。私の誕生日プレゼントと、お父さんが昔からこの子守歌を聞いてる私を見るのが好きだからって。」
感傷に浸る親子二人。
「まぁこうやってよ、10年ぶりに嫁の声が聞けてよかったよ」
ザオルはそう言うと、
「アルドよ、お前も手伝ってくれてありがとよ。少し疲れたろ。ここで少し休んでいけよ。」
「はい、そうさせてもらいます。あっ、少し武具を見てもいいですか?」
「リィカモ休ム」
「おぉもちろんよ」
こんなザオルとアルドのやり取りがあった後、アルドは武具を見始めた。
「どう?なんかいいのあった?」
エイミがアルドに問いかけた。
「うーん、俺の村の素材と全く違うからどれを選べばいいのかわからないや。」
それを聞いていたザオルが
「そうだなぁ、お前さんの使っているミグランス朝期の武具は状態も良いし、素晴らしい。だが、今の武具の方が軽くてお前さんには合うかもしれん。」
「いくつか選んでみるから、少し使ってみてから決めるといい。」
「ホントですか?お願いします。」
アルドが答えると、
「わかった。んで、ちょっとその代わりに頼みがあるんだが聞いてもらってもいいか?」
ザオルがアルドに切り出す。
「今、白砂鉄と赤砂鉄が不足していてな、それを手に入れてきてもらえねぇか?」
「エアポートにいるサーチビットから白砂鉄が、レッドサーチビットから赤砂鉄が手に入るはずだ。」
「頼めるだろうか?」
そのお願いにアルドは間髪を入れず、了承した。
「ホントか、恩に着る。」
ザオルはそう言うと
「もし使ってみて、気に入った武具があれば、プレゼントするから」
そしてアルドに合いそうな武具を手渡した。
アルドはそれらを身に着け、
「じゃあ行ってきます。」
と言うと
「ちょっと待ってよ、私も行くよ。」
奥で休んでいたエイミが急いで準備をしている。
「いいよ、少しそこまで行くだけだから。」
アルドがエイミに言うも、
「あなた迷子になるかもしれないでしょ。エレベーターも一人で乗れるの?それにさっきは付いてきてもらったし、今度は私が行くよ」
「さぁ出発、行くよー。」
「ワカリマシタ」
リィカも話に乗る。
なぜか、エイミに先導されているアルドだったが、ザオルの願いを聞くために三人はエアポートへと歩きだした。
先ほど来た道を三人で戻っていく。
「そういえばさ、聞いてなかったよね。アルドのお父さん、お母さんてどんな人?」
エイミがアルドに尋ねる。
「うーん、知らないんだ」
「知らないってどういうこと?」
アルドの返答にエイミが聞き返す。
「うーん、16年前に俺と妹のフィーネが森に捨てられていたところをバルオキー村の村長が見つけてくれて、育ててくれたから、父と母にに関してはわからないんだ。」
「そうなんだ、変なこと聞いちゃってごめんね。」
エイミが罰の悪い顔をする。
リィカも黙っている
「いや、全然いいんだ。フィーネと村長と俺、3人で楽しく暮らしてきたから。」
「村の皆もとてもよくしてくれた。」
「だからそのことで、自分を可哀想とか、そういうことを思うことはなかったよ。」
アルドは更に続ける。
「そして村の警備隊に入って、村の見回りもし始めたところだったんだ。魔獣の動きが出てきたって聞いたところだったから」
「その日も普段通りに見回りもして、帰ればフィーネの美味しい料理を皆で食べるつもりだった。」
「僕らが拾われてきてからちょうど16年で、いわゆる僕らの誕生日になるはずだった。」
「村長の杖も新しく二人で用意とかしたりしてさ」
「でもそうはならなかった。」
エイミとリィカは黙って話うを聞き続ける。
「家に帰ったら魔獣王がフィーネをさらって、村長は倒れていた。」
「一生懸命追いかけて、彼らには追い付くことができたんだけど、俺の実力じゃ魔獣王たちは倒せなかったんだ。」
「そこから先はよく覚えていない。」
「敵に追い詰められて、空気の切れ目みたいなのが見えたと思ったら、吸い込まれたんだ。」
「で、気づいたら、ここにいた。」
エイミは想像の限り考える。
「んー、そこまでの作り話をあんたが考える意味もないし、まだ信じられないけど、800年前から来たっていうのは本当なのかもね。」
「だから本当なんだって。」
「もうここでは過去のことなのかもしれないんだけど、俺にとっては未来のことだからフィーネを助けられると信じてる」
「でもそのやり方がここにきてかだいぶ経つけど、さっぱり思いつかない。」
そんな彼の表情を見てエイミは
「私もその方法を見つけるのを手伝うよ。」
「どんな方法なのかは今は全く思いつかないけど、過去を変えれば未来が変わる。」
「合成人間なんて存在することもなくなって、お母さんも助かるかもしれない。」
「モチロン私モデス」
そんな彼女達の言葉を聞いて、ハッとするアルド。
「まぁ最初はガリア―ドを倒すとこからだけどね。」
アルドはしっかり頷く。
「ほら、早くカーゴシップ乗って。これに乗ったらエアポートよ。」
三人はカーゴシップに乗り、エアポートに向かった。
--エアポート--
「ダダダダダダ」
カーゴシップから降りるなり、サーチビッドとレッドサーチビッドが銃弾を放ってくる。
「危ない、避けろ」
咄嗟のアルドの声に反応し、三人とも相手の攻撃を回避する。
「ふー、いきなり現れるとは」
急な相手の攻撃に焦るアルドに対して
「いいんじゃない、向こうからやってきてくれたんだし」
「探す手間も省けたでしょ」
と余裕なエイミ。
「サーチビッド2体。レッドサーチビッド1体。カクニンカンリョウ。攻撃モードニハイリマス」
こちらもやる気満々なリィカ。
そんな二人の姿を見て、
「オッケー、ちょっとビビっただけだ。俺は赤い方を攻撃するから、二人は白い方を頼む」
「了解!!」
三人は一斉に動き出すと、アルドの斬撃、エイミの右アッパー、リィカのハンマー攻撃がそれぞれ決まる。
数秒後には敵の三体は仰向けに倒れていた。
「ふー、余裕だったな。」
「私達にかかればこんなもんよ」
「ソウデスネ」
『三人は白砂鉄と赤砂鉄を手に入れた』
「よし、目当てなものは手に入れたし、店に帰ろうか」
「うん、そうしよう」
「リョウカイデス」
戦いを終えた三人はイシャール堂へと戻っていった。
--イシャール堂--
「おー、お疲れさん。早かったな」
ザオルが三人を出迎える。
「まぁねー、相手も大したことなかったし」
エイミはそう言うとグローブを外し、店の準備をしようとする。
「エイミ、今日はいいって。お客さんもそんなに来てないし、皆でバーで飯を食おう。俺も行くから先に行っててくれ」
「えっ!俺もいいんですか?」
アルドが尋ねる。
「もちろんだよ。俺のおごりだ。それはそうと使ってみた武具はどうだった?」
「軽さはとても感じたんですけど、今まで使っていた武具の方が俺には合うかもしれないです」
そのアルドの返答にザオルは、
「そうか、お前のもミグランス朝期のもので、重いが質ははるかに良いからな。まぁ修理が必要な時はいつでも言ってくれ」
とアルドに貸していた武具を受け取り、裏のスペースへ掃けていった。
「じゃあお父さんもあー言ってるし、先にバーに行こうか」
エイミが切り出す。
「うん。腹も減ったし、お言葉に甘えさせてもらうわ」
「バー、ハジメテ」
「じゃあお父さん行ってくるね。また後で」
「おぅ、行ってらっしゃい」
こうして三人はイシャール堂近くのバーに向かった。
--バー--
「ココガバー……記憶シマス」
初めてのバーを見て辺りを見回したリィカが言う。
「さぁお腹へったね、何食べる?」
「う~ん……サンドイッチはないのか~」
そう言うアルドにエイミが尋ねる?
「サンドイッチ?」
「あぁ俺の好物なんだ。よく妹のフィーネが作ってくれたんだ」
「へー、そうなの。中に何が入ってるの?」
「卵が入っていたのは覚えてるな。あとは野菜とバルオキーカマス?とかいったかな?よくわかんないけど、そんなのを使ってるって言ってた気がする。」
「バルオキーカマス?聞いたことないなー。」
「そうなんだ……。まぁないものはしょうがない。このピザにしようかな」
そんなアルドの話を聞いたエイミは、
「サンドイッチなら今度私が作ってあげるよ」
「えっ大丈夫なの?」
不安そうな顔で、アルドがエイミを見る。
「失礼な!いつも料理は家で私が作ってます。たまに失敗はしちゃうけど」
「妹さんと同じ味っていうのは難しいかもしれないけど、頑張ってみるよ」
「ホントか?、ありがとう、楽しみにしてる」
「任せて!そのかわりガリア―ド退治は忘れないでよ」
「もちろんわかってるって」
『こうしてガリア―ド退治よりも大変?なエイミのサンドイッチ作りが始まる。』
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