ゆき
あの人だ。川崎あつき、と言っていた。いつも薄暗い早朝にこの家の前を通っている。彼はアルバイトがある、と言っていた。まだ薄暗いのに、寒いのに、自分も学校があるのに、お金を稼がないと家族が、弟たちが暮らしていけない、と言っていた。私にマフラーを貸してくれた。熱かった。私は寒くないのに、あなたは寒いはずなのに。
「ゆき…、あいつか」
お母さんがあの人を見つけた。私があの人のことを考えているのがわかったのだ。私のことはお母さんにはすべてお見通しなのだ。お母さんが氷柱を手に持った。
「先にあいつをやろうか?ゆき。お前の怒りが強まれば…」
「やめてください。私はできます」お母さんが全部言う前に遮る。私には、この道しかない。お母さんの分身として生きていくしか。お母さんは大きなため息をついた。目には憎しみがみなぎっているのがわかった。
「少し頭を冷やしてこい。決行するまでに時間はないから」
「はい」
あの人が進んでいった道を私も追う。自分でも何がしたいのかわからない。何もできない。彼はアルバイト先のお店で開店前の手伝いをしていた。知らない女の子と笑っている。
これで終わりだ。さよなら。
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