駄文短編置き場

白金桜花

TSTSTS in American



 防風吹き荒れる中アメリカの荒野の一本道を走る白いトラック。

 車の左サイドミラーからは巨大なきのこ雲、そう、核爆発が見えた。

「フィーッ!今日のTropical Stormは最高だぜ!」

 トラックを運転し、鼻歌交じりににやけるチビデブ団子鼻の白人男性、名前はボブだ。

 Tropical Storm……熱帯性防風は荒野にあらゆるものを飛ばしていく。

 赤子など序の口だ、LGBT、ヴィーガン、黒人、リベラリスト、GAFA重役、白人至上主義者、Qアノン、ドナノレド・トラソプ元大統領もまた例外なく飛びまわり地面に頭蓋を叩きつけられ砕けまた風に飛ばされ最後には赤黒い肉片と化していく、これがアメリカの多様性だ。

 先ほど爆発したのもまた嵐で核爆弾が吹き飛ばされ激突しただけにすぎない、核テロ時代を迎えた2020年のアメリカではこれが日常茶飯事である。

 そんな中で例外がある、それこそがアメリカ製のトラックだ、トラックは熱帯性防風程度では吹き飛ばされない。

「フィヒヒヒヒ!俺様のトラックの前に飛び散る血の華は最高だぜーッ!」

 テンションを荒げながらアクセル全開、ボブのトラックは荒野を飛ばす!

 当然暴風に吹き飛ばされるアメリカの多様性などボブのトラックの前では肉片と化す、そこに例外はあるとしたらアメリカ製トラックのみだ、これこそが多様性である。

「デュフフフ、ウヘヘヘ」

 目をぎらつかせ運転するボブ、完全にTSの防風でハイになっている。

 そんな中ボブの背後に丁度またもや核爆弾が落ち、爆ぜた。

「どわぁっ!?」

 大爆風、しかしボブのトラックは吹き飛ばされ回転し原型を保っている、アメリカのトラックは核兵器にも耐えられるのは常識の一つだ。

「おごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」

 回転回転大回転、強烈な衝撃と振動がボブを襲う、荒野からすぐに成層圏、大気圏を離脱し衛星軌道を描く。

「う、宇宙だ……」

 宇宙、そして地球を見下ろし、笑顔のボブ、そしてまた大気圏突入を開始。

 トラックが熱せられボブもまた爆熱に遭う。

「おばばばばばばばばば」

 全身から焦げ臭いにおいのするボブ、泡を吹きながら大気圏突入、雲を突っ切り地面に向け一筋の矢のように落下するトラック、その色は純白を保っている。

 当然だ、アメリカのトラックは世界一頑丈だ、大気圏突入程度で焦げたりはしない。

 地面が近くなる、上空、市街地、何らかの建物、そして激突。


「ぐひひひ、ぐひっ、ぐひっ……」

 トラックの中涎を垂らしハンドルを握りながら眠るボブ。

 そんな中がんがんがんがんと外から何かを叩く音。

「おきんかい!このクソボケチビデブがい!」

「ひぃっ!?」

 老婆の叫び声、咄嗟に跳ね起きトラックから出るボブ。

 建物の駐車場にトラックは突き刺さっていた、トラックはクレーンで吊り上げられており、ボブは足元が1mぐらい足場がないことに気づき、ずっこける。

「ああもう、後でクレーン代請求するよ、あたしゃ戻るからね」

 そう言って老婆は建物内に去っていく、建物の看板を見て、ボブの表情は苦悶から歓喜の表情に瞬く間に変わる。

「うわぉ……Track Stationだぜ!」

 Track Stationとはトラック乗りの楽園である、食堂も風呂場も宿泊施設もある彼らのオアシスだ、そこにボブはたどり着いたのだ。

 ボブはチビデブボディを跳ねるように駆けTS内に飛び込むように入り込む。

「いらっしゃいませーっ!」

 迎えるのはバニー姿の美少女軍団、その先にはカジノがあり、カジノで行われるインディアンポーカーに負けたトラック乗りがスタッフに引きずり込まれている。

「うわぁぁぁ!お、おたすけぇっ!?」

「殺しはしないから安心しろ」

「いやだぁぁぁぁぁぁ」

 そんな光景をほげっと指を咥えてボブは眺めてる。

 ギャンブルは怖いな、とボブは思った。

「あんた!そんな汚いなりで店に入んじゃないよ!風呂に入りな!二階の右手行って奥の風呂だよ!着替えは後で用意しとくから入ってきな!タダでいいよ!」

「ほぁっ!?わ、わかりましたのだぜ!?」

 老婆に怒鳴られびくっとなるボブ、ボブはおばあちゃんっ子なのでおばあちゃんに怒鳴られるボブ。

 すぐにボブは老婆に指差された階段を駆け、走り、風呂場に入る。


 脱衣場は静かだ、誰もいない、ボブは乱雑に服を脱ぎ棄て籠に叩きこみ、風呂場の扉を開ける。

 風呂場はしっとりとした白い大理石製の浴場だ、ローマの公衆浴場を思わせる煌びやかさがあり、ボブは不釣り合いでは、と思ってしまう。

「まず体、体を洗うんだぜ」

 ボブはそう言いながら椅子に座りシャワーを浴びてソープを体に塗り付け、シャンプーを髪に塗り込み体を洗う。

 そして洗うのが終わると、疲れた体を癒そうと風呂に入り込む。

「ふぃぃぃぃ……溶けるぅぅぅっ」

 白い湯気がボブの体を包む、ゆったりとした包み込む感覚に疲れが消えてく。

「ふぅ……いい湯だぜぇ……ふひひ……ふひ?」

 違和感に気づくボブ、声が何か、自分の声が違う気がする。

 体が軽い、いや、胸元は少し重い感じか、よくわからない……ボブは風呂場から上がる。

 足を進め、風呂場から出る。

 そして右側にあった洗面台の鏡を見て、ボブは姿が変わってる事に気づく。

 その姿は金色のウェーブヘアー、碧眼にすらりとした顎、胸は大きく、尻肉を構成する骨盤も太もももでかいが腰は細見の長身の美女、それがボブの今の姿だった。

「はぁぁぁぁぁ!?Trance Sexualしちまったじゃねーか!?」

 ボブは籠を確認、元の服はなくバスタオルがまず一番上に置かれていたので体を拭く。

 体を拭きウェーブヘアーもドライヤーで乾かす、ボブの母親の見様見真似だ。

 ボブは嫌な予感がしており、ドライヤーで髪を乾かした後籠をもう一度見る。

 そこには『女性として生きるための100のやる事』という本と、バニースーツ、そして『あんたはバニーでもやって金を返すんだよ!』と書かれたメモであった。

「や、やるしかねぇ……」

 金髪の美女は、そのメモと本を見ながら震え、自分を奮い立たせるために口に出すのだった。

 金を払えなくなった限界白人男性がTSして借金返済をさせられ借金返済した時には女性に身も心もなっている、それはこの2020のアメリカではよくあることであった。

 そしてボブもまたその一人にすぎない、これが多様性だ。

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