第69話 羽の無い人型
今日は紫波町二日町北七久保にお邪魔しています。
現在みちるさんがゴブリン、オウルベアの混成部隊と交戦中。
その圧倒的な魔法で蹂躙しています。
現場からはエステルこと柿屋敷がお伝えしました!
「エステル見てるー?」
「みてる、しゅうちゅう」
心のなかでリポーターごっこをしている自分が一番集中していない。みちるの活躍を見ながら水筒を傾け、お茶を飲む。飲み口が狭いから香りがイマイチ広がらない。
高校跡地近くの住宅街。昔に比べてだいぶ空き家が増えたが、それでも紫波町では人口が密集している方の宅地だ。木が少なく、空からだと相手が丸見えなためみちるの一方的な攻撃で敵が総崩れになっていく。手を出すと邪魔になってしまうため、食堂だった建物の巨石に腰掛けておやつの続きを楽しんでいる。油断と言われればそうなのだが正直やることがない。
お茶も飲んでしまったので周囲の警戒に移行する。上からだと見えにくい空き家や防風林、林の中を重点的にうろつく。
「うわぁーーー!」
近くで悲鳴が聞こえた。声の方へ駆け出す。生け垣を飛び越えその声をたどる。一戸建ての庭、バラのためだろう小さな温室の前。そこに少女が立っていた。小刻みに体を震わせている。どうみてもシルエットがおかしい上に血塗れだ。
超嫌な予感。
少女の向こうには腰を抜かし、青ざめたおじいさんが口をパクパクしている。
「おじい、おくに!」
声をかけるがショックでこちらに気づいていない。こちらを見たのは少女の方だった。口には赤ん坊が咥えられている。
思わずたじろいだ刹那、少女が飛びかかってきた。鼻息は荒く頬は血の気が引き、琺瑯や白磁器のようになっている。
人型だ。
白目までが黒く染まり、血のようなものを流している。カウンターでデコに一撃食らわせて落とした赤ん坊をおじいさんの方へ投げる。緊急事態だから許してほしい。受け取ったおじいさんが嗚咽を漏らす。
態勢を立て直した鬼の形相の少女は赤子めがけて飛び掛かろうと足に力を籠める。させる訳にはいかないと足を払い、落ちた顔へ踵を食らわせ叩き起こす。
うん、硬い。
追撃の為、拳を握りこんだ瞬間目の前に影が迫る。慌てて後ろに飛び退くと少女の手が蛇に変わり鎌首をもたげていた。リーチが変わって動きが読み難い。白い肌も相まって神の使いみたいだ。人を食う神なぞ邪神だから倒さねばならないけど。
とりあえず生垣の枝を折って蛇に投げつける。何手か考えたが踏み込んで来たので頭の位置に蹴りを置いておく。すると向こうから足にヒットした。体勢を崩しているのに少女の左手が首を噛みに来る。あの蛇自立した意思がようだ。体勢がほぼ伸び切っていたので楽に避けられたがあの蛇の目も有効なようで死角が少ない。
「依子!」
そのときおじいさんの叫びが蛇の注意を引いた。
「せい!」
女性のわき腹に渾身の左を打ち込んでぶっ飛ばす。自由落下してきたその顔面に止めを入れようと拳に力をこめる。
「待ってくれ!」
おじいさんの声にハッとして見送ってしまった。どべっと落ちた少女におじいさんが駆け寄る。
「依子!じいちゃんだ!依」
「うらああ!!」
咄嗟に顔面を砕く。おじいさんの嚙み千切られた腕を服を裂いて止血する。最低だ。
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