第八回 幸本梓&橘染那
誰からも好かれる、明るく親しみやすい陽の者になりたい。自分が昔から抱いている叶わない願いのうちの一つである。幼少の頃、慣れ親しんだド田舎から引っ越し今の街に定住してもう二十余年。いつの間にか他人と話したり、行動を共にしたりするのが苦痛になり、日々しがなく慎ましいロンリーライフを送っている。
将来的に孤独死になりそうだと思いつつも、まあそうなったらそうなったで行政とか警察とかが何とかしてくれるだろうと考えるあたり、自分は駄目人間なのだろう。
孤独を紛らわす為にこうして文章を書くことを趣味にしているが、陽の者ならこういう趣味も出会いの場や他者との交流にしたりするのだろうと思うと、多少やるせなくなるのは何故なのだろうか。もし来世にて生まれ変われたなら、そういう無駄な感情を一切感じなくて済む植物辺りになりたいものである。
さて第八回となる今回。色々あって嫌気がさしたので十二年勤務している会社を退職したいと思い立ち、昨年末から地道に取り組んでいる某資格の勉強がどうにも行き詰まったのが関係しているのか、何やらしんみりする書き出しで始まってしまった。
こうして文章を書く時間も本来なら勉強に充てた方が良いのは分かりきっているのだが、中々やる気にならないのは自身が面倒くさがりだからだ。努力家の爪の垢を煎じて飲みたい今日この頃。
やさぐれつつも誰の話をしようかと考えても、何となくこの二人しか思い浮かばなかった。今回は筆者の書いた駄文の中で唯一バズったと言っても過言ではない、ある物語とその制作秘話について書きたいと思う。
時は2016年頃。その当時の自分は何というか、とにかく暇を持て余していた。日々残業に追われ会社と家を往復する中、仕事終わりに丁度会社と家の中間地点にある某大手スーパーマーケットにて安売りのスイーツとドリンクを買い、休憩スペースで一服するのが日課になっていた。一服しつつぼんやりとスマホで閲覧するのは勿論『小説家になろう』。
しかし、ランキング画面を眺めつつ、求めているものはこれでは無いと静かに憤っていた。というのも、このエッセイにて先述している通り、自分はあまりファンタジー小説が得意ではない。
しかしこの当時、なろう界隈では悪役令嬢や聖女、ハズレスキルや追放系がやたらに大流行している時期であり、自分はそれらのタイトルを眺めているだけでお腹いっぱいであったのだ。一応自身でも現代社会が舞台の『リバースエッジ』という物語は執筆していたものの、あまり成果は振るわずやるせない感情を燻ぶらせていた。自身が小説を執筆している事は伏せつつも、ファンタジー小説が群雄割拠している現状をちょくちょく元春に愚痴っていた。
そう、実はその某スーパーマーケットは元春も常連であり、当時三交代制の仕事に就いていたので彼が夜勤の際に遭遇することが非常に多かったのだ。
まあ元春は自分とは対照的になろう系ファンタジー小説が大好物である為、あまり現状に不満は抱いていなかったようだったが。
ともあれ自分は現状に満足出来ていなかった。何というか、ティーンズラブチックな現代社会が舞台でちょっぴりエッチな恋愛物が読みたかったのだ。なのでぼんやりと妄想しつつプロットとも言えない走り書きを執筆フォームにて作成するも、その時は自分の専門分野ではないよなぁ……、と三百文字くらいで書くのを止めてしまった。
そして不満を抱きつつも漠然とした日々を送っていたが同年8月23日、丁度この日がXデーとなる。
その日は確か残業が一時間ほどで終わり、自分はいつものように某スーパーの休憩スペースにて購入した安売りのシュークリームと飲み物を味わいつつ、七時過ぎくらいに帰宅すればいいかと考えていた。そしてたまたま元春とも遭遇、二人でテーブルにつき他愛もない話に花を咲かせつつも、例のプロットもどきを加筆し一つの短編に仕上げようとふと思いつく。スマホにてポチポチ文章を打ち込みつつ、あわよくば主人公とこのヒーロー役がスケベしてくれればめっけものだったが全くそうはならず、同窓会で遭遇し二人でその場を抜けるところまでしか進まなかった。
どうせ大したアクセスPVにはならないだろうし自分だけで楽しむ話だからと、主人公である地味だが巨乳の主人公に橘染那、やたらチャラチャラしたイケメンのヒーロー役に幸本梓と名前を付け、ムーンライトノベルズに投稿。
三十分後そろそろ仕事場に行くという元春に合わせて、自分も帰るかと何気なしに先程投稿した小説のアクセスPV画面を開くと、なんと一時間ほどしか経っていないのにも関わらず400PVという自作品としては異例の大バズりを記録。思わず「はぁ!?」と声に出るくらいには驚いたのを今でもよく覚えている。
こうして出来た作品こそ現在ムーンライトノベルズにて絶賛エタり中の『ウザカレ。〜ウザい彼と地味な私〜』である。正直なところエタらせるつもりは全くなかったのだが、まさかここまで人に読まれるとは思っておらず、読者の期待を裏切ったらと考えると筆が進まなくなってしまったのだ。だからか、何気なしにサクッとメイキングしたこの二人にも申し訳なくて、あまり本編を読み返し出来ていない。
バズったのは純粋に嬉しかったが、あまり期待されすぎても筆が進まなくなるんだと再認識出来たのは幸本と橘がいたからだ。やはり自分は現実でもネット上でも日陰に居たいと思えた瞬間であったし、これからもそれは変わらないと思う。
二人の為にもいつかは完結させたいと思うが、あのときの感覚が自分の中で失われているのがありありと分かるので、以前のようにはきっと書けないだろうと感じている。
ちぐはぐなようで意外と息ピッタリな二人に思いを馳せつつ、今日のところは筆を置かせてもらう。次回はマジでどうしようかと頭を悩ませているので、もしかしたらもう書かないかも知れない。書きたいキャラが浮かんだら書くつもりなのでよろしく。
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