異様なダンスとサクヤの芸、そして…… Side:ピコ
ゆらりゆらり。風に揺れる凪ぎのようにふわりとサクヤは舞う。淡く半透明の桜の花が虚空を舞う。骸骨たちは静まってサクヤと桜花の舞を眺めた。
不思議な光景。時折勢いよく髪が靡き骸骨の下に桜の花が散る。花弁が骸骨に当たると、途端その骸骨は失っていた肉体を取り戻す。あまりの奇怪さ。しかしサクヤは平然と踊るばかり。骸骨だったそれは奇跡だと言わんばかりに喜びの叫びをあげる。
ワタシの知らないことが起きていた。
「おぉ、相変わらず桜様の力は素晴らしい」
観客は骸骨だけではない。それは徐々に肉体を取り戻していく骸骨たちに混じった、サクヤと血のつながった者たち。いつもは狂っている程に宴と称して飲み食いをしている連中が、不思議な力を持つはなびらを散らすサクヤを眺めていた。
そして以前喫茶店で出会った二人の人間の女子が怯えながら抱き合っていた。
そう、それが普通なのだ。
「よ、宵桜さん、なにを、なさっているんでしょうか」
サクヤを見るだけならば凄まじい美貌を持つ巫女による尊き神事。しかし周りを見てみよう、骸骨たちが埋め尽くすこの場所は邪神を呼び出す儀式をしている様にしか見えない。顔が良い分、サクヤはその生贄になっている様にさえ思える。
「これはね、私達の氏神様へ捧げる神楽だよ」
「あぅ、えぇ、その、なんか周りにいっぱい居ません?」
「おぉ、君はご先祖様たちを見れるのかい?」
青紫の子がサクヤほどではないにしても中性的な顔つきをした男に問いかける。そして発覚する骸骨たちがサクヤの先祖であることを。……いやまて、どう考えても肉の付いた骸骨はそれほど端正な顔ではないんですけど。絶対先祖じゃないでしょ。
サクヤはティータニアの如き美貌を持つ人間離れした人間。それ以外に佐倉家の人間だって異様に顔が端正。なにをどう見たって先祖じゃない。
「へ、へぇ、そうなんですね」
「『花』」
サクヤのその言葉を合図に毛先から大量の花弁が舞い始める。それはやがて平面に大きな花を描いた。見るからに魔力のようななにかが大量に込められていた。
青紫の子は曖昧な声を出し周囲の骸に怯える。茶色の子はサクヤの異様な行動に目を丸くしてうわうわ歓喜の声を上げていた。
「『鳥』」
「うわっ」
次の言葉を合図にサクヤの周りから突如小さな桃色の鳥が出てきた。見た目はピンク色で可愛らしいスズメ。それは花弁が集まり平面上に描かれた大きな花の絵をくちばしでつまんでいく。絵は失われ花弁の一枚一枚は空高く。
数秒後くらい暗い山奥に、その薄く輝く花弁がひらりひらりと舞い始める。あの鳥も生き物ではない。生き物であったものでもない。そこに魂の息吹はない。単なる作り物。その芸当に心底驚く。
途方もない魔力を無駄な芸につぎ込むあたりティータニアのヤツに本当似ている。このあたりで青紫の子もサクヤの行動に目を引かれていた。
「『風』」
暖かな風らしきものが勢いよく山の方へと駆けていく。うっすらと桃色の色付くそれはかなり勢いが強く、サクヤに捕まえられなければワタシも飛ばされていた。
サクヤの髪の毛が大きく靡きその風に乗って桜の花が飛んでいく。あの偽スズメが落としていた桜の花までもがその風に運ばれてどこか遠くへと飛んで行った。そして聞こえるなにかの叫び。おそらくは冥府からこちらにやってきたアンデット。それがまた先の如く肉体を取り戻したのだろう。
「『月』」
にこやかに微笑んだサクヤの意図は分からない。しかしその微笑みはいつものサクヤの悪戯っぽさが表れていて心が落ち着く。しかしその落ち着きもまた失われる。
その言葉で山奥へと遠く遠く運ばれていた桜の花弁は月となった。淡くピンク色に耀く月。もちろんそれは平面なのだろう。それに明らかに偽物。けれど今日は新月、それは月を失われた世界を淡く照らしてくれる。そして骸は歓喜した。
「彼らは月を見ることも太陽も見ることも出来ない」
サクヤの顔には今度は憐憫があった。せわしなく動く表情にどれが真に思っているものなのかもわからない。けれど偽物の月に号哭する彼らの姿は憐れだった。この世界の死者は冥府の国で生き続けるというのに、月も太陽も見れないのかと。
「こうやって神楽を踊るのも一年に一度。だから月を見せて上げなきゃ。ボクが出来ることはこれくらいだからね」
その姿は聖職者としてふさわしい慈悲に溢れていた。いやそもそも見た目が人間離れしている。癪だけど神々しいと言っても間違ってはいない。そんな荘厳さがある。
踊りも終わり。頬を伝う汗を拭ったサクヤはワタシにそう教えてくれた。人間には見えていないのにそんなことをして大丈夫なのか、と思って周りを見回す。人間たちは見えていないのか分からないが特に反応はない。しかし骸共はワタシを見て「アァ、妖精さまじゃ」となにか気持ち悪く手を伸ばしてくれる。
なんでこいつらワタシの姿見えてるのよ。人間じゃないから? 骸のくせに?
「そして満足をさせないと怒るヤツらもいるから」
手を伸ばしてくる骸共に、なに指とは言わないけど指を突き立てる。結構この世界では良くない仕草であるらしいけれどこいつらはなんの反応も見せない。この指突き立ても結構最近のものなのかもしれない。こいつらが生きてたのはたぶん結構前だし。だってよくわからない服してる。
ただちょっと考えてみたら面白くもなって来た。この世界ではワタシたち妖精は信仰対象にもなる。サクヤの意味不明なくらいに不遜な態度がイカレているだけで、本来はこうやって手を伸ばされて崇められるのが正しいのよ。
「へぶっ」
骸のくせになかなか見どころのある連中じゃない。鼻が高くなっていた。連中も頭が高いがまあ許してやろう。なにせワタシは心優しき妖精様なのだから。空中で腕を組んで見下していた。そんな頃、ワタシは何かに叩き落とされ、そしてなにかに絡まった。ふわふわななにかに翅が絡まって動かそうとしても動かない。
というか目の前の毛だけでなにがあるか見えない。なんだこれ。
「さ、サクヤアンタなにしやがったのよ! こなくそ!」
「い、いやぁ、その、ボクじゃないんだけどね……口整えようよ?」
なにかまごまごしながら変なことを言ってくるサクヤ。それどころか被害者たるワタシに口を直せと言いやがる。少し感心してあげたと思ったらすぐこうだ。やっぱサクヤは下衆で度し難いクズだ。聖職者なんて全然似合ってないわ。
ぺっ。……まあこの場所で唾吐いたらとんでもないことになるからしないけど。
「このビッチ男女! ワタシに変なコトしといてなによそのく……ち?」
「ふん、羽虫がくっついておると思ったら、こんな悪童がおるとはのう」
なにかの毛の中で藻掻いていた。その瞬間、ワタシは何かに掴み上げられてようやくその毛から逃れられた。そしてワタシを掴み上げたのは滅茶苦茶なことを言っていたサクヤではなく、見たこともない女だった。
それはすっごい露出の多い格好をしていた。胸でっっっか、牛人間かよ。
あと誰よこのビッチ。
「ふふ、羽虫が妾を淫蕩で男漁りにふけっているとでも……潰すぞ小童」
「ひっ、ひえぇっ、ひっ」
顔はサクヤとすごく似通っていた。けれど髪色は真っ白、頭からは耳を生やしている。背後には大きなしっぽがいくつにも分かれて生えており、ゆらゆら揺れていた。その上でサクヤ以上の真白な肌には青筋が浮かんでおり、途方もない魔力がワタシの身体を襲う。人間には魔力を感知できないから分からないと思うけど、この露出度の高い女の魔力は化物レベル。死にそうで震える。
「お狐さま、許してください。その子あんまり賢くないんです」
アンタよりも絶対ワタシのが賢いから! ばーかばーか!!
「そのようじゃの」
ちからこめないでおねがいおねがいおねがい。妖精だからワタシ。
「口だけなんですその子」
「あ、あぶなかったっ、牛女に、殺されかけた」
放り投げられサクヤの手元に落ち着いた。本当に殺されかけて安心して、またひどいことを言ってくれるサクヤを睨む。そうするとぐりぐりぐりぐりワタシの頬を押してくる。なんてことをしてくれるんだと殴ってやるとサクヤは顔を近づけてきた。
「馬鹿なの、そんなに死にたいの」
「……だまっとく」
ま、まあここは、ワタシと契約を結んだサクヤの話を聞いても吝かじゃない。
「狐じゃたわけめ。あと、朔夜も妾を何だと思っておるんじゃ」
なんか言っている牛女に震える。
「小童を殺すわけもなかろうに」
はぁ、と肩を竦める。サクヤと似たような仕草。
唯一違うとしたらでかい乳がふるんと震えた事だろうか。
そんなことを考えていたらすごい形相で睨まれた。やっぱり心読まれてる。
まともそうな青紫の子を見てみたら、胸をペタペタ触ってた。貧乳ちゃん可哀想。
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