ペリドット
あるところに、とても仲の悪い夫婦が居りました。
「あのさ、何回言えば分かるわけ?帰りが遅くなる時は連絡して。って言ってるでしょ?夕飯作っても無駄になるじゃん!」
妻は、深夜遅くまで仕事をして帰宅した夫に言った。夫は妻の横を足早に通りリビングに入ってソファに座って口を開いた。
「…こっちだってそれどころじゃなかったんだ。仕事でトラブルが起きて連絡する暇がなかった。って言うか、帰ってきたんだからお帰りの1言もないのかよ。」
夫は、妻の顔を見ることすらせずに言った。
「お帰りって言われたかったら、連絡しなさいよ!携帯すら見れない状況って何よ!少しは見れる時間ぐらいあるでしょ!」
妻はそう言うと寝室に入って寝てしまった。
リビングに1人残された夫は、ため息を吐きながら立ち上がりキッチンの方に足を向けた。
冷蔵庫を開けるとラップがされた夕飯が置いてあった。
「温めるぐらいしてくれよ。…げ、野菜ばっかじゃん。それに肉じゃなく魚かよ…」
夫は冷蔵庫から夕飯を取り出してレンジで温めて1人夕食についた。
[本当に夫婦は仲が悪いのでしょうか?本当の思いを少し付け加えながら見てみましょう。]
妻は、帰りが遅く連絡も無い夫を心配しながら携帯をしきりに見ていた。そこへ、玄関が開く音がして向かうと、仕事で窶れた夫の顔、よれたスーツ。
「あのさ、何回言えば分かるわけ?(心配するじゃん)帰りが遅くなる時は連絡して。って言ってるでしょ?(じゃないと心配で落ち着かない)夕飯作っても無駄になるじゃん!(無事に帰って来たらそれでいいけど…)」
「…(ごめん)こっちだってそれどころじゃなかったんだ。(本当にごめん)仕事でトラブルが起きてそれどころじゃなかった。って言うか、帰ってきたんだからお帰りの1言もないのかよ。(嫌いになったか?ごめん)」
「(その前に心配が勝つよ)お帰りって言われたかったら、連絡しなさいよ!携帯すら見れない状況って何よ!少しは見れる時間ぐらいあるでしょ!(分かってる。疲れた顔してるし、スーツだってよれよれ。見れる時間なんて忙しくて無いよね。でも、すごい心配した)」
妻は、寝室に入って言い過ぎた。と思いながらベッドに横になって寝た。
リビングに1人残された夫も言い過ぎた。と思いながらキッチンに行き、夕飯を温めて食べた。夫は、気付いていないが妻は夫の健康に気を使い野菜多めの和食にしたのだ。
[おやおや、本当はお互いを思いやっている夫婦でしたね。お互い言葉足らずの思っていることが言えないで、すれ違っていますね。]
夫は、風呂から上がると寝室に入りもう寝ている妻の顔を見て
「…ごめん。ご飯美味しかったよ。」
寝息を立てる妻を見て、夫も寝た。
朝早く起きた妻は、夫の為にシャツにアイロンを掛けて、よれたスーツを整え、朝食と弁当を作ってテーブルに置いた。
朝食は夫の体調に気を使い、和食にした。妻と夫は本当は、洋食派だが、体調にあわせて料理を変えていた。
朝食がテーブルに並び終わったタイミングで夫が起きてきた。
「おはよう。頂きます(美味しそう)」
夫は朝食を食べた。
「おはよう。(美味しいかな?)」
妻は少し夫の顔を伺ったが不味そうな顔をしないので安心して朝食を食べた。
(美味しいよ。って言った方がいいんだろうけど恥ずかしくて言えないわ…)
夫は食べながら考えた。
食べ終わると、仕事に向かった。
「肉がたまには食べたい。行ってきます。(今日は早めに帰れますように)」
「(顔色が良いし肉にしよう)…考えとく。行ってらっしゃい。」
妻は夫を見送り家事に取りかかった。
お昼になり夫は弁当を開けた。中身はまた魚と野菜メインの弁当。
「頂きます。今日も魚かな…美味しいからいいけど肉が食べたいな。」
呟くと、黙々と食べているとそこに上司が来た。
「昨日はありがとね。助かったよ。夜遅かったし奥さん怒ってたんじゃないか?」
「あー、大丈夫でした。もう寝たいたんで」
咄嗟に、嘘をついた夫。仲が悪いと思われたくなかった。
「そうか良かったな。俺の方は怒られたよ…連絡ぐらいしろって。帰ってきて早々にそれだからな働いてないカミさんにとっては、分かんないんだろうな…」
上司が自分の嫁の愚痴をこぼしているのを聞きながら他の事を考えていた。
(もうすぐ、結婚記念日だけどこのままじゃ無しかな…)
そして、仕事が終わると夫は会社を出て一軒のお店に立ち寄った。
「いらっしゃいませ。今日は何をお探しでしょうか?」
店に入ると男が話しかけてきた。男は、燕尾服を着て、杖を持っていた。杖の持ち手部分にはムーンストーンが嵌め込まれてた。そして胸元に名札があり、名札には[ポリティス]と書いていた。
「…ちょっと、妻に結婚記念日としてプレゼントが欲しいんです。」
それを聞いた男はにんまりと笑うと飾りの着いてないネックレスを持ってきた。
「これなんかいかがでしょう?今は飾りの方は着いておりませんが奥様とお客様にピッタリの飾りを着けさせてもらいます。今だけ御安くしておきますよ。」
夫は少し迷っていた。
「…考えてからまた来ます!」
そう言うと夫は、店を出ていった。
「ああ、行ってしまいました。まあ、奥様は買ってくれましたから良いでしょう。」
男はそう言うと店を閉じた。
夫は、家の玄関前に着くと深呼吸をして家の中に入った。
「ただいま。」
家の中はカレーの匂いで充満していた。
「お帰り。今日はカレーだから。早くお風呂入って」
夫は、妻の言った通りに風呂に入り上がってくると机にはカレーとサラダ、スープが置かれていた。
2人は向かい合って座った。
「頂きます。」
1口食べた。
「うん、美味しい。」
夫が言うと、妻はびっくりした顔をしていた。それ以上にびっくりしたのは、夫だった。
夫の思っていたことが口に出ていたのだ。
「…今日のカレー隠し味なんだと思う?」
「…え。」
急に妻から話しかけられたびっくりしたがすぐ考え始めた。
「コーヒーを入れたとか?」
「ううん、違う。じつわね新しい調味料を買って加えたの。」
妻は、お昼買い物に言ったときの話をした。
妻は、カレーの材料を買いに行って帰る時今まで見たことの無いお店が出来ていて看板には、[調味料専門店]とかいてあった。
(こんなお店あったかな?)
妻は、興味本意で店に入ると店の奥から男が現れた。
「いらっしゃいませ。」
男は、燕尾服に杖をもった男だった。
「これどうですか?」
男は、黄緑色の液体をすすめた。
「これは、カレーとかに入れますととても美味しくなりますよ。そして、心がとても穏やかになります。」
「心が穏やかに?ハーブとかが入っているんですか?」
妻は訝しげに男に聞くと男は
「ハーブも多少なりとも入っております。」
しばらく妻は黄緑の液体を、見ていたが買った。そして帰ってさそくカレーを作ったのだ。
「でも、確かにハーブの風味もあるな。美味しいよ」
夫は、妻に言うと夢中でカレーを食べた。
妻も1口食べる。
「ほんとだ美味しい。でもびっくりした貴方が美味しいって言うなんて。」
「いつも思ってたけど恥ずかしくて言えなかったんだ。」
妻は夫の言葉に驚いたがすぐに顔を赤くして俯いてカレーを食べた。
そんな妻の様子を見て自分が何を言ったのか思いだし妻と同じく顔を赤くして黙々と食べた。
食べ終わり食器を片付けてる妻を見て夫が声をかけた。
「皿洗い俺がするよ。その間風呂にでも入ってこれば?」
「え、良いの?…じゃあお願いね。」
夫の言葉に戸惑ったがお願いした。
風呂から上がりキッチンを見ると綺麗に洗われ直され、生ゴミも捨てられていた。
「ありがとう。生ゴミまで捨ててくれて」
妻は夫に言うと、苦笑いを浮かべて妻の方を見て夫が言った。
「皿洗い難しかったよ。油とかずっとぬるぬるしてるし、生ゴミとか臭いし…いつもやってくれてありがとう。」
夫からの言葉に妻は、照れ笑いをした。
「付き合ってる時から私がしてたもんね。なんか今日は変な感じ。思ったことが言えるし、貴方も付き合ってる時以来言ってなかった美味しいって言葉も言ってきて。びっくりした。」
「そうだったかな?言ってると思ってたよ。」
2人は笑い合いながらその夜久しぶりに喧嘩をせずに過ごした。
それから何日たっても、喧嘩をせずお互い尊重して過ごすようになった。
2人は結婚記念日の日、久しぶりに夜のデートをした。
手を繋いで、1年中付いてるイルミネーションを見に行った。
「綺麗だね。初めてデートした時もここに来たよね!覚えてる?」
妻は夫に聞いた。
「覚えてるよ。確かイルミネーションの出口付近で俺が車の鍵落として慌てて引き返して探したけど結局ポケットに入ってたこと。…あの時は、本当に焦った。」
2人は、顔を見合わせて笑い合った。
帰り道、ふと立ち寄った占いの館に入った2人。
シルクハットに燕尾服そして、杖を持った男が椅子に座っていた。
「ああ、やっと来ましたね。御2人ともお久しぶりですね。」
男は2人に微笑む。
「あ、調味料専門店の…」
「あ、ネックレスの…」
2人は、顔を見合わせて首を傾げた。
すると男が、口を開いた。
「私はポリティスです。そうですね、調味料も、ネックレスも私の商売です。それだけじゃないですけど…」
「占いもやっているんですか?」
妻がポリティスに聞いた
「そうですね。商売全般的にしてます。それより御2人、これを買いませんか?」
ポリティスがポケットから出したのは、透明な液体が入った小瓶2つ。
「これも、何かの縁です。どうですか?御安くしておきますよ?」
2人は、顔を見合わせた。そして
「まあ、何かの縁ですし買います。」
夫は、お金を払った。
「さあ、これを飲んでください?手を繋いだままですよ?」
ポリティスは、2人に言うと2人は躊躇したが言われた通り、手を繋いで液体を飲んだ。
「美味しい。」
「美味しいな。」
「さあさあ、手を開いて見てください。」
ポリティスは2人の繋いだ手を指差した。
開いてみると手の中に3つの黄緑色の石があった。
ポリティスはその石を取り1つは、ネックレスの飾りに、もう1つはネクタイピンの飾りに嵌め込み2人に渡した。
「綺麗。」
「これはサービスです。このもう1つの石が代金代わりですので、先程いただいたお金はお返しします。」
ポリティスは、夫にお金を返した。
「この石はペリドットと言う宝石です。」
「え、宝石?」
夫が言ったのと同時に電気が消えた。すぐに電気が着いた。そこは、もう自宅玄関の前だった。
「いつの間に…俺達、どうやって帰ってきたんだ?あの男は?」
「さあ?」
2人は、家の中に入った。
「…ん?俺達何で玄関に立ってるんだっけ?」
2人は、考え込んだ。
「そうだ!あそこ!イルミネーション見に行こうとしてたんだ!」
そして2人は、イルミネーションを見に向かった。
ポリティスは、夜の道を歩き1人呟く。
「ペリドット、意味は夫婦の幸運、和愛。あのご夫婦には、ピッタリの言葉ですね。でもまさか、3つも出てくるとは本当に幸運ですね。」
ポリティスは、新たにペリドットが嵌められた杖を握った。
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