三話 月へ

放課後の教室に花乃と2人だけでテスト勉強。花乃を独り占めできる。


「あれ?計算合わない…」


「花乃、それ式写し間違えてない?」


「うそ!?だからこんな変な分数に…」


やっぱ花乃は可愛いな。この間はびっくりした。花乃の指先が首筋をなぞって……。あの時顔赤くなってなかったかな?


「テスト、もうちょっと先だったらな。」


そしたらもっと花乃と2人だけでいられるのに。


「そんなこと言って、姫はいつもちゃんと勉強してるんだから。私はやばいよ!!!!」


「え?今回はいい感じじゃない?私にそんなに聞いてこないじゃん」


「自信ある時の方ができなかったりするんだもん。」


少しむすっとした顔をして、くりんとした目で見つめてくる。ドキドキしてしまう。


「花乃可愛いね。」


「突然どうしたの?そういえば、姫って好きな人いる?」





「え⁉︎」


好きな人から1番聞かれて動揺する言葉。


「いないよ!!そ、そう言う花乃はどうなの?」


あ…。聞きたくない。怖い。


「すっごく素敵だなって思う人がいてね。」


え。


恥ずかしそうに目線を逸らす横顔が綺麗で、大好きな花乃が知らない子みたいに見えて。


「その人とずっと一緒に居たいくらい大好きなんだけど、こ、恋なのかなって。」


あ、泣きそう


「そうやって言う時点でもう好きなんじゃない?」


何でこんな事言っちゃうんだろう。


「そうなのかな?」


「その人とイチャイチャしたいって思うならそうなんじゃない?」


「イチャイチャって///」


何で?


「花乃、顔真っ赤だよー」


「へ⁉︎」


こんな時でも可愛いって思っちゃう私は重症だな。



オレンジ色の光が教室を染め上げている。私の大好きな景色。


「花乃?」


寝ちゃったか…。大好きなのに伝えることすらできないのか。花乃だって好きな人がいたって何も不思議じゃないのに、ずっと私が花乃の1番だって思い込んでた。視界がぼやけて水中に沈んだような感覚がする。


花乃のくせっ毛を指先にからめて、唇で髪に触れる


「私だけの花乃で居てよ」


夕日色の頬に唇をそっと当てる。


「え⁉︎、姫?」


花乃が目を見開いて見つめている。



終わった。


「ちょっと、姫!!!!」


鞄を机から奪い取り、教室から飛び出していた。


もう友達ですらいられない。キスするなんてありえない。友達にキスされるなんて、花乃のトラウマになっちゃうかもしれない。もしかしたら、いつか付き合ったりできるかもしれないなんて思ったこともあった。でももう無理だ。


東の空に滲んだ満月が見える


花乃といられないならここにいる意味なんてない


「月に返してください」


澄んだ懐かしい声が空から降って来た。


「分かった。取り消しはできないぞ。次の満月に迎えに行く。」


「わかりました天女様。」




もう少し花乃と一緒に居たかった。

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