第七回 ジャック・レイクウェル・スカーレット

 創作をしている際、予想もしていない事態は度々起こりうるものである。

 例えば。何気なく執筆した物語が自分の想像以上のバズりを見せたときや、途中までメインを張る筈だったキャラクターが早々に退場してしまったとき。そういった局面に遭遇したときに、どう平静を取り戻したり誤魔化したり出来るかが、創作者に課せられた課題であるように常々感じている。

 要は適応力や発想転換の問題なのだが、自分はそういう土壇場に滅法弱く、毎回どう収拾つけるかにひたすら頭を悩ませるのである。つくづく頭の回転が早い人種が羨ましく思う今日この頃。


 さて、第七回となったこの黒歴史エッセイ。個人的にはもう折返しに入っている感も否めず、十二回ぐらいは書きたいと思ってはいるけれど、正直大したエピソードを持っている自キャラクターがあまり居ないのがネックである。若干後ろ暗い人生を送ってきた自負はあれど、創作活動に全てを救われてきたとは言い難く、どちらかといえば当時愛読していた漫画や音楽、ライトノベル等の娯楽が自分を救ってくれていた。


 まあそんな感じでネタが尽きつつあるので、今回は元春の話でも書きつつジャックという男を語っていこうと思う。前回よりはライトに読めるように書くので、引き続きお付き合い頂けたら幸いである。

 自分の実父である元春は、一言で表すなら『天然系クズ男』である。この評価は昨年の九月頃に直接本人にも話したが、本人は至極複雑だったようで。


「ナカヒト、父さんのどこがクズなのよ? そんな事言うなんて悲しいっ!」


 と不満を顕にしていたのは記憶に新しい。だが娘から見れば元春ほどこの評価が似合う男も中々居ないのではないだろうか。

 そもそもの発端は自分の少年期。自分は両親の話を聞くのが好きな子供であった。昔の話をしている時は美沙子も穏やかだったし、何より両親がどういう経緯で出会い結婚に至ったのかに純粋な興味があった。このとき美沙子が若かりし頃の元春について語る際に良く耳にする人物の名前が出た。


「はるちゃん(元春のこと)はケイコちゃんと結婚すれば良かったんよ。『アンタと結婚しなきゃ良かった』って言うんだから……」


 ケイコちゃん。美沙子が言うにはかなりの美人だったその人物と、元春は東京で知り合った友人であったらしい。美沙子も元々は寂れまくったど田舎から東京に憧れて上京した田舎者の一人。友人の紹介とか、伝手で知り合ったのであろうということは幼い自分にもわかった。その話を後日、元春に直接聞いてみると。


「ケイコ……ああ、いたねぇ。でも俺は仮に美沙子とそうならなくても、彼女とは付き合うつもりは無かったな。だって好みじゃなかったしなぁ」


 まさかのモテ男宣言。子供であった自分でさえも、『え!? 父って選べる側の人間なんかい!!』と内心突っ込みを入れたのは今でも記憶に残っている。その後も元春の若い頃の話を聞くと大抵女の影がちらつくのである。文通しただの、バレンタインにチョコもらっただの、連絡先聞かれただの……。

 しかしながら本人は至極真面目な顔で『でも好みじゃなかったし、告白もされてないしなぁ』とのたまうのである。何だこの男ムカつくわあ、そう思ったのは一度二度では足りない。

 だがそんな無自覚系モテ男は何故か美沙子という稀代の鬼女と結婚してしまった。当時の事を彼はこう語っている。


「騙されたようなものだった。『今日、安全日だから』って言うしさ……」


 ……聞いた自分もどうかと思うが、馬鹿正直に話す方もどうかしていると思う。そういった訳で自分は両親の若い頃に纏わる話なら兄や弟よりも遥かに詳しい自負がある。

 だからなのか、今日までの自分の創作活動の根幹には、両親の若い頃の話が無意識の内に組み込まれていることが非常に多い。読み返してみて『あ、入っちゃってんなぁ』と気付く事の方が多いのだが、ジャックという男をメイキングした際もその傾向が強く出てしまっているのである。


 ジャック・レイクウェル・スカーレットは齢八百年以上を生きる吸血鬼だ。褐色肌長身の美丈夫で大抵の事は卒なくこなす器用さを持っているが、反面それが裏目に出ていて他者との交流及び会話を無駄を感じているところがある。

 この男の性格や生き方をメイキングする際、自分は元春から聞いた若かりし頃の話や、元春自身の基本的には世話焼きだが他人に興味を微塵も持たない性格など天然系クズの要素が脳裏にあり、それを参考にしつつ設定を練っていった経緯がある。だからか、ある意味ジャックという男には親近感があったりする。

 ここまで書いておいてなのだが、実のところこの男をメイキングするつもりはあまり無かった。というのも、何度かメイキングしようとして失敗してはお蔵入りさせるという、あまりに無駄なサイクルを繰り返していた時期があって、最終的には存在だけ匂わせて物語上には登場させないようにするかというところで落ち着いていたのだが。

 まさかの物語序盤にて主人公を引っ張る兄貴分的存在が実質退場。どうしても物語の都合上、新しいキャラクターを登場させなければならなくなった。どうしようかと考えているとき、ふとこの男の存在を思い出したのだ。

 そして、まだ名前もまともに決まっていない男に最低限性格だけ肉付けをし物語に登場させたが、書いてみて『この人、何かキャラ濃くないか?』と感じつつも。それ以上深く考える事もなくこの男の語るままにキャラクターメイキングをしていった結果。


 何故かこの男だけ異常な文量の設定表と共に、勝手にひとり歩きするまでに成熟した人物像が出来上がっていた。何だこの男、フィジカル強すぎないか?

 なので現在進行形にて、この男が主役の番外編をムーンライトノベルズの方で執筆しているのだが、好き勝手やってくれる割に感情表現が並小特小ぐらいにしか無いから心理描写にひたすら苦労するキャラクターの最筆頭である。せめて恋愛物なんだからそれっぽく振る舞って貰えんかと思うことは山ほどあり、書く度に何だこの男と思うことは未だにある。

 だが愛着はそれなりにあり、スランプで何も書けないと落ち込んでいたときも、この男に関する物語ならサラッと書くことが出来ていた。ある意味では自分にとっての救世主であるといえる。


 面倒臭がり屋だが妙な場面で凝り性なこの男に感謝しつつ、今日のところは筆を置かせてもらう。次回の予定は未定だが、もし書くならあの二人かという構想は少しある。まあ、お楽しみに。

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