この偽ロリに祝福を!

廿楽 亜久

始まりの話(オリキャラ中心)

プロローグ

 不思議と、よく眠った気がする。


「はじめまして、片桐海春さん。ようこそ、死後の世界へ。あなたは先ほど不幸にも亡くなられました。短い人生でしたが、あなたの人生は終わったのです」


 本当によく眠ってしまったらしい。


 目の前に座る青い髪の女性は、どこか堪えるような笑みでこちらを見下ろしている。


「死んだ……」

「はい。あなたは死にました」

「……死因は? 過労死?」

「土砂崩れに巻き込まれた圧死です」


 そこまで言われて、フラッシュバックのように眠る前のことを思い浮かぶ。


 私のいたのは、俗にいうブラック研究室で、教授たちには理不尽な説教をされた挙句、エナジードリンクに翼を授けられながら、日付もよくわからないくらいの二徹目に突入した明るい研究室で、居残り学生たちで卒業式の日に、研究室を爆発させて、教授たちを卒業させようと計画したのだ。

 そして、研究室の汗と涙の結晶を試しに、最寄りの山へ向かった。


「チッ……」


 そうだ。ちょっと威力が高すぎて、土砂崩れが起きたんだ。それで巻き込まれて。


「ヒッ……! ちょっ、さ、最近の子って怖くない!? というか、貴方の死因、ほとんど自業自得じゃない!」

「過労死ならあのジジイ共に目にもの見せてやれたのに」

「ほ、本気で怖いんですけど……」


 先ほどまでの笑みはどこに行ったのか、椅子の上で身を竦ませる女。


「あ、あなたには三つの選択肢があります! 天国いくか! 赤ん坊から人生やり直すか! 異世界に転生するか!! 怖いから早く選んでよ!!」


 やけくそのように叫ばれて、ようやく冷静な思考が戻ってくる。


「あぁ、ごめんなさい。怖がらせたみたいで」


 数少ない友人から『3人は殺ってる目してる』って言われるくらい目つきが悪いんだ。気を付けないと。


「ところで、確認だけしたいんですが、私以外の人は?」

「命を落としたのは、貴方だけです」


 運が悪かったというのか。でも、下手に怪我をして、寝たきりとか足が無くなったりするよりはマシだろうか。

 彼女が言うには、天国に行くか、人生やり直すか、異世界転生する選べるようだし。


「い、一応、異世界に転生する場合は、すぐに死なない様に特典をつけています」


 とりあえず、少し優しい目つきをがんばれば、いつの間にか椅子の後ろに隠れた彼女は少しだけ安心したように説明を付け加えた。

 やはり、怖い顔っていうのは人生を損しかねないな。

 美人は、普通の人に比べて人生を4割ラクできるって論文があるくらいなんだ。

 逆説的に、ブサイクと強面は、人生を4割損しかねないってことになる。

 しみじみと頷きながら、ふと先ほどの言葉を思い出す。


「ん? 死ぬような世界なの?」

「魔王軍に襲われて、転生したがる魂が少なくなった世界なのです。

 確か、貴方はゲームがお好きでしたね。ファンタジーゲームのような、魔法や剣でモンスターと戦う世界です」

「へぇ……! おもしろそう。じゃあ、転生で。言語とかは?」

「女神の力で転生する時には、脳に叩きこみます。たまーに、頭パーになる人も、いるけど……」


 チラチラと、こちらの様子を伺う彼女が最後に小声で呟いた言葉は、はっきりと聞こえた。


「たまーに」

「たまーに」


 確率はどのくらいだろうか。

 しかし、


「なら別に」


 頭パーになった私が、それを認識することはないだろうし。


「そ、そうよね! じゃあ、特典ね! はい! ここから選んでちょうだい!」


 渡されたのは、ひどく厚いカタログ。

 軽く目を通すが、題目は置いといて、内容が結構細かい。

 すごく端から端まで読みたい気分ではあるが……


「単発銃を空中に大量に召喚して撃つ。みたいな能力ある?」


 ちょっと、だいぶ、あの能力に憧れがある。

 もちろん、魔剣、妖刀の類も特殊能力の類もすごく好き。

 世界観的に、合わないとかあるかもしれないけど、


 それとは別!!


「そこには載っていませんが、具体的に想像ができるのであれば、こう……女神パワーでえいっと作るけど……」


 結構、雑に作れるんだな。

 簡単な設計図を紙に書き起こしてほしいと言われ、簡単に描く。もっと細かく、装飾とかもこだわりたいが、待つのに飽きたのか、女神に奪われた。


「そういう細かいのは、得意そうな子にお願いするから。後ろが詰まってるの」


 後ろに新しい死者が待ってるってのも、なんだか悲しい話だが、後がつかえているなら仕方ない。


「魔力筋力多め、までは無理?」

「特典はひとりひとつです」


 さすがに、そこまでの優遇はされないか。


「……じゃあ、転生の時に、少し若返らせてもらうっていうのは?」

「それはできますが、なぜです?」

「日本は文化的で平和な国だから、そんな戦うのための体は持ってないし、二十歳過ぎてモンスターと戦うための体を作り直せってのも……

 だから、10歳くらいまで戻してくれれば、体を鍛える期間としては問題ないと思ったんだけど」

「なるほど! 偉いわ! 魔王を倒すことにそこから真面目に向き合う人初めて!

 任せて! 女神の名に懸けて、貴方の肉体を10歳まで戻します!」


 突然、足元に現れた魔法陣。


「さぁ! お行きなさい! 勇者!」


 離れていくビシッと空を指さす青い髪の女神。

 なんというか……最初の女神的オーラはなくなって、素が出ているけど、いいのだろうか。


*****

 

 次に気が付けば、低くなった視野に短くなった手足。

 お誂え向きな水たまりに顔を覗かせれば、幼い顔。


「おぉ……これは子供だ」


 ってことは、幼女と、お友達に、なれる……!

 気持ち悪いニヤニヤ顔が水たまりに映り、急激に気持ちが覚める。

 いくら幼女でも、自分の顔は論外だ。


「さて、まずは金と宿か」


 魔王いる系のファンタジー世界だ。冒険者ギルドとかあるだろ。

 まずは、そこで冒険者登録して、簡単なクエストを受けて、金を稼ぎながら、能力に慣れよう。



「ごめんね。年齢的に冒険者にはなれないのよ」

 


 ギルド職員のお姉さんに謝られた。


「お、親がいないから、お金、自分で稼がないといけないんですけど……!? 簡単なクエストでもいいから!」


 考えてみたら、モンスター狩りもある危険な仕事に年齢制限があるのは最もだ。

 幼女に警戒心無く近づけるとか、そういう問題じゃなかった!!


「規則は規則だから、ごめんね」


 異世界生活、いきなり前途多難です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る