第61話 川原は足場が悪いけどそれは相手も同じこと
川原、それは沢山の石が転がる武器の宝庫。幽鬼に投石が有効というのは自らの手で実証済みだ。泥岩なんかだと投げた瞬間砕けるのであまり適していないが、距離によっては散弾みたいに弾けるので乱戦に強い。玄武岩や花崗岩みたいな石は硬く、投げた時に砕けないので遠くの敵にも有効だ。指をひっかけて回転を付けてやるのがコツ。以前は無意識に体が勝手にやっていたが、意識してやるようになったらド真っ直ぐ進むようになり貫通力も上がった。こんな肩で野球をやったらキャッチャーが死んでしまうから野球選手にはなれない。力をこめて投げると新幹線がトンネルを抜けた時のようにドンっと響く。
「あ、いっせき、にちょう」
出てくる幽鬼が一直線にダムへ向かうためうまく並ぶと貫通して同時に処理できる。走りながら敵を相手するには投石が一番いい。というかそれ以外遠距離攻撃がないからこれしかできない。
それにしてもダムへ向かう幽鬼どもはこちらへ反撃もせず、見向きすらしない。超不気味。もう一度狙撃しようと腕を振り上げた瞬間遠くから光るものが見える。超嫌な予感。
「gygyaaaaa!!」
的中。翼がぴかぴか槍もピカピカ電飾みたいな天使が鬼みたいな顔で飛んでくる。兜をかぶっていないから表情も見える。ちょっとたれ目で可愛らしいが見えないほうがよかった。めっちゃ怒ってる。嫌だなぁ・・・人の顔がついてるってだけでも忌避感があるのに怒ってるとか近寄りたくなっぶねぇぇぇぇえ!!槍!1mくらい地面に刺さってる!軽く投げたように見えたのにやばい。しかも残弾無限? すでに次の槍が手元に輝いている。
とりあえず肉薄する前に石を投げつけて出方をうかがう。が、全て弾かれる。やっぱり他の怪物系の幽鬼よりも人型は厄介だ。しょうがないのでポケットに数個石を詰め込み地面を蹴り、こちらから接近する。
槍はこの間の戦闘で少し触ったから2,3手ほど想定しながら振れない距離まで詰め寄ってやる。2mほどの長さの光る槍は行き場を失い人型はそれを手放す。
しかし、次の瞬間人型の腰のあたりから新しい槍がにゅるっと飛び出してこちらの腹をかすめる。紙一重で避けたが人型にちょっとした間合いを与えてしまい、棒術の要領で細かく槍が襲ってくる。巣子の人型よりもスピードがない分手痛い一撃はまだない。せいぜい服からフリフリが無くなっていくだけだ。フリフリ好きのみちるが見たら泣きそう。
それにしてもこっちが食らわないのは良いんだが、こちらの攻撃もさほど効いていない。腰の入った一撃を食らわせてやりたいが槍の間合いに入るのが中々に面倒だ。遅いと言ってもしっかり速い。何をいってるか分からないと思うが、とにかくそういうことだ。
しかし、ここでやり合っていても援軍は期待できない。自衛隊は先の発電施設を防衛中だし、みんなはダムを守っている。普通の幽鬼は削ったがそれでもかなりの数が向かっていたからこいつを引き連れて合流するわけにはいかない。
はー…… どうするべきか。まぁ、やるしかない。
二手三手重ねるたびにこいつが前の奴よりも槍の使い方に慣れている点がうかがい知れる。手の位置を自在に変えて間合いを図り難くする点や思い切りの良い踏み込みもそうだ。まともに食らえば穴が開く。だが、こいつは前の奴よりも真面目だ。いや、何言ってるか自分でもわからんが”頭が固い”ってのだろうか? 前の奴が羽を重心にして回避して見せたような柔軟さが足りない。行儀がいいって言えばいいだろうか? だから二、三回叩いてパターンを与えてやれば不意を突くことが出来る。
「kyaGYyyyaaa!!」
何が言いたいか分らんがどうせ文句の類だろう。意思疎通ができないってのは悲劇だ。もしこいつが熱い愛の告白をしているならこれ以上やり合う必要はないのだから。まぁ、たぶん死ねとかなんとか言ってるようにしか見えないからどうでもいい。
とりあえず状況を変えるべく取り出したるは先程拾っておいた石。両手に握りこんで敵を叩く。この幽鬼の癖は前に出て避けること。一歩も引かずただ前に進む戦国武将みたいな性格の持ち主だ。むかで? だから少し誘導して前に踏み込む瞬間に石を落としてやると勝手に激突する。
「Ga!」
今までの幽鬼と違ってよくしゃべる。石に激突してよろけ、悲鳴のような声を出した。立て直す時間を与えてやる必要はない。ただ打ち込むだけだ。お姉ちゃんが今度は妹になれるように。
私は何を? いや、考えている暇はない。
「うらあぁぁぁぁあ!!!」
今度は油断なく、隙を与えず、水が流れるように、あるべき場所へ。魂の安らぎを。
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