夜明け


どおおおおおおおん・・・・・!!!


どどおおおおおん・・・・・!!!



どおおおおおおおおおおん・・・・!!!



なんだ?

外がやけに騒がしいじゃないか。


ぁぁ、そうだ、今日は一年に三度ある内の二回目の河原の花火大会の日か。


それとも、また誰かが研究室の機械の操作を誤ったのかな?


ふふ、彼等ときたら、新しい機械を入れる度に説明書も読まずに使うものだから、たいていの場合、失敗する。


しかし、人間とは常に失敗から多くを学ぶものだ。


彼等はそのことを良く知っている、つまり、彼等は説明書を読む人々よりもずっと博識だと言えるだろう。


ふむ、いい天気だ。


今日は娘のピアノの発表会の日か。


招待状は・・・・確か引き出しの中だ。


ん?


何だこの大量の・・・これは手紙か?


はてさて、これは私へ宛てた物なのかな?


そもそも、私の机はこんな高そうなものだったかな・・・?


何処の誰かは知らないけれど、人がついうとうとしている間にこんな大胆ないたずらをするとは、ふふ、いけないにゃんこさんめ。


では早速、中身を検めさせて頂く事としよう。


テーブルの隅にある小さな台座に刺さった小さな剣の置物、これは、レターオープナーかな?ふふ、正解だ。


美しい剣は大好きだ。


平和の象徴だ。


ふむ、上手とは言えない字だが意味が伝われば問題ない。


それが文字の役目だ。


『ああ、愛しのあなた。僕は今も、まばたきをするたびに瞼の裏に焼き付いた君の姿に胸を焦がされ、思いは溢れます。あなたに出会ってからというものの、過去の選択を悔いない日は一日とてありませんでした。でも、僕は家族の事も心から愛しているのです。ならば、僕に出来る事はただ一つ、この愛を内に秘め、あなたにとっての数えきれない程いっぱいの幸せと、あわよくば、もう一度、あなたと僕の運命が交わる事を願ってやみません。遥か南の地で咲いていた北の朝顔をこの手紙と共にあなたに送ります。愛を込めて』


・・・・ふむ。


男だ!


それも既婚者の!!


・・・しかし、悪意は感じられないし、これがもし悪戯で無かったとしても、この手紙の送り主が前を向き、誰かの幸せを願い、人生を歩めるのならば、それは、良い事に違いない。


幸い、彼は孤独ではないようだし、誰かを愛してもいる。


一見、乱暴とも思える程の手段を取ってしまったのは、毎日を懸命に誰よりも真面目に生きている証拠だ。


人の心とは、たまに子供のように乱暴で自制が効かなくなるものなのだ。


この手紙は、そっとしておくことにしよう・・・。



「失礼します」


誰だ!?


今日は誰かに会う予定は?!


他人に見られては、いけないものを隠さなければ!


ふむ。


見れば片付けられた趣味のいい、西洋風の執務室だ。


見た事の無い観葉植物に、少し前のシーズンまで使われていた研磨された石灰岩で造られた暖炉、あの扉の向こうは寝室のようだ。


特に、秘匿義務のある品物はなさそうだ。


「ああ、入って構わないよ?」


「失礼します」


花の香りと共に、彼女が現れた。


私は直感した、私は、人生で初めて、紛れもない、一目惚れをした。


「あ!ああ!ああ!!よく来てくれたね。・・・・で、何の用かな?」


「植物たちのお水の時間になりましたから」


「ああ!そうか、すまないね、きっと彼等もこう言っているよ、ありがとう。と」


ピカピカに磨かれた古い如雨露じょうろだ。

一体、この女性は何者だ?


「君のような人を隷属れいぞくさせるとは、植物たちには恐れ入るね?」


「わたくしは、好きでやっていますのよ?また、机の上を散らかしましたね?」


散らかした・・・・?


「あっ!ああ!この手紙かい?これは何でもないんだよ?娘のピアノの発表会の招待状なんだ」


私としたことが、手紙を片付けるのをすっかり忘れていた。

いけないね?こんなパパを許しておくれ・・・・ええと、


「そう、会えるといいですね?」


そうだ、会わなくてはならない。


「・・・ああ、ここまで来られたのも君のおかげだよ・・・行こうか?」


有難い事に、今日は立ち眩みが起きないようだ。

そして、私は、姿見で身だしなみを整える、いつものように。

人前に出るのなら、愛する家族にかけて、見る者を不快にさせない格好を心掛けなければいけないね。


「ええ」


部屋の電気を消そう、同じ星に住む大勢の仲間たちの為にも、少しでもエネルギーを節約しよう。

と言った言葉は、我々人類には今のところ縁遠いものだ。                                            


「こんなことを急に言われてとても変に思うかも知れないけれど、僕自身、こんなことを誰かに言うのはきっと初めての事なんだ」


「なんでしょう?」


「君は、とてもチャーミングだね」


私は、そこそこに長いと感じられる自らの人生の中で、今ほどスキップをしたいと思ったことは無かった。


「・・・」


彼女は少しばかり怒ったようだ。

感情の希薄さを装っているようだが、私はお見通しだよ?

いま、眉を僅かにしかめたね?


「あっ!ああ!変な事を言ってすまないね。謝るよ、悪かった。でも、本当にそう思っているんだ。こんなことを言うのも初めてなんだ、もし、君が良かったらでいいんだけれど、これから、どうかな?どこかで食事でも」


「お嬢様のピアノの発表会があるのではなくて?」


「ああっ!ああ!そうだったね。では、その後はどうかな?」


「ふふ、よろしいですよ」


「笑ったね?素敵だよ?ええと、君の名前は?」


「アルメリア」


「初めまして、よろしくアルメリアさん」


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