シュガー&ソルトと世界樹機関(ユグドラシル)
霜月あおい
世界樹機関(ユグドラシル)
世界樹機関。通称ユグドラシルと呼ばれ国民から信頼されている異能力者で形成された国家組織。かつての世界は、異能力とは空想の世界と考えられていた事がほとんどだったようだが、それは遥か昔の時代の話。
人々の生活と異能力者の存在は切っても切り離せないこの時代。ただし、異能力の発現条件、メカニズムは一切不明。先天的に持つ者もいれば、後天的に発現する者がいる。
分かっていることは、後天的に発現した者の中に、死の淵に見ることがある“走馬灯”を経験している者が多いことだった。無能力者が能力を手に入れようと、わざと瀕死状態になる者が出ないように、この事実はユグドラシル内のごく限られた者達で伏せられている機密事項となる。
異能力に目覚めた者は、その力を悪として駆使するか、善として駆使するかで分かれる事がほとんど。ユグドラシルは、前者の存在を違法異能力者(通称:ヴィラン)と呼び、無能力者をヴィランズの魔の手から守る組織として名を馳せていた。
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ユグドラシル中階層に本部を構える治安維持部隊(通称:OSIM/オーシム)の食堂内。昼食時の人が混み合う中、金バッジを身に付けたとある2名が談笑しながら歩いている。2人を目にした者は恐れ慄き、道や順番を譲っていた。
「美しい……あれが
「すごいオーラだぞ……」
羨望の眼差しを向ける隊員達。
「横の眼鏡の人が、昨年隊長になったばかりの人だっけ?」
「そーそー、
「入隊後最速で隊長になったって話題だよな」
「でもあんまりパッとしないよねぇ」
空嶌の悪口が聞こえた鈴宮は、ギロリとその方向を睨む。睨まれた隊員は萎縮して固まり、冷や汗を垂らしていた。しかし空嶌はそんな鈴宮の行動を静止し、猫背でのそのそと受取り口に向かう。
「鈴宮、お前は短気すぎるよ」
「アンタこそ、隊長の風格がないから他の隊の雑魚から舐められるのよ」
「いいんだよ、僕はそれで」
「……あっそう」
鈴宮は不満そうに空嶌の背中を睨んで溜息をついた。
「そういえば、今日は忘れずにバッジ付けてるなんて、珍しいじゃない」
「今日は統括に呼び出されてるんだ。煩いからなあのジジィ」
ユグドラシルの中でも階層が分かれており、隊服の胸ポケットに宝石の装飾がついた階層バッジを付けるのが規則となっている。
〈階層早見表〉
白バッジ: 新人隊員
→入隊したての隊員バッジ。装飾が無い。
緑バッジ: Dランク任務をこなせる隊員
→翡翠の宝石が施されている。全体の約40%を占める。
黄バッジ: Cランク任務をこなせる隊員
→琥珀の宝石が施されている。全体の約30%を占める。
青バッジ: Bランク任務をこなせる隊員
→サファイアの宝石が施されている。全体の約20%を占める。
赤バッジ: A〜Sランク任務をこなせる隊員
→ルビーの宝石が施されている。全体の約10%を占める。
金バッジ: 各部隊の隊長を担う希少なバッジ。
ゴールドとダイヤモンドの宝石が施されている。
金バッジを付けている2人は、オーシムの中でも最高ランク、隊長として君臨している存在で、周囲からは畏怖、羨望の対象となる。そんな目立つ2人は、食堂で注文した食事を手に持ち、見晴らしの良いテラス席で食事を取ることにした。先に座っていた隊員が居たのだが、鈴宮の無言の圧でいつの間にか居なくなっていた、というのが正しいが。
「今年はオーシムに入隊する奴が5人もいるらしいわね。うちの隊は1人。もちろん女の子。アンタのとこは?」
鈴宮は周りの男の視線を受けつつ、優雅にクリームパスタを口にしながら質問をした。
鈴宮の凛とした表情が、濡れたような黒髪の綺麗さを引き立たせている。モデル並みのスタイルで佇む姿はかなり絵になっており、普通の男性なら目の前に居たらときめくであろうシチュエーション。しかし空嶌は特にそんな素振りを見せることなく、淡々としている。
「2人だ。面白い能力だと思う」
空嶌は仕事用のタブレットを懐から取り出し、新入隊員の情報が書かれたページを開くと鈴宮に渡した。同時に、ずずずっと低い音を立てて激辛醤油ラーメン(超特盛)を頬張り、眼鏡はすっかり湯気で曇っていた。正直言って隊長のオーラがある鈴宮と違い、あまりパッとしないのが事実だが、本人はまるで気にしていない。
鈴宮はタブレットを受け取ると、赤ワインを口にしながら眺めた。
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空嶌隊
新入隊員①
名前:
年齢: 18
性別: 男
生年月日: 9月8日
血液型: O
異能力:
ランク: 不明
カテゴリ:不明
新入隊員②
名前:
年齢: 20
性別: 男
生年月日: 12月12日
血液型: A
異能力:
ランク: A(最大出力時)
カテゴリー: 攻撃型/近距離
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「……何よ、この
鈴宮は怪訝な表情を浮かべ、ワイングラスをコトリと静かに置きながら空嶌を見る。空嶌はすでに激辛醤油ラーメン(超特盛)を平らげており、自身の眼鏡を丁寧に拭いているところだった。
「他に類をみない能力でね。まだ本人も上手く能力が使える訳じゃないんだが、生存本能が働いた時に彼しか出すことができない特殊なアドレナリンが分泌される。すると身体能力がかなり上がるのと同時に、治癒能力が発現する。いつも使えればいいのだが、未だに使いこなせていないようだ」
「なるほど、めんどくさい新人ね。研究者あがりのアンタなら、うまく使いこなせるんじゃない?」
「間違いなく僕の隊が向いてるだろう」
鈴宮は再度ワイングラスを持ち赤ワインをグッと一気に飲むと、華奢な指でフォークを持って空嶌に向ける。
「ところでアンタ、もっとゆっくり食べなさいよ。モテないわよ」
「……別にモテたくないんだが?」
翌日、空嶌の食べるスピードがいつもより少し遅くなっていたらしい。
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