グツグツ、コトコト
石谷 弘
グツグツ、コトコト
ザーザー、ジャバジャバ、キュッ、パッパ。
「はーい。じゃあ、台に乗ってくださーい。
ピーラー持って、こっち側を今洗ったジャガイモに押し当てて、ほら、危ないからちゃんとにぎって」
シャッ、カチャカチャ、シャッ、シャッ、シャッ。
「ねえパパ?」
「うん?」
「なんでカレーなの? みさきちゃんは卵焼きだったんだよ?」
「むけたなら、後はパパが切っちゃうね」
サクッ、サクッ、トントントン。
「だって負けたくなかったんだろ?」
「そうだけど、ちょっとレベルが高すぎるというか」
「大丈夫大丈夫。それにきっとママも喜ぶ」
「もー、そればっかり。タマネギは切ってみてもいい?」
「やってみる? 皮だけむいてしまうからちょっと待ってよ」
ザクッ、ペリペリツルン。ザック。ジャバジャバ。パッパッパ。
「はいどうぞ。左は猫の手で。最初は根本だけ残して切って」
スットンッ。スットンッ。
「こう?」
「そう。上手、上手。あ、目は触っちゃダメ」
「でも目が」
「触ったら余計痛いことになるからね。一回手洗っておいで」
「もうちょっとだから、切っちゃう。あっ」
ツルッ、ガンッ。ツー、ポタッ。
「大丈夫? どこも切ってない?」
「パパ血出てる! 包丁にも血が」
「これくらい絆創膏貼っておけば大丈夫。はい、包丁も洗っちゃうから、ちょっと休憩。手洗っとこうか」
グツグツ、グツグツ。ペリペリ。ボットンッ。グールグルグル。
「うん。ルーが入るといい匂い」
ブーブウォンブウォン……。
「バイク!」
ピーポーピーポー。
「救急車!」
「今夜は外が賑やかだね」
「天井からお外が降ってくる!」
「換気扇のダクトが道路側につながっているからね。焦げ付かないようにちょっと混ぜてくれる?」
バッ、ガチャガチャ、トン、トン、トン。パタン。
「牛乳とケチャップとソース?」
「そ。あとコーヒーも入れちゃう」
ゴー、プシュー。
「えー、おいしくなさそう。今度はトラック」
「隠し味だからね。ちょこっとずつ」
「じゃあ、ついでに換気扇からバイクと救急車とトラックも、隠し味で全部ぜーんぶ放り込んで、じっくりコトコト煮込んじゃいまーす。
グツグツ、コトコト、ピーポーピーポー。
グツグツ、コトコト、ブォンブォンブォン」
『ママー。カレーの匂い!』
『うちもカレーにしよっか』
チリンチリン。
『明日から中間テストかあ。あ、今カレーの匂いした』
『いーなー。帰ったら母さんに頼んでみようかな』
「うふふ」
「嬉しそうだね」
「だって誰かが通るたびにカレーの家が増えていくんだもん。みんなの『食べたい』も、まとめて一緒にふりかけて、お鍋でグツグツ」
コトコト、コトコト。グールグル。
ガチャガチャ、バッタン。
「ただいまー。んー、いい匂い」
「いいでしょう! あたしが作ったんだよ」
「どれどれ。美味しそうじゃない! 楽しかった?」
「うん!」
カチャカチャ、タラーリ、ほっかほか。
「いただきます」
グツグツ、コトコト 石谷 弘 @Sekiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます