第59話 無駄足

「…し、ぬ・・・」

「も、もうちょっとだから!ごめんっす!!」

 何度目かわからない謝罪を受けながら襲い来る眠気と戦っていると、ようやく目的の施設に到着した。途中でおろしてくれても良かったのに結局ここまでノンストップ。もしかして嫌われている?

 様子見という事で対岸に降り立ち、震えが止まらない体をさすりながら施設を見る。震えが止まらないってことはまだ大丈夫だ。きっと。

「なんか……自衛隊こっちの発電所に来てないっすか?」

「き、てる」

 歯がかちかち鳴る。寒い。

「ぎゃ!!」

 リンの首筋に手を突っ込んで暖を取る。さすがに女性の背中に手を突っ込むのはかわいそうだからこれで許す。

「それにしても無線くらい入れれないんすかね?」

 首筋を狙った攻防を繰り広げながらリンがぼやく。連携あればこそ今までの難局を切り抜けてきたのだからリンのお冠も納得だ。

 とりあえずたつなに電話をかけて自衛隊がこちらに来ていることを伝えておくため電話を取り出す。

「・・・つながらない」

「忙しいんすかね? うちらの無線じゃ届かないし… どうするっすか?」

 二人がどうにかなっているとは考えにくいが手が空かないほどの敵が現れたのかもしれない。しかし、こちらにも幽鬼が複数出現しているらしいから放って帰る訳にもいかない。しょうがないのでリンに飛んでもらう。一人で居残りちょっとだけ恐怖。

「りん、もどって」

「んー…… まぁ良いっすけどね。とりあえず怪我しそうになったら自衛隊おいて全力で逃げるんすよ? じゃないとまた姐さん泣いちゃうんすからね!」

 頷くとリンはあっという間に空のかなたに消えて行った。一人で逃げろってのはあれだが、たつなにあまり心配はかけられん。

 それは置いておいてせめて対岸に渡してもらいたかった。既に影も形もないから呼び戻すこともできない。ここまでの移動、手加減していたんだ。

 ぼんやりしていてもしかたないのでバシリスク走法で川を走り抜ける。右足が沈む前に左足をってな感じだ。足には自信があったからやってみたが、冷たい。どうしたって水が跳ねる。川を渡り終える頃には全身ずぶぬれで辛い。

 とりあえず魔法を掛け直して乾いた服を手に入れる。これだけはあの悪霊に感謝しなければならない。いや、あいつが余計なことをしなければ撥水性の高い防寒服とか着れただろうからやはりだめだ。恨む。火だ、火が欲しい。

 寒さに耐えながら自衛隊の89式装甲戦闘車をめがけて走る。止まったら死ぬ気がする。

「子供!?」

驚く隊員達に頭を下げて挨拶する。

「まほう、ごにょごにょ、ぶたいの、えすてる、です」

 まだ自分から魔法少女を名乗るのが恥ずかしい。他にも有っただろうになぜ魔法少女? あと名前が恥ずかしい。皆に呼ばれるのは何とか慣れたんだが自己紹介、これは突き刺さる物が有る。

「あ、あぁ! あの人型を倒したって子供たちか!」

「あ、はい、あってます」

 有名になったものだ。

「こ、こんなに小さかったのか?」

「し、失礼ですよ茂木さん!機嫌損ねたらヤバイですって!」

 うん、この人の方が失礼だと思う。茂木と呼ばれた隊員は構わずに続ける。こっちの人の方が好きだ。

「君らの、なんていったか…… 去石!主席研究員とか名乗る人からの要請で二手に別れることになったんだが、聞いてないのか?」

 寝耳に水。青天の霹靂。なんでそんなことをあいつが要請する権限が? それよりもこちらに何の連絡も無いとか悪意しか感じない。私の顔を見て察したのか茂木が続ける。

「なんでも向こうの方が量が多いらしいじゃないか。戻った方がいいんじゃないか?」

「こっち、は?」

「想定より少ない。まだゴブリンが15くらいだ」

「もどり、ます」

 手を上げて答える茂木に頭を下げて全力ダッシュで戻ることにした。

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