現代ファンタジーラブコメが始まるはずだった奴らのメタい世界攻略

とらたぬ

最終回 準備ってそういうこと? お前だけなんかいい空気吸ってね?


 ――空からヒロインが降ってくるというのは見飽きた導入だけど、ついでに隕石が落っこちてくるのは、どうなんだろうか。


 結論から言うと、だいぶダメな方だと思う。何て言ったって、隕石である。

 それが異世界ものなり異能ものなり、特殊な能力という生存の余地がある世界観ならともかく、ファンタジーのかけらもない現代日本でやられると、


「さあて物語が始まりました! まずは主人公のターン!! 完膚なきまでに平凡な少年の上空からヒロインと隕石が降って来た!! ああっとしかーし! 主人公は動くことができないまま、激突ぅ――!! ヒロインもろともミンチになった――!!」

「メデタシメデタシ!!」


 何もめでたくないんだが……。

 ピンク髪の半透明なヒロインがY字で変なこと言ってやがるがコイツこんなキャラだったか、えぇ?


「おいヒロイン、お前台本とキャラ違い過ぎるだろコラ」

「はぁ? 真っ先にキャラ崩壊かました主人公が何か言ってやがりますね?」

「いや平凡な少年なら自分が死んだら回想しながら実況ぐらいするだろ」

「しねえよ! どこの普通だよ一体!」


 ポンコツ系天然ゆるふわ美少女ヒロインが何か言ってるがつまりアレだ。イレギュラーな事態が発生していた。

 そもそもどこから狂ったのかというと、隕石野郎のところからだ。そんな導入があるかバカ野郎。


 台本では、隕石が降ってくるのは三年後。平凡な主人公がヒロインの抱える問題に巻き込まれながらも力を得てそれらを解決し、高校の卒業式の後になってようやく起こるラストイベントだったはずなのだ。


 それが物語の導入に入ってくるってどういうことだよ。この時点じゃまだ主人公の世界観は現代日本ラブコメだから異能も魔術も呪いもねえんだよボケが。



 ともあれ、そんな感じで物語が始まってしまった。

 明らかにおかしな事態だというのに作家から連絡はない。


 ヒロインの方でも緊急用の編集コールを行ってもらっているのだが、とても"ゆるふわ"したやつとは思えない語彙が連発されているところからしてマーお察しである。フォントが筆系のだいぶ荒い奴になっていた。


「さて、ここまでの状況を整理しようか」

「そういうのは地の文でやれよ」

「あんま地の文続くと読みにくいって言われるかもしれねえだろうがピンクヌードル」

「F。ck」

「そこは丸じゃねえのかよ」

「うるせえいいサイズのがなかったんだよ」


 丸ってデカいのしかないんだよなあ。

 ともあれ、状況の整理をしていこうと思う。……"ともあれ"って便利だよな、なんか切り替わったみたいに見えるし。


「短期間で使いすぎ」

「うるせえ進まねえだろ黙ってろ」


 で、状況。

 ・物語開始と同時に〈空からヒロイン〉イベントがスタート。

 ・しかしなぜか〈ラストメテオ〉イベントも発生。

 ・結果、主人公とヒロインはミンチ。

 ・そして幽霊になりましたとさ。

 ・メデタシメデタシ!


 それでさっきまでは作家や編集に連絡とってなんとかして貰おうとしていたわけだが……


「作家には連絡がつかん。編集の方はどうだった?」

「……」

「おいヒロイン、聞こえてないのか?」

「…………」


 死んだか?

 思っていると、空中に文字が走った。


「なになに『お前が黙ってろって言ったんじゃねえか』だぁ? アホなのか?? 喋れよ!! 絶対服従とかそういう設定ないでしょ君さあ!」

「そう? なら言わせてもらうけど、今読者からのヘイトが一気に高まったわよ、あんた。超絶可愛いヒロインを虐げたから!」

「イラストないから今んとこ自称だけどな。キャラブレ激しくない?」

「模索中なのよ」

「つーか今、お前、魔術使ったよな……?」

「当り前でしょうが、私はもともと現代異能魔術ファンタジー側の人間だし」

「フフフ、フハハ、ファーハッハッハッ!!」


 一回やってみたかったんだよな、この散弾笑い。三段ね。こっちからだと誤字修正できないから大惨事になるなあ。

 ともあれ(本日三回目)、活路が見えてきた。

 静かに息を吸って、力ある言葉を紡ぐ。


「《我為すは土塊の外法》《大地の子よ、我が意を為せ》!!」


 言葉が奔るに合わせて、隕石によって抉られた地面が盛り上がり、巨大な人型を成す。ゴーレムを作るための呪文スペルだった。


「おい見たかヒロイン! 魔術だ! 俺が魔術を使えたぞ!!」

「なんかマッドみたいになってるわよ、あんた」

「うんそうだけどそうじゃなくて」

「なによ」

「ヒロインが魔術を使ったことで〈非日常との邂逅〉イベントが発生して、俺が魔術を使えるようになったんだよ!! わかるか!? 物語の方向性が見えてきたんだよつまり!」

「ははーん、なるほど、そういうことね。いいわ、こっちのほうでも最後に向けて準備しとく」


 よしよしよぅし!! 現代ラブコメ要素は消し飛んだけど、ゲーム世界でバグ使う系っぽいノリでいけるぞこれは!!

 となると最終目標はアレだな。物語のスタート地点に戻って隕石をどうにかして、本来のストーリーが始まってメデタシ! みたいな感じだな!

 じゃあアレだ。主人公の強化イベントを順にやって時間魔術使えるとこまでや――


【え、ボツ? ダメ?? ここまで二千字くらい書いたのに? カーッ、やってらんねえなあオイ! いいよもうわーったよ別の書けばいいんだろ書けば】


「メデタシメデタシッ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代ファンタジーラブコメが始まるはずだった奴らのメタい世界攻略 とらたぬ @tora_ta_nuuun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ