紅天の死体蘇生者(ネクロマンサー)

薄山月音

1-1

幼なじみとは如何様いかようなものだろうか。

朝起こしに来る。

一緒に登校する。

朝作ってきた弁当を渡してくれる。

実は相手をずっと昔から好いている。

つまり……幼なじみは素晴らしい。

それが、一般的な結論。

そう。

『一般的』な。



「あー、時間か……」

部屋中にけたたましい音を響かせる目覚ましを止め、西原にしはらタイキはベッドからのそりと起き上がった。

「……めんどくせ」

手早く顔を洗い、着替え、支度を済ませ、時計を確認する。

現在の時刻は8時、その5分前。



タイキが寝起きしている、高校付属の寄宿舎。

世の中の例に違わず、この施設も当然のごとく男女別になっている。

しかし。

「……」

余程の事が無い限り開いてはいけない、と全生徒に言い渡されている棟の境の扉を当たり前のように通過し、そのまま渡り廊下を抜け、女子棟に向かう。

不純異性交遊にも繋がる事になる、本来はあまり褒められた事ではないこの行為が、何故かタイキだけは黙認されてきたフシがある。

その理由は。

「あ、おはよー」

「……はよーっす」

たまにすれ違う女子生徒に挨拶を返し、一直線にある部屋へと向かう。

他の女子たちもこちらを見ても何も言わずに、すぐに友達とのおしゃべり、登校の支度などに戻ってしまう。

誰も、タイキに目を留める者などいない。

これはもう既に、毎日の日課になってしまっているのだから。



幼なじみとは如何様いかようなものだろうか。

朝起こしに来る?

一緒に登校する?

朝作ってきた弁当を渡してくれる?

実は相手をずっと昔から好いている?

そして……幼なじみは素晴らしい?

「……違う」

確信して、断言する。

「違う……っ!」

なぜかと言うと。

「……絶対にあり得ない最後から2番目以外全部俺の役目だからだあぁぁっっ!!!」

絶叫するなり部屋のドアを引き開けた。

まず見えたのは、薄暗い部屋。

そして。

「さて、そろそろ寝るかってのよ……」

ミノムシよろしく毛布をかぶり、ゲーム画面が点灯したTV前に座っている人物。

「あー、やっぱ徹夜は疲れるわねー。次から4時には寝るようにするかっての」

などとつぶやいている人影は持っていたコントローラーを手放し、そのまま後ろのベッドに倒れ込んだ。

「……おい」

再び、心の中で舌打ちしながら言う。

「おい、今日は月曜だ、とっとと起きろバーカ」

声をかけるが、徹夜明けで朦朧もうろうとしている相手は気づかず、そのままスースーと寝息を立て始める。

……。

「いいから起きろつってんだろ、『マソラ』さんよぉ……」

不機嫌を隠そうともせず、毛布を剥ぎ取り、忌々しげに彼女の名前を呼ぶ。

その自身の幼なじみ――タイキとしては極力認めたくは無かったが――は初めてこちらに気づいたかのように跳ね起きた。

中学校時代の野暮ったいジャージを着こんだ彼女は、タイキを睨み付ける。

「ってか! いつからいたのアンタは! 軽々しく乙女の部屋に入るんじゃないってのよ!」

「ところで自称乙女さんに聞きたいんですけどもねぇ! なんだこのクッソ汚い部屋は!」

脱ぎ散らかした衣類はもちろん、大量のゲームソフトやら何かパスワードのようなものがメモされた紙類やら使用済みのマネーカードやらが、一面に散らばった部屋。

そしてその中にあたかも孤島のように浮いたベッドの上に、彼女は座っていた。

「いちいちうっさいわねー。保護者かってのよ!」

「保護者代理だ!」

叫び返し、既に8時を過ぎ始めた時刻に気づいて舌打ちする。

「てか、なんの権利があってあたしの睡眠を邪魔するってのよ!」

「権利はねぇけど義務があんだよ! 担任からお前を次のホームルームには必ず連れてこいって! 駄目だったら連帯責任にするともな!」

「ぅるっさいわね、いいから黙って後10時間くらい寝させないよ! こっちは今から寝るところなのよ!」

「文字通り日が暮れる上に今現在世間様は朝の8時だろうがあぁぁっ!!」

絶叫し、部屋中のカーテンを引き開け、彼女の手からコントローラーを引ったくった。

「あ、ちょ、待っ」

「知・る・か」

そして『おいどうした、返事をしろ、スニーク!!』などと騒ぎ立てているTVのリモコンを引っ掴み、適当なチャンネルのボタンを押す。

「――以上、可愛いゴマフアザラシの赤ちゃんでした。微笑ましいですね。……えー、次のニュースです。昨日の昼過ぎ……」

画面の中では、にこやかな笑顔を貼り付けたキャスターが朝のニュースの原稿を読み上げていた。

それを聞き流しながら、洗面所から歯ブラシとコップをつかみ取り、再度ベッドに倒れ込もうとしていた彼女に押し付ける。

「……15分で用意しろ、いいな」

舌打ちしながらそれだけ告げると、手にしていたリモコンをベッドの上へと放り投げた。

「――自動車道下り線のトンネル内で、大型トラックと逆走してきた乗用車が衝突しました。消防署によると、この事故による死者は奇跡的にいないという事です。では現場の安藤レポーターから中継を――」

……。

幼なじみの要件その1、『朝起こしに来る』。



「……ったく」

寄宿舎の入り口門付近にて、外壁に寄りかかったままタイキはため息をついた。

ここから自分と彼女――天道寺てんどうじマソラが通う高校まで、およそ10分。朝のホームルームには間に合うはずだった。

……。

そのまま頭上の青空を見上げていると、建物内からマソラが小走りに出てくる。

「♪~」

片手に小型ゲーム機を持って。

「……おい」

「何よ、またあたしの大佐タイムを邪魔したら許さないってのよ」

寝ても覚めてもこの調子の幼なじみに、隠そうともせず舌打ちをする。

「さっ、今日も1日元気にリボルバー大佐と共に過ごすっての!」

最近彼女がハマっているミリタリー系のゲームに登場するキャラの名前らしいが、そんな事は心底どうでも良かった。

日常や生活習慣と言うには生ぬるいほどに、いつしか彼女はゲーム廃人と化していた。

それをどうにかお天道様の下を歩ける真人間に戻そうとする努力をタイキは続けているが、最近は半分諦めが入ってきている。

なにせ、ゲーム代を捻出するために食費に手を付けるのは序の口で、土日の三食を全てちくわと水道水で済ませていた事さえあったくらいなのだ。

「……」

仮に自分がいなければ、コントローラーを握ったまま血走った眼で衰弱死しているのではないかとすら思えた。

そんな思考を振り払い、立ち止まって意識を手元に集中させている彼女を引っ張る。

「おら、遅刻する前にとっとと行くぞ」

……。

幼なじみの要件その2、『一緒に登校する』。



マソラと共に、並んで通学路を歩く。

「……」

その道中も当たり前のように小型ゲーム機に集中したまま、器用に電柱をかわし、前方から突撃してくる自転車を避け、軽快に彼女は歩いていく。

条件反射というより、もう既に本能的に回避が出来ているのではないかと思えるほど、それは日常の景色だった。

そしてそれに気が付いた同じクラスの生徒たちが、2人の周囲に集まってくる。

これも、いつもの光景。

「今日も一緒に登校? 仲いいねー」

「別にそんな事ないわよ。ただの腐れ縁だっての」

目線を手元のゲーム機に集中させながらも、クラスメイトへ応答を返していくマソラ。

「……腐れ縁っつーか腐りきった縁なんだが」

精一杯低くした声で舌打ち気味に抗議を返すが、相手はそれを冗談と受け取ったらしく、面白そうに笑いながら手を振ってきた。



幼なじみの要件その3、『朝作ってきた弁当を渡してくれる』。

「ほら、お前の分の弁当」

昼休み、自分の席でゲーム機を取り出したマソラに声をかける。

今回はいつも以上に自信作だった。

主菜と副菜のバランスに気を使い、日頃のカロリーもおそらく足りていないであろう彼女のために量も多めにし、それでいながら材料費もワンコイン以内に抑え、なおかつ彩りも考えて目でも楽しめて――

……。

「俺……何してるんだろう……」

ふと、相手が気づかない程度の声量でつぶやく。

極めて不本意ながらも彼女のために弁当を作り続けるうちに、栄養バランスやら食習慣やら1日30品目やらの知識が勝手に身についてしまった。

将来は調理師免許取るのもいいかもなぁ、調理師って給料いいんだっけかなぁ、などとタイキがよく回らぬ頭で考えつつ、彼女が昼食をパクつくのを見つめていると。

やはりと言うべきか、その光景を目撃した周囲のクラスメイトたちが騒ぎ始めた。

声を意識の中から追い出そうと努力はしてみるものの、それでもいくつかの声が聞こえてくる。

本当に仲が良さそうだとか、実は両想いなんじゃないのだとか、きっと卒業してからもこのままずっと一緒に――



……。

「だあああぁぁうっせえぇぇぇぇっ!!」

昼休みも終わりに近づいた頃合い、屋上で叫ぶ。

付近にいた数人の生徒が不審げな視線をタイキに向けてくるが、そんな事は今さらどうでも良かった。

流石幼なじみ同士。

ケンカする程仲がいい。

いつも一緒にいるから、これからもずっとずっと一緒。

「ふふふ……うふふふふ……うへへへへ」

不気味な声がタイキの口から漏れ、屋上の生徒たちがどんどん彼から遠ざかっていくが、やはりそんな事を気にしている余裕は無かった。

タイキは決心した。そう、決心したのだ。

今日この日をもって、あのくそったれ幼なじみと縁を切ってやると。

もう、アイツが何をしていようが構うものか。

遅刻しようが何しようが、もう一切自身には関係のない事なのだ。

彼女の身にどんな事が起きても、気にしてやるものか。

そう、例え相手が死んだとしても。

――そんな事を思いながら見上げる空は、普段と変わらず青い色をしていた。



で。

「どうしたのよアンタ。午後の授業中ずっとあたしの事睨んでたけど」

「うるせぇバーカ」

身体に染み付いた習慣まではそう簡単に変える事は出来ず、気づくと彼はいつものように幼なじみと共に帰り道を歩いていた。

「……あ、もしかしてアンタもこの大佐シリーズに興味を……」

「それだけはねぇから黙ってろ」

「そう?」

言うと小型ゲーム機を突き出しかけた相手は、すぐに手を引っ込めた。

それからバッテリーが少なくなってきたのか、電池式の充電器をどこからか取り出して歩きながら器用につなぐ。

ふと画面に視線を向けると、上半身裸でムキムキな軍人らしき男性が鬼の形相で敵兵を布団で簀巻きにしているところだった。

「……くそ、どうにかなんねぇのかこの腐れ縁……」

マソラとは実家が真向かいということもあってか、幼稚園、小、中、と今まで同じ学校に通っていた。極めつきには、生まれた病院まで同じだとか。

そしてタイキ自身としては最悪な事に、それぞれの両親の仲が極めて良く、「幼なじみだから将来はこのまま結婚しちゃいましょうかウフフ」なんてのが毎日聞こえてくる始末。

「実家から離れた寄宿舎生活でついに! とか思ったら……」

「何か言った?」

やはり、日常はそう簡単には変わらず、相手と離れる事も出来ないのか。

隣を歩く彼女を横目で眺めつつ、改めてそう思った。



マソラのゲーム好きは、はっきり言って自分が原因だった、とタイキは思い出す。

まだ自分と彼女の仲が良かった小学生の頃に、面白半分で格闘ゲームの対戦相手をさせた。させてしまったのだった。

周囲を通りすがる名も知らぬ女子生徒たちの、この前近くの路地でクラスの友人の自宅の斜め前に住む田中さんと同じ会社に勤める鈴木さんがバイク事故で亡くなっただのなんの、というおしゃべりの言葉すらも今のタイキには全く耳に入らず、大きくため息をつく。

「うわ、キッツいわねー。装備持ち込み無しで対戦車戦とかやるもんじゃないっての。……でも、これをクリアしてこそ!」

そして、気が付くとこんな事に。

「……つか、お前朝からずっと何やってんだ」

「だーかーらー、ガンクロよ、ガンクロ! 『暁のガンオブクロス』、略してガンクロ! さぁ百回復唱っ! ちなみにポータブルと据え置きでデータ共有可」

「先週の金曜の帰りに買いに行ったヤツだよな、それ……」

疲れ切った金曜日、彼女に引きずり回されて新作の購入を手伝わされた記憶が蘇ってくる。

「でも、そろそろクリア目前なのよねー。お金足りなくて買い切れなかった拡張分もこれから買いに行こうーっと」

「……ご自由にどうぞ。俺の財布に手付けなければな」

この、極端なまでのインドア派のマソラ。

だが、彼女は寄宿舎の自室に一応引きこもりはするものの、基本的にタイキが介入しなくてもそのうち勝手に外へ出てくる。特にプレイ時間の長いオンラインゲームなどにハマっていない限りは。

そしてその理由は単純に、恐ろしいまでにクリアまでの時間が短いから。

その後、血を求めるヴァンパイアの如く街中のゲームショップを彷徨い始めるのが常だった。

「さて、と! ってなわけで!」

小型ゲーム機をスリープ状態にし、こちらにビシッと指を突きつける。

「これからマソラさんはお代わり買いに行くので、とっととお金を渡しなさいってのお財布」

「断固拒否する! 今しがた言ったばっかだ!!」

タイキの叫び声に怯えたのか、近くで話し続けていた女子生徒たちが散り散りになっていく。

「はぁ!? 財布風情が調子に乗ってるんじゃないわよ! こちとら毎日食費にも事欠く生活してるのよ!」

「それはただの自業自得だろうがぁぁっ!!」

「何よ、あたしにバイトしろっての!? 『働いたら負け』っていうコトワザがあるじゃない!」

「それはコトワザじゃねぇ!!」

「そもそもこれは遊びじゃないのよ! こちとら職業だってのよ!」

「廃人の言い訳だ!!」

ひとしきり怒鳴り、ぜーぜーと肩で息をつく。

「ったく、しょうがないわねー。後で徴収しに行くから待ってなさいよ」

後ろ髪をかきながら、シッシッとこちらに手を振る。

「……絶対に渡さねぇからな」

「全く、アンタはどうしてそういつもプンスカプンスカ。理由もなく嫌うんじゃないっての」

「理由は好き嫌いだ!」

悪態をつきつつ立ち止まり、そのまま彼女の歩いていく方向を見つめる。

「とにかく、アンタと違ってあたしは忙しいんだっての。というわけでばいびー♪」

その数メートル先、マソラが入っていった建物はどう見ても彼女御用達のゲームショップだった。

「マジでいつまで続くんだ、この日常生活……」

人々が行きかう街中で、独りつぶやく。

言葉を返す者は、いなかった。


しかし、日常はこの直後に途切れることとなる。

この物語は、ラブコメではないのだから。



「……つかどこだ、ここ?」

数回ほど角を曲がり、いくつかの道路を横断したところで、周囲の建物が見た事も無いものへと変わっていく事に気づいた。

行きかう人々の数も目に見えて少なくなってきており、車もロクに通らない。

「……くそ、迷ったか」

早く寄宿舎へと帰ろうとほとんど知らない裏道を通ったせいで、変な場所に出てしまったようだ。

いつも通学に使っている大通りからだいぶ外れ、現在地は皆目見当もつかない。

新規のゲーム店を探すために日々街中を徘徊しているマソラならば、脳内に完璧な地図が完成しているのだろうが、あいにくタイキにそのような能力はなかった。

「……戻るか」

下手にショートカットを探すよりも引き返した方が早いと判断し、今来た道へときびすを返す。



だが。

「……ったく……」

さらに変な場所に出てしまう。

建物が連なってコの字型の壁を作り、ちょうど小さくて薄暗い広場のようになっている空間。

いつの間にか周囲からは人の気配が無くなり、どこか自分1人だけが取り残されているような感覚に陥る。

「……くっそ、完全に迷子ってか……」

近くに道案内の地図の掲示板でもないかと周囲を見回しながら、来た道を戻ろうとした時。


何かが、いた。


タイキの数歩先に、見慣れた種類の動物がいた。

「……犬?」

それはあえて分類するならば、黒っぽい犬。

ただし。


犬はあんなに大きくはない。

犬はあんな声で鳴かない。

犬はあんなに目は血走っていない。

犬はあんなに口からよだれを垂らしてはいない。


目が合った。

「ッ!?」

前足にあたる部分が動いたかと思うと。

気が付くと『それ』はタイキの眼前に現れていて、その大きな口を開けた。

淀みきった紫色で、何もかも吸い込みそうな口内。

早かった。

避ける間も、無いほどの。

「な――」

喉に熱さを感じた。

それから意識が途切れ。


西原タイキは、そこで死んだ。



気がつくと、周囲は白かった。

暗闇の黒色が、そのまま白になっただけのような世界。

辺り一面靄もやのようなものに覆われていて、視界は極めて悪かった。

「俺、路地裏にいた、よな……?」

そして、どこかふわふわした雲の上に立っているような感覚。

周囲を見回しながら、ふと何の気なしに首筋を触った。

「……」

首筋に、子指くらいの大きさの穴が空いていた。

触った手に血は付いておらず、ただ穴が存在しているだけ。

本来身体には無いはずの穴が何故あるのだと考えた瞬間、ズキンと頭が痛んだ。

路地裏に入ってからの記憶が、この場所にいる理由が、この穴が出来た経緯が、どうしても思い出せない。

「転んだ……んだっけか?」

同時に全く痛みも何も感じない事を不思議に思いつつも、再び首筋を触る。

「……」

やはり痛みは少しも感じず、穴の中で指を動かしてみてもただの空洞だった。

「夢か、これ……?」

夢にしてはやたら現実味があるが、夢ならその内覚めるだろうと思い、そのまま真っ直ぐに歩き始める。

そして、次第に周囲の靄が晴れていった。

「……?」

遠くの地平線上に何か建物のような物が見えた。

例えるならば、高く高く……とにかく高い、頂点が見えない塔。そしてそれの門なのだろうか、大理石のような材質に意匠を凝らしたアーチ。

何となくそこに呼ばれているような気がして、彼方の構造物へと足早に歩を進める。

何故だろうか、そこへ一歩近づく度に、どこか心が安らぐ気がした。

自分はあのアーチをくぐらなければならない。そのような思いが、一歩また一歩と踏み出す度に、どんどん強まっていく。

だがタイキの欲求とは逆に、身体は段々と重くなっていった。

動き続けていたはずの足はいつしかその歩みを止め、そこから一歩も前へと進まない。

むしろ逆に、身体全体が後ろへと下がっているような気さえする。

まるで……何かに引っ張られているかのように。



「おはよう。どう、気分は」


「……?」

まず見えたのは、赤い夕焼け空。

おかしい。先ほどまでの空間はただただ白く、空など見えなかったはずなのに。

そして次に視界に入ったのは……フード。黒いフードを目深に被り、自分を覗き込む少女の顔。

「目が覚めたならさっさと起きて。ワタシもこの体勢は疲れる」

言われて、自分が彼女に膝枕をされている事に気づいた。

「……あ、ああ」

上半身を起こし、周囲を見回した。

この場所は、道に迷った自分がたどり着いた先ほどの空き地である事をタイキが認識するまでに、そう時間はかからなかった。

「で、お前は……? そもそも俺は何を……?」

目の前でほぼ無表情のまま、着ている黒いローブについた土埃を払っている少女に疑問を投げかける。

しかし彼女はそれには答えずに、膝をついた姿勢のままつぶやくように言った。

「新しい命の感触はどう? 完璧な術式だったとワタシは思っている」

「あ? お前一体何を――」

だが相手は再度タイキの言葉を無視し、まるで握手でも求めるかのように、片手をこちらに差し出した。

「ワタシは死体蘇生者ネクロマンサー。ようこそ、2回目の人生へ」

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