30年前の約束

勝利だギューちゃん

第1話

もうじき、クリスマスがやってくる。

来なくていいのに、やってくる。


僕は、今年もくりぼっち。


でも、それでいい。

クリスマスの時だけ、彼女を作るのはナンセンス。


それに、クリスマスには、トラウマがある。

記憶のかなたから、消したい嫌な思い出が・・・


誰かが楽しむためには、誰かが犠牲にならないといけない。

なんでもそうだが、クリスマスもそのひとつ・・・

その苦い思い出に上書きできるような、楽しい思い出が欲しい。


でもそれは、ないものねだり。


クリスマスの時だけ、彼女を作っても、余計にみじめ・・・


窓を開けて空を見る。


「今年は、サンタさんもお休みだな」


そう思ったときだ・・・


「メリークリスマス」

いきなり、女の子が現れた。


なんだ?なんだ?


「久しぶりだね。元気だった?」

どうやら、この子は僕を知っているみたいだ。

でも、僕はこの子を知らない。


人違いだな。


「あのう、失礼ですが、人違いでは?」

「私の事忘れたの?冷たいな・・・」

「冷たいも何も、初対面ですが・・・」

「ほんの、30年前にあったばかりじゃない」


30年前?


「あのう・・・僕はまだ生まれていません」

「嘘つかないでよ」

「いえ、嘘でなくて・・・あなたはお若く見えるがいくつですか?」


ゴツン。

叩かれる。


「女性に歳を訊くな」

「だって、知らないと誤解が・・・」

「私?私は18歳よ」


あれ?

計算が合わない。

あっ、冷やかしか・・・


「冷やかしじゃないわよ。私は永遠の18歳。人間じゃないもの」

「僕は、人間です」

「嘘。30年前は、『俺も人間じゃないから、永遠の18歳だ』って、言ってたじゃない」

「あのう・・・」

「で、30年たったクリスマスの時に会おうで、約束したでしょ?思い出した?」


いや、記憶にないというか、覚えがない。


「で、サンタのおば・・・」

「おば・・・何?」

「お姉さん。その約束した人の名前は?」

「自分の名前も忘れたの?あなたの名前は、谷口信二くん。思い出した?」


谷口信二?

そういうことね・・・


「お姉さん。谷口信二は、僕の父です。僕は息子の、谷口幸喜と言います」

「えっ?信二くんの息子さん?よく似てるね」

「ええ。言われます」

「で、お父さんの信二くんは、どこ?」


お姉さんは、きょろきょろしている。


まあ、祖父母の代から、引っ越ししていないからな。

少しだけ、リフォームはしたが・・・


でも、あの親父の事なら言いそうだ。

今はそれを生かした職に就いているからな。


「ねえ、幸喜くんだっけ?お父さんはどこ?会いたいんだけど・・・」

「父は、たぶん庭にいます」

「庭?」

「下を見てください」


お姉さんは、下をみる。


「やあ、久しぶり。来てくれたんだ。」

「信二くん?」

「うん。待ってたよ・・・下着は白だね」

「うん。信二くん、好きでしょ?約束通りはいてきたよ」


白・・・下着の事か・・・

恥ずかしがらないのか?


お姉さんは下に降りて、親父と話をしている。

なんなんだ?


えっ?

約束通り?


「おーい。幸喜降りてこーい」


仕方なく庭に出る。


「幸喜。今から素敵なものを見せてやる」

「親父。何をだ?」

「イブ。頼む」


イブというのか・・・

このお姉さん。


「了解。信二くんも、幸喜くんも、見ててね」


イブは、下着を脱ぐ・・・

って・・・

どうする気だ?


イブはそれを、上に放り投げた。


「えい!」


すると、空から白い物が降ってきた。


これは・・・雪?

本物の雪だ・・・


「幸喜くん」

「はい」

「私たちの下着は、雪の結晶でできているの」

「結晶?」


イブは頷く。


「なので、狭い範囲でなら、雪を大量に降らせられるの」

「雪を?」


親父は頷く。


「このあたりは南国で、雪は降らない。でも、一度でいいので、この庭を銀世界にしたくてな」

「銀世界に?」

「それで、30年前にイブにお願いしたんだ。30年後に来てくれと」

「なら、どうしてすぐに来てもらわなかったんだ?」


不思議に思い訪ねた。


「幸喜くん、そのためには30年かけて作らないといけないの。」


それはいいが・・・

でもどうして、嘘をつく必要がある?


「忘れてほしくなかったからな。俺の事」

「親父?」

「30年も経てば、記憶は薄れる。でもどうしても、また会いたかったからな」


僕はこの場を去った。


30年ぶりの再会を邪魔してはいけない。

部屋に戻る。


窓から雪が見える。


ふと思う。

まさか、僕のところにも来ないよね。


「初めまして。私サンタの・・・」


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30年前の約束 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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