第8話 オリジナルスキル
決闘(デュエル)の最中に観客が割って入るのは危険だし、本来はやってはいけない禁忌だが、ミリアは関係者でもあり、そういう行為に及んでも不自然ではなかった。
また、頼りない審判役の警備兵は、どうしていいかわからずオロオロするだけだ。
さらにミリアは言葉を続ける。
「ごめんなさい、お金は真面目に働いて倍にして返しますから……許してださい……」
涙ながらにそう訴えかけるミリア。
その様子を見た対戦相手のグランは、これ幸いと思ったのか、
「……ちっ、白けちまったぜ……もう止めないか」
と提案してきた。
正直、えっと思った。
このまま戦いを続けても、相手の攻撃を見切った俺の方が有利だ。
しかし今止めると、俺が吹き飛ばされて不利な状況に見えてしまう。それを見越して、グランは駆け引きを仕掛けてきたのだ。
「ふざけるな」と言って戦いを続けることもできるかもしれないが、俺が勝ったとしても余計な禍根を残してしまうし、第一ミリアがこれ以上の戦いを望んでいない。
「……まあ、そっちがやる気を無くしたなら、俺としても続ける理由はないな」
「ああ……よくよく考えたら、別にあんたに恨みは無い。その娘も泣いて謝ったんだ……許してやるよ」
……この男、体よく逃げようとしているな……。
「え、いいんですか……あの……ありがとうございます……」
なぜか礼を言うミリア。
その様子に、グランも少々驚いたようだが、
「礼なら、そのおっさんに言うんだな……これからはあまり大人相手に悪戯するんじゃねえぞ」
そう言い残して颯爽と去って行くグラン。
……いや、なに格好つけてるんだ? まるで正義のヒーロー気取りじゃないか!
周囲の野次馬達も、「おおーっ!」とか「さすが!」とか、グランを褒め称えているし。
それに、よく考えたら俺が奴に渡した二万ウェンもそのまま持って行かれたぞ!?
いろいろ理不尽な終わり方だ。
野次馬達は
「さすが三ツ星同士、見応えがあった!」
とか、
「最終決着まで見たかった!」
とか、好き勝手なことを言いながら散っていった。
「ごめんなさい、ハヤトさん……私のせいでこんなことになってしまって……ケガとかありませんか……」
ミリアは、涙を浮かべながら俺のことを気遣ってくれた……その不安げな様子は、まるで子犬だ。
まあ……この美少女を守れただけでも良しとするか。
と、すぐ側でなにやら奇妙な視線を感じたのでそちらを振り向くと……盟友のリョウが、ニヤけながら俺たち二人のことを見つめていた。
「よう、お疲れさん……なかなか見応えのあるバトルだったぜ……その子、例の『パパ活』でゲットしたのか?」
「……ついさっき会ったばかりだ」
「そうか……むちゃくちゃ可愛いじゃないか。『当たり』だな」
「……今のこの状況を見て、本当にそう思うのか?」
もちろん、それはいきなり結構なトラブルに巻き込まれた、ということを遠回しに指摘している。
「まあまあ、勝ったからいいじゃないか」
リョウの言葉に、ミリアは、「えっ?」という感じで俺の顔を見つめた。
「……やっぱり、今のは熟練のハンターでないと勝敗は分からなかったか。ハヤト、ずいぶん強くなったな。俺の予想では、グランの方がかなり有利だと思ったけどな。最後のあの技をも受け流すなど、なかなかできることじゃないぜ」
「いや、完璧には無効化できなかった。そのせいで、なんか、俺の方が負けていたって見られてそうなんだけどな」
「まあまあ、奴自身も分かっているだろうし、少なくとも俺は認めているさ。おまえが圧倒的に有利だったってな」
俺たちの会話を聞いて、ミリアは、自分が余計なことをしたと悟ったのか、また俺に謝ってきた。
「もういいさ、それで奴も俺も、余計な禍根を残さずに済んだんだ。そういう意味では、あれで良かったと思っているよ」
俺はどうもこの娘に甘いのか、優しく声をかけてしまう……それをまた、リョウがニヤニヤと見つめる。
俺は、文句があるのか、という具合にリョウを睨み付けた。
「まあまあ、そんなに怖い顔するな。それより、俺がさっき言った、『強くなったんじゃないか』っていうのは、実際のところどうなんだ?」
リョウに促され、目を細めて自分のステータスを確認してみる。
「……なんだ、これ……確かに、急に大きく各数値が高まっている。こんなはずは……」
視線を下にずらしていった先に、とある文字列が追記されているのが分かった。
「オリジナルスキル:『父性愛』……自分の息子や娘を想い行動するとき、その能力が大幅に上昇する。また、対象者の才能開花を後押しする」
オリジナルスキル!?
そんなもの、今朝ステータスを確認したときまで存在していなかった。
しかも、「自分の息子や娘を想い行動するとき」って、俺には息子も娘もいない……。
と、ここで、俺の傍らでまだ涙を浮かべている美少女と目が合った。
まさか……「パパ活」により彼女が「娘」と認識された!?
俺は、自分自身、彼女に驚愕のまなざしを向けてしまっていることを自覚した。
そしてミリアは、目を赤く腫らしたまま、きょとんとした表情で、俺のことを見つめ続けていた――。
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