〜Hello Messenger〜
にこら
第1話 "メッセンジャー"
-AD1100年 曙光都市エルジオン。未来の浮遊大陸のうち、最大の大陸の中心部に位置するその都市は今日も活気に満ち溢れていた。
そんな都市に似つかわしくない大きな大剣を佩いた青年が歩いている。名はアルド、旅の剣士である。
そんなアルドの背後から近づく足音。足音はアルドの背後で止まり、足音の主はアルドに声をかけた。
???「お届けものでーす!」
突如、背後からかけられた声に驚くアルド。
アルド「うわっ!びっくりした!」
???「ははは!すみません!そんなに驚かれるとは!」
振り向いたアルドはその声の主を見る。歳は15歳くらいだろうか。性別は男性、髪は白髪である。肩から手提げ鞄をぶら下げており、鞄からはいくつもの手紙がはみ出していた。
はいこれ、と白髪の少年がアルドに手紙を渡す。
アルドはAD1100年のこの未来世界の出身ではなく、AD300年の現代のバルオキー村の出身である。
それなのに手紙が届くなんてどこの誰が出したのだろうか?それにこの少年はどうやってアルドがここにいることが分かったのだろうか?
差出人に目を通すアルド。差出人の名前を見たとき、アルドの疑問は更に増えた。
差出人の名前は "ラチェット" だった。
差出人はBC2万年、古代のパルシファル宮殿でアルドがいつもお世話になっているラチェットからであった。手紙の内容に目を通すと、アルドが以前ラチェットに頼んでいた古代にしかない薬草が手に入ったことなどラチェットの近況が綴られていた。
???「では、ボクはこれで...」
帰ろうとする少年に慌てて問いただすアルド。
アルド「ちょ、ちょっと待ってくれ。少し質問してもいいか?」
少年は首を傾げ、アルドに返答する。
???「はい、何でしょう?できれば手短にお願いします」
アルド「あぁ、ごめんごめん。えっと、単刀直入に聞くけど、何故古代のラチェットから手紙が届くんだ?君はいったい...?」
えーと、と言いながら少し困ったような表情をする少年。
???「ボクはリルと申します。"メッセンジャー"と呼ばれる仕事をしています」
聞いたことがない仕事にアルドは尋ねる。
アルド「そうか、リル。俺はアルド。よろしくな。で、その、めっせんじゃー?ってのは何をするんだ?」
リル「簡単に言うと届け物を運んだりする仕事ですね。ボクの場合は少し特殊ですけど」
次はアルドがリルの発言に首を傾げた。
アルド「特殊?」
リル「はい!ボクの場合は色んな時代を行ったり、来たりして届け物を運んだりしているので、少し特殊なんです」
アルド「時代を!?それって時空の穴で移動しているのか?」
リル「そうです!そうです!あんまり詳しいことは言えませんが、ボクは好きな時代、好きな人物がいるところに行ける時空の穴を出すことができるので!」
アルド「すごいじゃないか!時空の穴を使った仕事なんて!」
リル「えへへ!照れますね!あ!もしアルドさんが運びたい物があるならこの笛を渡しておきますのでこの笛を吹いて呼んでください!お安くしときますよ!」
リルがアルドに笛を手渡す。
リル「申し訳ないんですけど、ボクはこれで!次のお仕事がありますので。では!」
アルド「あぁ!手紙ありがとうな!あと、仕事頑張ってな!」
はーい、とヒラヒラ手を振りながら走っていくリル。
アルド「リルは若いのに大変だな」
アルド「...しかし、時空の穴を使って届け物を運ぶなんて、世の中には色んな仕事があるんだなぁ」
アルド「でも、時空を超える届け物なんて、俺達みたいな時空を超えて旅をしている人達以外に需要なんてあるのかな」
アルドは少し疑問に思った。リルはまだこの辺りにいるだろうか?
アルドが周りを見渡すと先程見た白髪の少年がエルジオンに住んでいるであろう女性と話していた。
仕事が終わったのか女性と別れるリル。
アルドはリルが先程話していた女性に話を聞いてみることにした。
アルド「なぁ、あんた。ちょっといいか?」
女性「はい?なんでしょう」
アルド「さっきの少年なんだけどさ。あんたも時空を超えた届け物をもらったのか?」
女性「あぁ、リルくんのことね。そうよ。AD300年のザルボーにいるお父さんからの届け物ね」
何の違和感もなく受け入れている女性の様子から察するに何度かメッセンジャーを利用しているのだろうか。
アルド「へえ。俺もさっき初めて経験したけど違う時代から荷物が届くってすごいよな」
「ふふ、そうね」と女性は気さくに笑う。
アルド「でも何であんたは親父さんとは違う時代にいるんだ?」
女性「実はザルボーで散歩してたら時空の穴に落ちちゃって帰るに帰れなくなっちゃったの...それに...」
少し深刻そうな顔をする女性を心配するアルド。
アルド「それに...?」
一変し、笑顔になる女性。
女性「エルジオンって住みやすいじゃない!食べ物は美味しいし、色々便利だし!あんな砂まみれの町に帰るなんてまっぴらごめんだわ!」
豪快に笑う女性。どうやらまんざらでもないらしい。
アルド「そ、そうか。それは何より」
女性「まぁ、それでもお父さんと連絡取れるのは、嬉しいけどね。これもリルくんのおかげだよね」
リルの仕事はかなり特殊なケースの人には役立っているようだ。お礼を言って女性と別れるアルド。引き続き、リルの跡をつけることとした。
リルの跡をつけてみると、そこにはリルと男性がいた。男性の方はリルから大量の段ボールを受け取っていた。リルが男性と別れたところで、アルドは男性に話を聞いてみることとした。
アルド「なぁ、あんた。ちょっといいか?」
男性「ん?なんだい?」
アルド「その... 大量の段ボール。何が入っているんだ?」
男性はニヤニヤしながらアルドを見る。
男性「あぁ。これかい?君も好きそうだもんね。ほらこれとか!」
男性が段ボールを開け、中から取り出した物、それは鎧だった。
アルド「これは?」
男性「実はこれはAD300年。ミグランス王朝時代の鎧なんだよ。ボクはミグランスマニアでね。リルくんに頼んで過去から調達してもらってるんだよ」
アルド「そ、そうなのか」
熱く語る男性に狼狽えるアルド。
男性「君もそうなんだろう!?」
アルド「は!?えっ!?」
男性「皆まで言うな。君のその完璧なミグランススタイル!それがマニアと言わず何と言う!これを気にぜひミグランスファンクラブへ!」
アルド「いや、遠慮しとくよ...」
半ば強引に男性との話を切り、逃げ出したアルドであった。なるほど、手紙だけじゃなく、過去から物を届けてもらうことも可能なのか。
アルド「もう少しリルの跡をつけてみようかな」
しばらくの間、エルジオンの街でリルを探していたアルドだったが、街の隅で彼を見つけたのであった。
リルはエルジオンの一角にある郵便ポストで手紙を集めていた。こんな時代でも手紙を出す人は一定数はいるらしい。というか郵便ポストがあること自体この時代には似つかわしくないような気がするが...
リルの様子を見ているとどうやら通常の郵便物と、時代を超えて届けるであろう郵便物を仕分けていた。
アルド「あれもメッセンジャーの仕事なのか。結構、重労働だな」
「少し手伝ってあげようかな」そう思ってアルドはリルに近づいた。自分の方に近づいてくる人影に気付いたリルはアルドに気づく。
リル「アルドさん!」
アルド「リル。大変そうだな。少し手伝おうか」
リルは少し悩んだ後、アルドにこう告げた。
リル「本来はメッセンジャーの仕事ですから、ボクがやらないといけないんですけど... お言葉に甘えちゃってもいいですか?」
アルド「ああ!もちろん!俺でよければ手伝うよ」
リル「ありがとうございます!では、このシールが貼っているものは...」
リルがアルドに仕事の内容を説明する。どうやら、
例の配達物と普通の配達物の見分け方のようだ。
リル曰く例の配達物にはとある乗り物の『封印シール』がされているらしい。
乗り物は以前アルドが未来世界に来たときに聞いたことがある飛行機?というものらしい。
"飛行機 "と言っても木造の船体で作られたようなものであり、その船首には同じく木造のプロペラがついてある。どちらかと言えば"飛行船 "だろう。そんな飛行船が印刷された青いシールだった。
そのシールの上から"WFS"という印字がされており、気になったアルドはリルに尋ねてみた。
アルド「なぁ、リル。この"WFS"ってのは何なんだ?」
リル「あぁ、それはウチの社名です。"ライトフライヤーデリバリーサービス"の略称ですね」
それならWFDSのほうがいいのではないか、とアルドは一瞬思ったが、少し語呂が悪いだろうか...
手を動かしながらアルドが悶々としていると、いつの間にかリルの仕事は全て終わっていた。
リル「アルドさん!そっちは終わりましたか?こっちは終わりましたけど」
アルド「こっちももう少しだ」
しかし、手紙の仕分けとはここまで大変だったとはアルドは夢にも思わなかった。この重労働をリル一人で毎日やっているのだろうか。
「実は...」とリルが口を開く。
リル「アルドさんがボクの跡をつけてきていたこと気付いてたんです」
アルドは尾行に失敗していたことに驚く。
アルド「えぇ!?バレてたのか...」
リル「えぇ。バレバレです。まぁ、アルドさんのことだから悪意はなさそうだったので気づかないフリをしていましたが...」
アルド「ごめん.. リルの仕事がどんなものか気になっちゃってさ」
リル「あぁ!そういうことでしたか。でしたら最初から言ってくだされば... 本当はダメなんですけどメッセンジャーの仕事についてきますか?」
アルド「本当か!ありがとうリル!」
リル「変な人ですね。メッセンジャーの仕事なんて見てもつまらないでしょうに」
ふふ、とリルは笑う。懐からリルは何かを取り出した。
アルド「それは...?ペンダント?」
リル「正確にはペンダント型の竜頭時計ですね。これが、時空の穴を呼び出すことができるアイテムです」
見ててください、とリルはおもむろに時計の竜頭を回し始める。
リル「AD300 バルオキーっと。準備できました!行きます!」
リルがそう言うと、目の前に時空の穴が現れた。
リルとアルドはその穴に飛び込んだ。
アルドにとっては時空の穴を通ることは珍しくはないが、任意の場所に呼び出せるなんて便利だなと思った。
時空の穴を通り、アルドが見た光景は見覚えのあるものだった。先ほどまでAD1100年のエルジオンにいたのに、気づけば彼の故郷であるAD300年バルオキー村の近辺、そうヌアル平原に移動していた。
すごいな、とアルドがリルに言おうとした瞬間。リルの後方からゴブリンが襲い掛かろうとしていたのに気づく。
アルドは咄嗟にリルを庇い、ゴブリンの前に剣を構えた。
アルド「リル、ここは俺に任せてくれ。ゴブリンの群れなんてすぐに蹴散らすからな」
リルはアルドの後ろに隠れ、
リル「も、申し訳ありません。戦闘は専門外なのでお言葉に甘えさせてもらいます」
と言った。
メッセンジャーという職業柄、魔物に襲われることも少なくはないだろう。戦闘が専門外なら、リルは今までどのように生き延びてきたのか。
アルドは頭の中に色々な考えが巡っていたが、今はゴブリンの相手をしなければと雑念を振り払う。
ゴブリンは3体、うち1体はハイゴブリンだ。
正直、アルドの相手ではないだろう。アルドは回転斬りにてゴブリンを一掃した。
パチパチパチと自分の後ろから拍手が聞こえてきた。
リル「すごいですね!アルドさん!ゴブリンをあっという間に!」
アルド「そこまで大したことじゃないよ。リルも怪我はないか?」
リルが首を縦に振る。
リル「はい!おかげさまで!ありがとうございました!」
リル「たまになんですけど、時空の穴の位置がズレちゃって町の外にでちゃうんですよね。今日みたいに魔物に襲われそうになることもたまに...」
リル「でも依頼人の家はすぐそこです!バルオキーに向かいましょう!」
バルオキーの村に向かうアルドとリル。アルドの故郷でもあるバルオキーは今日ものんびりとした時が流れていた。
アルド「久しぶりにバルオキーに帰ってきたなぁ。じいちゃんにも顔を見せていこうかなぁ」
リル「その前にお仕事です!ほら!この家ですよ」
リルの顔を見ると少しニヤけていた。
アルド「ここか!えっ!?ここって?」
そこはバルオキー村の村長の家、つまりアルドの家でもあった。中から村長とアルドの妹であるフィーネがでてくる。
村長「おぉ... やっときたかアルド」
フィーネ「ありがとう、リルくん。もー遅いよ、お兄ちゃん!」
アルド「じいちゃん!フィーネ!何がどうなっているんだ?」
困惑するアルド。じいちゃんとフィーネはなぜ俺を待っていたのか。そして2人はリルと面識があるようであった。
リルが申し訳なさそうに「実は...」とアルドに語りかける。
リル「実は村長さんとフィーネさんにアルドさんを届けるように依頼されておりまして...」
リルの発言に驚くアルド。
アルド「俺を届けるだって!?なんだそれ!?」
フィーネがぷんぷんと怒っている様子だ。
フィーネ「もーお兄ちゃん!今日が何の日か忘れたの?」
今日..,?今日は何か特別な日だっただろうか?
今日はそういえば...
アルド「あっ!?」
気づいた様子のアルド。
アルド「今日はじいちゃんが俺とフィーネを拾ってくれた日か!」
村長「やれやれ、忘れっぽいのは子供の頃から変わらんの」
フィーネ「そうだよ!だから今日はお祝いの準備をしてたの!お兄ちゃんきっと忘れてると思ったからリルくんに届けてもらうように頼んだの!」
アルド「届けるって... 俺は物かよ!」
苦笑いするリル。
リル「そういうことです!アルドさん!確かに届けましたよ!フィーネさん!それじゃあボクはこれで...」
引き留めようとするフィーネ。
フィーネ「リルくんも一緒にどう?」
お辞儀をして首を振るリル。
リル「ありがとうございます、でもまだ仕事が残っていますし、また今度誘ってください」
フィーネ「そっか... 残念だけどまた今度だね」
リル「はい!では、ボクはそろそろ行きますね」
ヒラヒラと手を振ってアルドはリルと別れた。
リルという不思議な少年と出逢ったアルド。メッセンジャー、彼らとの数奇な運命の針が今動き出そうとしていた。
第一話 『メッセンジャー』 完
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